その答えに触れて | ナノ


▼ 31.交換っこ

「ねえ。もえ?えりかちゃんって相当偉い人…ってこと?」
「なんで?」
「珍しくリボーンがあんな事言うから」
「うーんとね、極道の娘っていうウチの立場じゃ、会談の時に物を言えないくらい差がある」
「そ、そうなの?」
「こことは別の遠い場所で、それこそ綱吉君の立場なんだよ。規模はボンゴレと同格」

まさに裏社会を牛耳る勢力を誇る独立組織だ。死体が見つからない、秘密裏に排除された勢力がいたならそれは彼らの手が回っていると噂される程。縦社会を重んじ、幹部の殆どが血族で構成されている。基本外部に干渉するのをよしとしない古参の大ボス。元締である。綱吉君と決定的に違うのは今の今までカタギとして生きた彼と違い、幼い頃から厳格なる教育を叩き込まれていること。その誠心もまた然り。

「えりかの背負う刀はあっちの御家の誇りでね。紛失でもしたら死んで詫びても足りないくらいの代物なの」
「ま…前にそれで高い所の物引っ掛けてたんだけど…」
「あの通り、ガサツな生き物なもので」

刀にかける誇りはないに等しい。あれはもしもの時の首領たる自分を守るか切るかの道具だと。かなり昔に聞いたことがある。裏を牛耳る大元締めが無様に死ぬ事を許さない。潔く自分の首を跳ねるか相手の首を跳ねるか。その為だけにクソ重いものを背負っているのだと悪態をついていた。その刀の重さというよりも、その刀に乗った意味こそが重荷であるのだ。

「今までずっと一族を背負って立つことを強要されて育ったえりかに友人として共に戦ってほしいと言っても綱吉君の言葉は弱いと思う」

獄寺や山本、笹川兄とは違うのだ。カタギとして育った経験のないえりかに、"友人"としての定義は薄い。盟友か、はたまた駒か。ボンゴレボス候補の綱吉君の言葉はどちらにでも傾く。現在勢力を持つことの出来ないえりかだけど綱吉君の雪の守護者としての一角を頼むのであれば、慎重にいかなければ彼女のプライドを潰す。

「ウチは昨日言ったように、綱吉君を大将として恩に報いるつもりだよ。」
「……うん、ごめん。ありがとう」

リング、受け取ったから。リングボックスに埋まるそれを見て、なんだか頑張った甲斐があったかなって思う。

「でも、嫌だったらやめてもいいんだよ」
「ううん。むしろ感謝してる」
「え?」
「この機会がなきゃ、いつまでも逃げてたと思うから。」

自分の立場から。環境から。見て見ぬ振りして自分には関係がないと言って。

「ウチは綱吉君の風の守護者になるよ」



「おっ。よお!今日は帰ってくんの早いのな」
「山本の対決だって言ったら早く帰れって追い出された。」
「はは!いい友達じゃねーか!」

山本が竹刀を担いで道場に篭っていた。今日が雨戦。昨日今日と続いてなんて心臓に悪い……。もえは背中に穴があくという大怪我を負い、病院に強制収容されたとリボーンがニヨニヨと笑いながら教えてくれた。

「調子はどう?」
「ん。絶好調!なんつーか俺、相手が強けりゃ強い程ゾクゾクすんだよな。武者震いっての?」
「なにそれ尊敬する」
「お前は?ゾクゾクしねえ?」
「うーん…あたし基本記憶あんまりないから」

昔からなんだけど、自分より上だと思う相手とやり合う時、必ずと言っていいほど劣勢に追い込まれるにも関わらず、次に意識が戻ったら完膚無きまで叩きのめしている事が何度かあった。……こっちにきてもそうかな。城島君と柿本君と最初ぶつかったときも、記憶がない。残っていたのはポケットに入ってた麦チョコだ。美味しくいただいた。

「思い出せねえくらい一瞬ってことか?すげえ!」
「いや。自分で分かんないことは凄くないよ」
「そだ。これさ!交換っこしね?」
「交換っこ?」
「お互い無事でいられるように!な!」

取り出したのは神社で一緒に買ったお守りだ。山本のは青。あたしのは白。カタギの間のおまじないは知らないけど、山本がやりたいなら。

「いいよ。交換っこしよ」
「ハハッ!シーブリーズみてぇ!」
「んなっ……!」

山本家のテレビCMで見た。瞬間汗キュンとかって言って確か好きな人同士でキャップを交換っこ……なわけあるかああああ!!!帰ってこいあたし!!もう、本当に山本といるとペース崩されまくり!

「う、えと、あの…今日、頑張ろう!」
「おう!」

白いお守りはなんだか山本にしてはシンプル過ぎて。やっぱり無色じゃない。明るい色が似合うんだろうな。それこそ深く広い海みたいな。

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