▼ 2.お人好しな君と天然ボーイ!
「…どうしようね」
「知るか…もういいよ。好きにして…」
完全に思考がオーバーキルしたえりかは目の前にぞくぞくと出される料理をただ遠い目で見つめている。現実主義者にこれは惨たらしい状況だ。沢田家に、お邪魔している、この状況が。
「あなた達の制服って見たことないけど、どこの学校なの?」
「あー…いや、ちょっと訳ありで…あの、ここがどこだか教えてもらえませんか?」
「訳あり?…そう。ここは日本の並盛よ。」
料理をつまみ食いしながら問うビアンキさんになにも返せない。エビフライを次々艶のある口に放り込みながら事もなさげに答えられた。
「そ、そうなんですか。はは…」
都道府県名一切なし。いや、それより今の状況についていけていないのはウチも同じだ。足元には弁髪の子どもと牛の子どもがバタバタ走り回っている。いや、本当に…まじで。
「とにかく、ママンを助けてくれたこと感謝するわ。ありがとう」
「あ、いえ!たまたま、その…拳が当たったといいますか…」
「いいえ!この子のパンチ、すごかったんだから〜!こう、バキッとね!」
沢田さんがお玉片手に振り向いて右拳を固めてパンチの真似をした。
「こっちの子は背負ってる棒でごんって!!」
沢田さんは棒、と言っているがこれはえりかの命より大事な刀である。紛失すれば死んで詫びても足りないほど、やばい代物だ。今はちゃんとした入れ物に入ってるから棒に見えても仕方ないけど…。
ガチャ。
「!!!!!!!!」
沢田家の玄関を開ける音。何も言って入ってこない辺り、絶対身内だよね!?身内しかいないよねこれ!?もう彼しかいないよね!!?新聞ですー、とか宅配ですー!とか言ってないよね!?
「ただいまー」
あああああああああああああああああ!心の絶叫虚しく、リビングの扉が開けられた。
「うわっなんだよこの料理!今日何の日!?」
「あらおかえりツッ君!この子達はね!今日私が−」
沢田さんの声が遠くなる。逆立った無重力の琥珀色の瞳と髪。優しそうな顔のその少年と、ついに目があった。
「…こ、こんにちは」
「え!?あ、こ、こんにちは」
しかも…挨拶交わした…。
「えっと…、母さん助けてくれてありがとう。俺、沢田綱吉です」
「い、いえいえ!!!たまたまでッ!!ウチ、郷士もえです!」
2人して何故か畏まるのが可笑しいのは分かっているけど、信じられる?目の前に、天下の、沢田綱吉がいるんだよ…?
「あの…そっちの子は?」
「ご、ごめん!えりか!挨拶!!」
えりかの頬っぺたを持ち上げて彼の方に向ける。見る見る内に目が見開いていく。
「ぜっったいに…」
「え」
「認めないッッッッッ!!!!!!!!!!!」
「えええええええ!!!!」
ダッシュで沢田家を出て行ったえりかに、綱吉君唖然。でもちゃんと、えええって反応はしてくれていた。
「も、申し訳ないです!ホント、いや。ひ…人見知りっていうか!?初対面の人と対面するとあがっちゃう子なんです」
「そ、そうなんだ…、追いかけなくて、いいの?」
優しいッッッ!!!
「お、追いかけます…。あの、沢田さん、」
「…ダメだ、母さん夢中で聞こえてないや。俺も一緒に行くよ!1人より2人のほうがいいよね?」
「ありが、とう」
照れくさそうに笑った綱吉君のその笑顔は、果てしなく優しい。何者でも許してしまえるような…そんな笑みだ。
「…嘘でしょぉ〜…」
誰か嘘だと言ってほしい。てか。言え。さっきからものすごい事ばかり起きているんだけど。有り得ないことが起きちゃってんだけど。これは…そうだなぁ。手の込んだ大型のコスプレサミットってところに違いない。きっとそうだ。さっきの沢田君もビアンキさんも激似のコスプレイヤーさんに違いない。刀を両腕に抱えながら街道を歩く。…いま、笹川京子さんに似た超絶美少女とすれ違ったけど、たぶん彼女もコスプレイヤーだ。頼むからそうであってくれ。前をよく見ないで歩いていたばっかりに、あたしは通行人に突撃してしまった。
「あ、すいません。前見てなくて」
「ん?おう!大丈夫だぜ!前はしっかり見て歩こうな!」
な…………。
「お!なんか落としたぞ?これ、もしかしてバッドか?お前野球とかすんのか!」
あたしが思わず落とした命より大事な刀を拾い上げて笑う。野球バッドとか天然まるだし。その清々しいばかりに眩しい笑顔はあたしが大好きな山本武そのものだった…
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