その答えに触れて | ナノ


▼ 28.仁義の極道らしく

チュイン!互いの撃った弾が互いの弾を粉砕させる。戦い方といい拳銃二丁の種類といい……奇妙である。なにか調べられでもしたか。でもだからといって同じにする意味が……。この世界に浸っているのなら自分独自の戦闘スタイルを持っているはず。もえのスタイルに沿うのは多少の混乱は与えられても決定的な勝敗には繋がらない。むしろ相手のスタイルを真似たなら、扱い慣れていない物をわざわざ使うなんて馬鹿も同然だ。そうしなければならなかった理由は?いや、そうせざるを得なかったのか?

「ガラも同じ、戦闘スタイルも同じか。確かにマフィアの世界では専ら銃を使う奴が多いがここまで被るのは稀だぞ。向こうの風の守護者も、ちと妙だ。…お前も分かるんだろ?」

リボーンの言う通り。生身の人間という感じがしない。沢田君達には分からなくてもあたしにはわかる。可笑しい。あの生気のない表情に血色の悪い肌……

「うん…分かるよ。少しだけ」
「まるで死んだ人間が操られてるみてーだ」
「そんなこと、可能なの?」
「不可能じゃねーぞ。ボンゴレの技術を駆使すればな」



「あーっ!もう!髪はぐちゃぐちゃだわ風鳴りが五月蝿いわ!!」

バトルフィールドというか、ただの嫌がらせじゃないかというレベルで対戦相手よりもこのオートで動きまくる棘がうざったい。

「っぶなッ」

発砲音に体を仰け反らせてなんとか回避。というか、さっきから対戦相手の…スカルピオーネ?とかいう女の子の様子が可笑しいのだ。守護者に選ばれたってことはヴァリアーの幹部並に戦闘力を誇るはずなのに、殆どウチと大差がない。それどころか、

「なっ!あいつ棘をものともしてねえ!!」
「なんで……」

棘を避けることすらせずに真っ直ぐウチだけを見て向かってくる。暴風の吹き荒れる中、よくよく見ればウチよりも棘のダメージがでかい。

「…最悪、あんたは、勝てばいいだけってこと……?」
「…………それが、至上なるボスからの命令」

弾をチャージし終えた。空になった弾薬が風にさらわれ飛んでいく。

「あなたからリングを奪えれば……それでいい」
「あんたはどうなるの、スカルピオーネ。」
「わたしは………」

っ来るか。構える銃口に身を引いた瞬間。スカルピオーネの目がちらりとウチの後ろを捉えた。

「っあ"……っ!!」

くそ……やっちゃった。このくそ棘。機械とはいえ、邪魔し過ぎじゃない?まるで対戦させてくれないんですけど。もう見事に邪魔しちゃってくれてんだけど。スカルピオーネ…ウチの後ろに迫る棘に気付いていたんだ。もう、本当にウチは弱いなあ。

「…風の守護者の使命は、"ファミリーを駆け抜けし稀代の鼓舞"。…風の戦い…わたし達の戦いこそが。ファミリーを鼓舞する……それこそ死んでも」
「……よぉく回る……お口……だこと…」

「やばいよ!もえ、背中に棘が!!」
「見た目通り深けぇぞ」

あぁ、ほら。本当に畑違い。今までの逃げてたツケが回ってきたんだろうね。権力の影に隠れて極道のその娘のくせに、見捨てることばかりして。ろくに現実を見ようとせず、こうやってドンパチに向き合う度胸すらなかった。そんなウチに守護者なんて似合わないにも程がある。

−弱者が土に還るのは当然だ。僕は指南なんてしないしする気もない。ただ、なんとなく気が変わったから君にこれをあげた

「そんな厳かな使命…ウチには荷が重いな…」

−後はひとりで足りない頭でも捻って、やってみれば

「そんなの…真っ平ごめん被る……」

−仁義の極道らしく

「だが受けた恩と引き受けたこの盃……義に殉じ、今この時は沢田綱吉を自分の大将として、全力でのし上げてやるよ…っ!!」

ウチは極道家がその娘。仁義に生き、義に殉ずる者。こんな戦いの為に、大将の為に死ねるなんて器持っちゃいないさ。自分が死んでまでなんて御免だ。だけど、そう切捨てるにはあまりにも貰った恩が大き過ぎて。色んな人に恩を貰って、もう誰になにをどう返せばいいのかすらわからない。ひとつわかるのは……

「至上のボスとやらの命令、叶えられるもんなら……今ここで叶えてみろ!」

この戦いに勝つことこそが。ウチにとっての恩返しであるということ。背中にめり込んだ棘から脱出した。背中の肉が引きちぎれるような感覚。風の空気さえも裂くようだ。

「あんたも命懸けだろうけど…悪いね。ウチのくそくだらねー仁義の方が勝ったみたいだわ」

懐に突っ込んだ。持っていた銃を捨て、この一撃のためだけにとっておいたとっておきの……

「あれって…雲雀さんのトンファーだ!!」

右手に力を込めた。これで自分は何回も何回も叩かれ、鍛刀されたんだ。弱腰のウチに教えてくれたんだ。足りない頭で考えられるわけがない。なら行動で雲雀に報いる。この戦い、必ずウチが勝つ!

「……ごめんなさい」

トンファーがスカルピオーネの左頬に滅り込む瞬間。そんな、か細いか細い声がやけに耳に付いた。


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