その答えに触れて | ナノ


▼ 13.この世界の人は常にアンテナ立ててる

「あ。あったあった。鞄。…剛さーん!」

…あれ。いない。今日定休日じゃないはずなんだけど。あ。そうか。リング受け取ってからそれぞれ修行することになるんだっけ。じゃあ裏手の道場…。一度教えてもらったことのある道を進んでいくとあさり組と書かれた提灯が二つ入口に鎮座していた。立派な道場…。掃除も大変そうだけど。

「メェーン!!!」
「!」

扉を開けると見事にひっくり返ってる山本がいた。あたしに気づいたのか防具越しで二カッと笑った。…そうだ。

「おう!えりかちゃん!学校はいいのか?悪いねぇこいつが剣道教えてくれって言うもんだから」
「剛さん。あたしにその竹刀貸してくれませんか?」
「?構わねーけど…」
「実はあたしも剣道ちっちゃい時からやってたんです。山本の相手くらいはできると思います」
「!…面白れぇ!武!」
「はぁ!?いや、やめとけって!えりか!」
「ボクシングの時も山本あたしを強いって言ってくれたよね。」

山本は散々狼狽えていたけどやっと竹刀を持って立ちあがった。剛さんが真ん中にくる。お互い構えてー…

「始め!!!」
「おりゃ!!」

山本の反射神経。手の内。力加減。技術はほぼ皆無。剛さんは「ごっこじゃない」と言った。山本と生易しい「ごっこ」の試合をするわけにはいかない。あたしは当主。紅鬼刀を継ぐもの。ぬるま湯に浸って生きていくことができなかった。あたしの剣道は常に危険な型として教わった。相手の急所を、鮮やかに、どれだけ早く捌くことができるか。山本の竹刀が真っすぐに振り下ろされる。型が純粋潔癖。下から竹刀を振り払うように風を巻き込んで振り上げた。山本の手から竹刀が消える。ばしっと床に弾かれた竹刀が何度か跳ねて落ちた。

「そこまで!」
「な…んつー…」
「本物の刀は、もっと重いよ、山本」

そうだった。山本はこれから先、もっと重いものを背負うんだ。お父さんから、剛さんから受け継ぐそのオリジナルの型。

「でも、すぐに追い越されちゃうんだろうな」

きっとすぐに抜かされていっちゃう。あたしが加わることで…なにが変わるわけでもないのかもしれないけど。

「っはは!おう!すぐに超えてやるぜ!」

防具を頭から一度外した山本は輝くばかりの笑顔で笑ってくれた。こんな竹刀の扱いばかりに長けた女の子なんて普通はドン引きなのに。やっぱり、山本は優しいな。その先の話はわかってるはずなのに。どうか、争奪戦に負けないでほしいって願うのは普通のことだよね?


「…まじか」
「よっ!リボーンが言ってたのはお前の方か」

ひゅお〜…。真昼。屋上。野郎二人。いやお顔のレベルは神レベルなんだけど約一名ウチの中では失恋といっても過言ではない程のショックを植え付けやがった方で。むしろ今ぶっ放してしまおうかという気にすらさせられるというか。

「話は聞いてるぜ。恭弥の修行に付き合ってくれるんだって?」
「僕はお断りだよ。小動物を相手にする程暇じゃないし。弱い者いじめに興味ないんだ」

うっすら殺意すら湧きました。

「じゃああれだ。あれ。ぎゃふんと言わせてやる」
「古風な言い回しだね」
「ぎゃふん!!!」
「っはは!仲いいじゃねーか!よし、もえって言ったな。恭弥の修行はいたってシンプル。戦うだけだ。だけどお前の場合は銃火器だから気を付けて…」
バァン!!!
「おいおいおいおい!!!?」
「あ。すいません。うっかり」
「真昼間の学校で銃声はまずい!」
「なんで学校でやってんですかなんでそんな場所にウチを呼んだ!?」
「落ち着け!な?」
「へぇ。僕の目の前で風紀を乱す勇気だけは認めてあげてもいいよ。」
「俺一番やべぇ立場じゃねーか!!」

ちくしょう。小ばかにして。今に見てろ。長距離遠距離。やってやろうじゃん。

「またあの弱弾撃ってきたら殴るよ」
「撃ちません」
「…じゃじゃ馬が二匹か…リボーンのやつ」



「…無理です」
「大丈夫だって!」
「涙出てきた…」

拝啓、皆々様。あたしは元気です。元気ついでに日々山本の修行をお手伝いさせて頂いています。山本の家はお寿司屋さんなので差し入れもいつも豪華で楽しいんですが、

「ワサビだけは…むり」

あたしは辛いものが苦手だ。シャリと刺身の間に挟まるこの緑の物体が物凄くこっちを見ているのだ。山本は平気なのかさすが寿司屋の息子。パクパク食べているんだけどあたしは無理だ…。

「こうやって剣道やってみたらすげぇ毎日竹刀振ってて。お前毎日こうやって過ごしてたのか?」
「基本的にすることと言えば修行か視察か挨拶回りかで暇だったんだ」
「すごいのな。俺と同い年なのにさ。当主とか」
「当主なんてただの飾りだよ。18歳にならないとなにも任せて貰えないしね」
「その刀も大事なもんだろ?」
「うん。これなくしたら死んでも詫び足りないよ。だから…持っててすごくストレスというか…いやこの世界に来ただけで罪な気が…」
「世界?」
「あああっなんでもない!」

そうだった。いまだに話していなかったんだ。なんとなく話しそびれ…というかなんていうか…そもそも誰がそんな話信じるんだっていう話。あたしだって最初の現実逃避はなかなかだったもの。何度意識が飛びかけたか。道場の縁側にお互い座って足をプラプラさせている山本の目は雲を追っていた。…あれ。あたし今普通に山本と会話した?あれ?あれれ。

「えっと…」
「その刀なんて名前?」
「…紅鬼。紅鬼刀」
「かっこいいのな!俺のは時雨金時っつーんだって!俺らの刀仲良くできそうじゃね?」

刀同士仲良く…?でもそうかもしれないなぁ…。あたしの紅鬼は刀身が赤寄りで、山本のは青寄りで。あぁ、山本好きから始まった剣道を今の今まで続けてきて本当に良かった。山本を本誌で発見しなかったら今あたしは紅鬼を受け継いでいない。

「よっしゃ!早くお前に追いつかねーと!」
「あっ。あたし剛さんに買い物頼まれてたんだ。ちょっと行くね」
「道わかるか?」
「大丈夫!」

わーっと両手で見送ってくれた山本を尻目に商店街へ駆けだした。そうだ。沢田君のところにはもえがいるんだっけ。少し会いに行こうかな。

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