その答えに触れて | ナノ


▼ 12.雑草抜くなら修行しよう

沢田君家でごちそうになってきた事は、前もって電話して剛さんに伝えてる。でも問題はそこじゃなくて、腸煮えくり返っているという噂の山本…。玄関の前で右往左往する。

「…不審者かてめーは」
「っっおっ、ご、獄寺…」
「…」
「…、怪我大丈夫…ってわ!ごめんて!怖い顔しないで!! …でも、あのさ、ちゃんと手当てした方がいいよ。そこ。滲んでるよ」

ビビッた。肩を跳ねさせて後ろを向けば、ポケットに手を突っ込んだ獄寺が仁王立ちしていた。今朝のことを思い出すのも癪だといった顔で睨み付けられて舌打ちを一回かまされた。でも、やっぱり怪我は気になるわけで。買い物に行ったままの紙袋の中に、確かもえが買って持っておいたほうがいいってレスキューパックがあったはず。

「あ!あった!」
「いらねーし」
「いるよ」

確か獄寺って一人暮らしで、家帰っても一人だったら寂しいし。なんかそういう手当てだとかもしなさそうだし。ティッシュに消毒液を染み込ませて額の傷を見上げた。

「ちょっと、しゃがんでくれないかな」
「だからいらねぇってんだろ」
「…あ!ほら、野球観戦のときのお返し。上着の」

そう言うと思い出したのか、目を見開いて抗議した。

「ばっ…!別にお前のためとかそんなんじゃっ…!ただ馬鹿なやつだと思っただけだ!!」
「馬鹿って!いいからしゃがめ!」
「断る!」
「頑な!?」
「いでっ!」

もういいやこのままでも。ティッシュを押し付けてやれば染みたみたい。

「なにしやがるクソ女!」
「静かに!近所迷惑!」
「……」
「え。なに?」
「なんでもねぇ。やるならさっさとしやがれ」

獄寺はふ、と静かになり今度は打って変わって素直にしゃがんでくれた。よくわからないな。獄寺って。顔や腕の擦り傷や打撲箇所に湿布等貼ってやりながらそう思った。



「?なんか騒がし…」

あのロンゲの男にボロ負けした。散々無様だった。あんなに怖いと思ったのは初めてだ。剣技を習得していない…確かに。俺の太刀は甘かったのかもしれない。

「えりかと…獄寺?」

意外な組み合わせに片眉が上がる。今日のロン毛と戦ったのは俺だけじゃなくて獄寺もだ。2人でかかっても、ビクともしなかった相手。えりかは路上ではあるけど手当てしてやろうとしてるみてぇだった。それを獄寺が突っぱねってるって感じの。…素直に手当てくらい受ければいいのに。頬杖ついて部屋から見ていたら獄寺と目が合った。獄寺は暫くこっちを凝視したら、今度はしゃがんで突っぱねってた手当てを甘んじて受け入れた。ありゃ。なんだ?いいな。獄寺。えりかは夕飯もツナん家で食べてくるって言ってこの時間まで会うことはなかった。かっこ悪い姿見せたまま。親父に貼っつけられた頬の湿布に手を置いた。

「いーなー、獄寺。」

えりかと一緒に帰ってたら、俺も獄寺みたいに手当てして貰えたかな。



「へい綱吉君。ご機嫌いかが」
「…良いように見える?」
「ううん!全く!」

いい笑顔で親指を突き出したもえにツナは溜息を吐いた。朝から父親…家光に朝の5時に部屋に突撃され、起きたと思ったらランボ達に酒を勧める始末…挙句に、昨日飛んでもないと思った代物が自分の首元にぶら下がっていたのだ。時期ボンゴレボスたる証のボンゴレリングの強大な力を手にできるリングを、独立暗殺部隊ヴァリアーが狙いだしたというのだ。昨日の男が奪ったリングが偽物であると気づかれるまでの10日足らずでみっちり修行し、ヴァリアーを迎え撃つとリボーンから宣言されたのが朝。本当に朝から濃い。濃すぎる。

「駄目親父は帰ってくるわ変な指輪が届くわでダブルでめちゃくちゃだよ!」
「お父さんが帰ってくるの、やっぱりうれしくないの?」
「ずっと家族放り出してる人だよ。」
「あー…それはそうかもしれないけど」
「とにかくこの指輪をディーノさんに返さなきゃ!」

返せるようなものでもないんだけどな、とその先の未来を知ってるもえは合掌した。どのみちツナは確実にマフィアの世界に浸かっていくんだ。それは避けられないことだし、仲間が増えるにつれてその座から動けなくなる。ボンゴレの為じゃない。友達の為に。

「よぉツナ!!」
「おはよーございます!!十代目!!」
「二人とも!!」
「おはよう沢田君、もえ」
「おはよー、前髪ぱっくりいってるよ」
「うそ!?」
「寝癖。整えてきな、鞄持っててあげるから」

ちくしょうと叫びながらトイレに駆け込んだえりかを見送った。

「あ。もえ。あいつの荷物俺が持つぜ。重いだろ」
「え、いや別に大丈夫だけど…よろしく」

ん!と爽やかな笑顔で、たぶん山本のおさがりだろうリュックを肩にひょいと担いだ。にしてもなに入れてやがるんだえりか。なにをどうしたらこんなにパンパンになるんだ。あれか?刀の手入れ道具か?

「そうだ。聞いてくれよツナポストにこんなもんが入っててさ」
「そーなんすよ!もしかして昨日の奴らがらみかと思いまして。跳ね馬にここの場所は聞いてたんで」
「ああ〜!!!そのリングってまさか〜!!!」

綱吉君の絶叫が殆ど人がいない病院内に響いた。

「なんだツナ知ってたのかコレ」
「やっぱ十代目も持ってるんですね!」
「やばいって!!それ持ってると狙われるんだよ!!つーかなんで獄寺君と山本にも…!?」
「選ばれたからだぞ」

ボンゴレリングは全部で7つあるんだ。そして7人のファミリーが持ってはじめて意味を持つんだからな。

「お前以外の6つのリングは、時期ボンゴレボス沢田綱吉を守護するにふさわしい6名に届けられたぞ」
「なぁ!?俺以外にも指輪配られたの〜!!?」
「そうだぞボンゴレの伝統だからな」

ボンゴレリングは初代ボンゴレファミリーの中核だった7人がボンゴレファミリーである証として後世に残したものなんだ。そしてファミリーは代々必ず7人の中心メンバーが7つのリングを受け継ぐ掟なんだ。初代ボスはすべてに染まりつつすべてを飲み込み包容する大空のようだったと言われている、ゆえにリングは大空のリングだ。

「そして守護者となる部下たちは、大空を染め上げる天候になぞらえられたんだ」

荒々しく吹き荒れる疾風 嵐のリング
すべてを洗い流す恵みの村雨 雨のリング
明るく大空を照らす日輪 晴れのリング
なにものにも捕らわれることなく我が道をいく浮雲 雲のリング
激しい一撃を秘めた雷電 雷のリング
実態のつかめぬ幻影 霧のリング

「それとな。さっきは7つと言ったが本当のボンゴレリングは全部で…」
「ちょっ、ストーップ!!とにかく俺はいらないよ!!」



「どう?えりか。寝癖とれた?」
「うわっ。ビックリさせないでよ。トイレの花子さんかと思ったじゃん」
「あんた当主やめたほうがいい」
「あたしもそう思う」

やっと前髪が戻ったところでえりかが鏡越しにもえに視線を向けた。

「って、ありゃ?もえ話聞いてこなかったの?」
「基礎的なことは知ってるから途中から退散。同じことを何度も聞くことないでしょ」
「これだから任侠は…」
「そういえば、もうリングの話ってことは六道の話は飛んだってことだね」
「…そういうことになるね。本当、変な狭間に来ちゃったね」

はぁ…2人して若いのになんだこのふっかいため息は。

「もえさんもえさん。あたしの鞄は?」
「あぁ、山本が持ってるけど」
「what!?」
「無駄に発音いいな」
「うちの荷物を!?なんで?!」
「え。重いだろ?って。」
「いや、まぁうん、もえの細腕に見合う重量でなかったことは謝る!!だけどね!?」
「…まさかあんたあの鞄の中に…」
「いや、待て。刀はここにあるから。大丈夫だから。無事だから」
「じゃあなに入れやがった」
「…獄寺君のですね。そのですね。上着をですね。」

まだ返してなかったんかこいつ。

「だからパンパンに膨らんで…」
「勉強道具も入れたからね!あとは多分さやえんどうのお菓子のせいだわ!」

にっこり笑うえりかにウチも口ばかりの笑みを向けた。いい加減外に出て戻ってみたものの、山本と獄寺の姿はなく。

「というかあたしの鞄は?」
「まだ言うか」



「そっか…綱吉君修行の旅に出るんだね。そうかそうか…南無南無…」
「旅じゃないから!!それと合掌しないで!?」

パンツ一丁で100mの崖を登る荒業を見せてくれた綱吉君。リボーンに撃たれてはバリバリ脱皮し、休んでは登っての繰り返しだ。

「用心棒って言ってもなー。ウチこの辺の雑草抜きでもしてようかなー」
「…」
「え。なに?リボーン。そんな見られたら抜きにくいんだけど」
「なんでもねーぞ。暇ならお前も修行するか?」
「しないよー。だってする意味が。というか綱吉君のあれをやれって?」
「ツナの修行法はお前向きじゃねーだろ。…この間雲雀とやり合った時、随分な鉛玉撃ってたじゃねーか」
「…接近戦は小さい時から苦手なの」
「俺もお前と同じ銃だが、接近戦だの長距離戦だの選ばねーぞ」
「ご、ごもっとも…」
「折角の機会だ。お前も死ぬ気になってみろ。」

にや。うわぁ…あくどい。あくどい赤ん坊だ。

「接近戦で一番手慣れたやつを紹介してやる。既にじゃじゃ馬抱えてるが、お前の為にもなるはずだぞ。」
「…?」


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