▼ 11.ツナパパ、帰ってくるってよ
「すごかったなぁ山本。」
野球観戦なんて初めてしたから。まだ気分が昨日のことなのに高揚している。カキーンって音いいなぁ打ったら気持ちよさそう。
「あれ。ランボさんなに持ってるの?」
「えっとねー、肉!」
「え、肉?しかも骨付き…すんごい料理ですね奈々さん!!?」
バタバタと骨付き肉を持って走り回るランボさんに疑問を抱きながらリビングに入る。この量。つい最近見た。ウチらが初めてここに来た時もこんな大量の立派な料理を出された。
「すげーごちそー!!!」
「あ、綱吉君」
「ツナ、これはどういうこと?」
「ツナ兄がテストで100点とってきたとか?」
「え…いや?今日も普通にダメライフだったけど」
「サッカーボール顔面に食らって何もないところで転んだよね」
「なんで知ってるの!?体育は女子バレーだったよね!!?」
意を決して、綱吉君が上機嫌に鼻歌を歌いながら料理を未だに作り続ける奈々さんに声を掛けた。
「か、母さん?…母さん!!」
「!あらツッ君〜!」
「包丁危ないって!なんか態度が変だよどーしたんだよ?」
「そうかしら?そういえばツナにまだ言ってなかったわね」
…あれ。なにこの下り。めっちゃこれ見たよね、これ見たよねウチ。ここは確か。次の台詞は…
「2年ぶりに、お父さん帰ってくるって!」
「僕ゲームセンター行きたい!」
「おっ勝負するか?」
「負けねーぞコラ!!」
綱吉君はお父さんが苦手。それは2年もの間家を留守にし、帰ってこない父親への反抗心だ。そのお父さんが帰ってくると聞いて複雑な心境の綱吉君を山本が機転を利かせて遊びに行こうと誘い、今日に至るのだ。ランボさん達小さい子や、えりか。ハルちゃんと京子ちゃんも一緒。リボーンから渡されたお金で当面の日常品を買い揃えることにも成功した。ハルちゃん達にも手伝ってもらい、私服も購入できた。特にえりかは男所帯での生活だからなにかと大変だろうと思う。当主として家を継いでいるとしても年頃の女の子に変わりはない。…まさか同じ部屋で寝起きしているとは思わなかった。そういうところは肝が据わってる。
「えりか、買い忘れない?」
「多分大丈夫」
大き目の紙袋を持ちながら、くたびれたように返事をした。物は現物支給だったからねあんた。
「…あの音なんだろ」
ドゴォ!建物が倒壊した。叫び声が木霊し、蜘蛛の子を散らすように逃げる人々。
「えりか、もえ。女、子どもの避難を頼むぞ」
「!リボーン」
「わかった。京子ちゃんハルちゃん!」
多分、ウチの記憶が正しいのならこれはリング絡みのことだ。そうに違いない。
「えりか、覚えてる?」
「…覚えてる」
「下手に動いたら物語って変わっちゃうのかな」
「どうだろう…2人ぽっちでなにが変わるかってことなんだけど」
「…仕方ないな、まずは避難を急ごう」
「やっぱりそうだ。リングの…争奪戦の予兆だ」
「どうしようね…あたし達」
リボーンに辛辣な言葉を受けた獄寺と山本をえりかはかなり心配していたけど、腸煮えくり返っているからほっとけと言われて、ウチらは廃業になった病院にツナのお供としてついていくことになった。ハルちゃん達は途中で帰して。
「ん?どうしたんだお嬢ちゃん達?」
「ディッ…!!!」
「ばか!」
ハーフボンゴレリングを奪われたということは…必然的に出会ってしまうこの人。跳ね馬ディーノさんだ。名前を口走ってしまいそうになったえりかの口を両手で塞いだ。
「そいつらはツナの用心棒として雇ったんだ」
「冗談だろ。」
「それがジョークじゃねぇ。」
「…えっと…その、郷士もえといいます……」
「あたし紅林えりかです」
ディーノさんの驚愕した顔。ごくりと生唾を呑むウチら。
「…なるほどな。確かにカタギじゃねぇな。それ、筒のなかは刀だろ」
「!!」
「そっちの子は脚。銃火器か?」
ドンピシャ過ぎて。何人に暴かれたのか。単に分かりやすいのか。どっちにしてもディーノさんはやはり只者ではないことだけはわかったのだ。二ッ。若いながらに滲み出るカリスマ性は、さすがボス格だとひしひし伝わる。それでいて、慕われるボス。
「自己紹介がまだだったな、俺はディーノ。ボンゴレと同盟を結ぶキャッバローネのボスだ。よろしくな。こいつはロマーリオ」
「よろしくお願いします」
「あの…で、彼…何者なの…?やっぱりボンゴレのマフィアなんですか?」
「いいや。こいつはボンゴレじゃあない、だが一つ確実に言えることは…こいつはお前の味方だってことだ」
「つまり、あのリングが動き出したんだな」
正式名をハーフボンゴレリング。本来は三年後までしかるべき場所で保管されるはずだったボンゴレの至宝。長いボンゴレの歴史上この指輪の為にどれだけの血が流れたか定かではない、いわくつきの代物でもある。
「えりか、ウチら退散したほうがよくない?関係ないしさ」
「え。いや。なに。このタイミングでなに言ってんの?」
「だってウチらなんのために此処へ来たかも不明なわけだよ。今更だけど」
「本当に今更だね」
「帰る方法を探す。…綱吉君たちは良い人たちだけど、世話になればなるほどツケが溜まっている気しかしない」
「…これだから任侠は…」
結局退出タイミングを逃したウチらはディーノさんが本物のボンゴレリングを取り出して綱吉君が脱兎の如く病院から逃亡するまでかかしのように突っ立っていた。
「いくらディーノさんの言う事でも冗談じゃないよ!そんな危険な指輪!」
「あれって値段いくらだと思う?」
「リボーンは値がつけられないって言ってたよ」
「売る気じゃないよね!?とにかく、マフィア絡みの話はたくさんだよ!」
頭を抱えた綱吉君は自分の愚痴を女2人に零した事が恥ずかしくなったのかパッと顔を上げた。
「えりかちゃんも今日夕飯食べていきなよ!…ほら!山本も一人になりたいかもだし!」
「そうだね、同じ部屋はきまずいよね」
「え、同じ部屋?…ってなんじゃこりゃー!!?」
「すっごい、作業服だ」
「しかも殆ど同じ」
ばたばたと家の中に入る綱吉君は察したらしい。中から「酒くせー!!」と彼の叫びが聞こえてきた。
「綱吉君、一体なに…」
「…父さんだ…」
リビングに繋がる和室でパンツ一丁で酒やつまみに囲まれながら大鼾をかくこの人。
「奈々〜〜」
「二人とも、見ないほうがいいから…二階行こう…」
疲れた様子で階段を登る背中を見つめた。綱吉君のお父さんは、ボンゴレの門外顧問機関CEDEF。2。沢田家光。つまり、その人が帰ってくるということ。それはつまり、始まるという事だ。
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