その答えに触れて2 | ナノ


▼ 53.かっこ悪い大人

「歴代ボスもずっとそうしてきたんだ。ボンゴレに危機が訪れる時、必ず大空は8人の守護者を集めどんな困難をもぶち破る。この時代の戦いかたは特殊だが、だからこそおまえ達に分があると俺は思ってる」
「なに…言ってんだよ。わけわかんないよ!それより俺たちの知人もボンゴレ狩りの的になるって言ってたけど…それって母さんや京子ちゃん達も入ってんのか!?それにっ、山本、えりかちゃんは…?」
「えりかはこの基地にいる。すぐに会える。」

山本の目がふと、緩んだ。やっぱり山本はえりかが好きなんだ。わかる。だって目が違う。

「俺がラルミルチを迎えにいくと同時にイーピンとランボが笹川とハルを探しにいったんだ」
「今は連絡待ちだ。ママンはタイミング悪く5日前に家光もイタリア旅行に行っていてな。状況が掴めねぇ」
「!イタリアって…まさか…母さん…」
「ビアンキとフゥ太は情報収集に出ている。他の仲間だが…この2日間でロンシャン達や持田は行方不明…10年間でできた知人の殆ども消された…」
「山本の親父もな……」
「そん…な…」

大切な人を喪ったとき、人はなにかに縋りたくなるものだ。元はカタギだった山本。10年で変わったとはいえ他の誰よりも、きっと脆い。



「もえ!リボーン!聞いて聞いて!」
「えりかか。ガキみてーな顔してどーしたんだ?」
「大丈夫だよ!無事だよ!」
「無事って、なにが?」
「沢田君のお父さんとお母さん。見つけたよ」

うっそだろ。おいおいおい。えりか。どうなってん、え?そんな、どうやって。

「イタリアには仲良くしてくれている人達がいる。かなり時間がかかったけど。確実な情報筋だよ。信頼していい」
「どこの情報筋だ?そこまで言い切るってことはボンゴレ内部の人間か?」
「ヴァリアーだよ。沢田君が知ったらビビると思うけど、ザンザスが承諾してくれて情報をくれた。きっとすごく大変だったと思う。」
「は?!ヴァリアー!?」
「うん、ヴァリアー。ザンザスとは仲良くさせてもらってる」
「なにが目的だあああ!?」
「ここまでくるのに8年さ!あっはっはっは!」
「さすがだな。えりか。ザンザスを落としたか」
「使い勝手のいいカスとしか思われてないけどね!!」

未来のあんたの方が分からんわ!!結婚してたり山本とギクシャクってたり、挙句にはザンザスとずっ友宣言かよ!どうなってん!!!!未来!!!

「てか、そんな事していいの!?未来を変えることに…!」
「ボスの憂いを晴らす。それがあたしの仕事。両親の無事くらい、子どもの彼に伝えたい。」
「…あんた、」
「それにもえは未来を変える為に来てくれたんでしょ?」

この、殺伐とした未来を変えてくれるために。

「助けたい人いっぱいいる」
「…今、救えないの」
「え?」
「今、大切な人を喪って崩壊寸前の人がいる。分かってるでしょ」

あんなに、好きだって。顔すらまともに見れなくて会話すらたどたどしくて。そんな2人を、ウチは。

「なんで山本を見てくれないの!?」
「その話はしないでって言った」
「するよ!周りは腫れ物みたいに扱うけどウチは違う!10年の過程なんて知るか!父親を喪ったあんた達の心は同じはず!」
「…じゃあどうすればよかったの?あたしはなにを変えればよかった?懲りずに山本に気持ちを押し付ければ良かった?隼人君の気持ちを無視すれば良かった?」
「それは、」
「山本はあたしを家族だと言ってる。それ以上でも以下でもないって…それに山本に合わせる顔はないよ」
「え?」
「あたしは、剛さんを救える可能性を見落とした。だから喪った、だから山本を苦しめた。ずっと昔から、それこそ10年も前から分かっていたというのに」
「責めてるわけじゃ、」
「あたしが悪いんだ。何しても多分きっと山本を傷つける」

違う。責めたいわけじゃない。ウチはなにを。山本と獄寺の仲がギクシャクして不安なのはえりかも同じで。山本のお父さんの未来を一人で抱えてたのもえりかで。結末を迎えた。間に合わなかった。それで山本に顔向けできないことも。それを獄寺に話す訳でもなかった。10年もの間を生きたえりかに、過去から来たウチが言うセリフではない。

「色恋沙汰で、守護者のツートップを分断させるところだった訳だし。」
「山本のお父さんの話は仕方ない…!」
「仕方なくないよ。現にイタリアにいた家光さん達は見つけられた。日本で、すぐ側にいた剛さんを救えないって。馬鹿もいいところ」
「えりか!」
「10年……10年だよ。もえ。未来のあたしはこんなに無能なんだよ。なんにも、成長なんかしてないんだよ」

ウチは、このときの相棒の涙を忘れないと思う。なんでか、そう思った。



「よっ。まだ起きてたのな。子どもは寝る時間だぜ。迷ったか?」
「いや…山本を探してたんだ。えりかの事でちょっとだけ…」
「ハハッ!だろーと思った!お前が俺に話しかけてくる時は大抵えりかの話題だからな」

綱吉君と獄寺と別れた後、基地を彷徨って山本を探していた。こんな時間なのに未だにスーツのまま。…忙しい証拠だ。任務明けだと言っていたし、疲れている筈なのに明るく笑って壁に寄り掛かった。

「いーぜ。なんでも聞けよ」
「…なんで振ったの?ごめん、ウチはてっきり山本もえりかを好きだと思ってたものだから…」
「好きだぜ。大好きだ。ずっと。10年前から」
「え…?」

10年前から…?じゃあなんで。どうして。言葉にしなくても顔に出ていたのか、山本は言葉を続けた。

「俺、案外自分に自信なくってよ。その時、野球も剣も中途半端で。マフィアの業も知った直後だったんだ。獄寺の事は正直気づいてたし…あいつは俺と違って、この社会の事に昔から精通してる。中途半端な俺なんかよりずっと頼り甲斐あるだろ?」
「まさか、身を引いた…?」
「かっこわりーけど、それが俺にできる唯一の愛情表現だから」
「それ、…かっこ悪すぎるよ」
「後悔してねぇ」
「後悔してなかったら…そんな顔しないよ山本」

そんな、言葉と真逆な顔なんてするものか。

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