その答えに触れて2 | ナノ


▼ 52.暫くのさよなら

「……これ、匣だ。」

ウチの部屋は物がある程度散乱していた。趣味全開の代物まである。10年経っても好きなものは変わらないんだなあ。と、干していた下着をいそいそとベッドの中に詰め込んでいるとその中から匣が出てきた。まるで塩を塗りたくったような肌触りと色だが別にベトベトしない。なんの匣なのだろう。不思議。自分にも覚悟の炎を灯せたら開くのかな。そんな覚悟、いまのウチには出せそうにない。後で見てもらおうとポケットの中にそれを突っ込んだ。

「ひえー、何語だよ。イタリア語だよ。これ見たことあるやつ。リボーンにねっちょり教わったやつ」

机の上のお菓子の缶に詰め込まれていたのは紙の手紙だった。もっと楽に送れる機械装置は出来てないのか。その綴りは何回と練習した綴りだった。

「でぃー…の」

ディーノ。綱吉君の兄弟子にしてウチと雲雀の師匠様で、同盟ファミリーキャッバローネのドンだ。なんでこんなに手紙が。まさか、綱吉君の作文練習に巻き込まれた時に書いたディーノさんへの手紙が、10年経っても続いてる?…いや、ないな。メリットがない。てか面倒。おっかなびっくりだ。そういえばボンゴレの暗号コードをえりかは知っていると言ってたけど、雲雀の財団のコードとかってあるのかな。もしかしたら未来のウチ…雲雀に連絡してたんじゃないかなあ…?



「おはよ。よく寝てたね。もう夕方過ぎなんだよ。あ、もし寝れなくなったらいつでも添い寝してあげるよ?ヘイカモン」
「間に合ってます」

肉にフォークをぶっ刺したえりかは今日もヨレヨレだ。三徹でぶっ倒れた直後にまたなにをしたのか。その隣では優雅にカップに口をつける獄寺が目線だけこちらに寄越した。因みにえりかとは違い、スーツもかっちり着てる。

「もえのお部屋、なんか見つかった?」
「あー、えっとね、ベッドの中から…」

匣が。と言う前にビーッビーッという警報が響いた。

「侵入者だ。地上Fハッチ付近に炎反応。…Aランク以上のリング数値。俺が行く。」
「隼人君が?ならあたしが…」
「もえとの約束だ。」

えりかの視線だけがこっちを向く。…般若だ。般若がいる。いや、別にあんたの旦那をどうこうとか、そういうのじゃ全然なくてだな。

「未来のもえは本当によく分からないよ!」
「話し合おう!?話し合おう!?その拳を収めよう!?」
「じゃれてんじゃねえ」
「これをじゃれているように見えるのなら素晴らしい目をお持ちだよリボーン様!!!!」

未来、こわい!!!!!

「ごめん超絶ジェラシー」
「それはウチからも謝るわごめん!!」
「そっか…でも…仕方ない…もう隼人君は…」

あたしをよく思ってない10年前の彼になってしまうんだよね?えりかは少し肩を落としたがそれを振り払うようにふるふると頭を振った。

「…分かってる、こうなる事が一番いいんだ。大丈夫。過去の隼人君達を守る。…沢田君も絶対にだよ」

獄寺の顔が少しだけ緩んだ。静かな静かな、暫しのさようなら。

「面倒みてあげる」
「そりゃ心強い。過去の俺は甘くねーぞ」
「10年付き合ってるあたしに言うことじゃないよそれ。はい、はい!気をつけて!行ってらっしゃい!」

獄寺は席を立つ。アタッシュケースを持ち上げて、ウチらに片手を振る。自動ドアが閉まった瞬間隣の顔から笑顔が消えた。

「多分未来のウチはもし10年後の獄寺が綱吉君の棺に向かわなかったら…っていう可能性を排除したかったんだと思う。」
「うん…うん…もえ。これだけは覚えてて。どんなに先の事を知ってても、その結果を淡々と受け入れるには…あたし、彼らと長く居過ぎたよ」

心は、どうにもならない。どうすれば彼らと適切な距離を保てる?もうそんな次元の話じゃないのに。リアルであるのだ。この空気も、感触も、人も。



「綱吉君!!!!!!綱吉君!!!!!!」
「いだだだだ!顔引っ張らないで!」
「てめっ!10代目のお顔になにしやがる!」
「やだわー、獄寺ガキくせー」
「喧嘩売ってんのか!」
「ていうかもえ、バズーカに撃たれてたのー!!?」
「今更!?ウチがいなくても平穏な日々を過ごしていたの!!?」
「そうじゃないよ!てっきり雲雀さんかディーノさんのところかと思ったんだよ!」

やっぱり綱吉君と獄寺は無事入れ替わったらしい。リボーンもテンションが上がってるのか自分そっくりの人形を仕掛けては綱吉君の頭に土踏まずをフィットさせた。

「そ!そうだ!おかしいんだよ!過去に帰れないんだ!」
「それくらいわかってるぞ。おかしいところはそれだけじゃねーしな。10年バズーカなのにこの時代に撃たれてから9年と10ヶ月ちょっとしか経ってねーんだ」
「やっぱりリボーンにもわからないんだ…」
「まあ、わけわかんねー土地に飛ばされなかっただけでも良かったけどな」

ここは並盛だ。山本が映し出したモニターにはビル群が映し出された。もっと栄えている方の景色は綱吉君達にとってはあまり見覚えが薄いらしい。10年経っていれば尚の事。それを察してか見覚えのある中学校にクローズアップした。

「ここで起こっている事は、お前達の問題だぞ」
「現在、全世界のボンゴレ側の重要拠点が同時に攻撃を受けている。勿論ここでも、ボンゴレ狩りは進行中だ」
「ボンゴレ…狩り…?」
「お前達も見たはずだぞ。ボンゴレマークのついた棺桶を」
「それって俺の事!?」

若い獄寺の逆鱗に触れた。自分の事は棚に上げて山本を責め立てる。子どもなんだ。10年後を見た後に見ると、益々子どもに見えてしまう。えりかはなんで獄寺なんか。…いや。10年後にはあんなに頼り甲斐があるんだ。教えたい。未来の獄寺は綱吉君の遺したものを必死に守ってたんだよって。崩壊寸前のボンゴレの頭として。必死に。

「敵であるミルフィオーレファミリーの恐ろしいところは勿論戦闘力の高さだが、それよりやべーのは目的がただ指輪を得るための勝利や制圧じゃないことだ」
「本部が陥落した時点でミルフィオーレは交渉の席を用意してある男を呼び出した。だが奴等はその席で一切交渉などせず男の命を奪ったんだ…、それからもこちらの呼びかけに一切応じず次々とこちらの人間を消し続けている…奴等の目的は」

ボンゴレ側の人間を一人残らず殲滅することだ。

「つ…つまり過去からきた俺たちも危ないってこと…?」
「それだけじゃねーぞ。お前達と関わりのあった知り合いも的にかけられてるんだ」
「!それって!」
「狼狽えんな。まだ希望がなくなったわけじゃねえ。山本。バラバラに散ったとはいえ、まだ守護者の死亡は確認されてねーんだな」
「あぁ」
「ならやる事はひとつだ」

おまえは散り散りになった8人の守護者を集めるんだ。


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