その答えに触れて2 | ナノ


▼ 51.俺に何が出来ますか

「もえは1人を好むようになって、部屋にも入れてくれなくなったんだよね。"愛の巣に戻りやがれ抜け駆けヤロー"って罵られた日々が懐かしい…」
「そりゃイラっともくるわ」

心底懐かしそうにするえりかに吐き捨てた。だってウチは独身ってことだろこのやろー。早々に隠居しやがって。

「だけど、あたしが可笑しいと思ったのはそこじゃなくて。もえが頻繁にやり取りしてる相手。カタギに恋人が出来たならそれはそれで祝福できるんだけど、相手は暗号コードを用いて連絡している。一般人じゃない」
「ボンゴレの人じゃない?10年でできた友達とか?」
「ボンゴレの暗号コードは知ってる。ヴァリアーでも同盟のキャッバローネでもない。逆探知しようとしたらエラー。妨害されている。」
「…つまり」
「今の時代…仲間以外と連絡を取る行為が、どういうことかわかる?」
「…」
「沢田君は持ち前の超直感でもえの行動を悟ってた。でも彼は疑わしきも罰せず。だからあたしに任せた。10年後のもえがしている事の真意の確かめを。黒か白か。」
「…ウチは絶対に綱吉君達を裏切らない。絶対」
「あたしもそう思いたいね。」
「ひとつ聞いていい?」
「なんなりと」
「この部屋異様に一戸建て感半端なくない?」
「あたしと隼人君の愛の巣だもの」

綱吉君がえりかと獄寺の結婚を考慮し、ひとつだけ部屋を大きくし、専用のキッチンやバスルームまで取り付けたのだそう。いや、そりゃ新婚にボンゴレ基地の構造はあんまり良くないけども。下手すりゃ丸一日会わないこともあり得るし…。

「話を戻すね。というわけでもえの部屋に入ってもいい?もえのことだからそういう物を出しっぱなしにしているとも思えないけど、なにか手掛かりが掴めれば…」
「え?いいけど、ウチも良く見てないんだ。だからウチの後で!パンツ干してた!」
「年頃の女子にそれはきついね。」

えりかは準備ができたら呼んでと言ってひらひらと片手を振った。左手に納まる指輪に、何故だかこっちが少しだけ照れた。…にしても、外部との連絡…か。そんな知り合い未来にはいるのかな。なんでそんな疑われるような事を、ウチはしたんだろう。ウチの部屋に行けばなにかわかるかもしれない。



「顔。」

びしっ。眉間を小突いた瞬間じとりと見上げられる。なんてことはない。機嫌が悪い証拠である。普段垂れ目なだけにその機嫌の悪さが露骨に現れる。月に2、3度は見る顔だ。夫婦になってからも学生時代と変わらず喧嘩は必ずしているのである。

「もえになにか言った?」
「誰かさんの為の配慮だ」
「あたしは山本の事は気にしてないって何回も言ってるよ?気にしてお互いぎこちないのは2人の方だよ。守護者のツートップが…」
「奴のことは信用してる。信頼もしてる。だがそれは仕事での事だ。プライベートは別もんだろ」
「隼人君はなんでそこまで山本から一歩引くの?…この世界のあたしの家族だよ」

血の繋がりはないけど。中学2年生の秋からえりかは山本家で暮らしいていた。沢田綱吉がボンゴレ10代目ボスを継承し、日本並盛の地中に基地を創り出すまでは。さすがにお互い高校2年生になってから部屋は離れたが山本家の一員として過ごしていた。ここまで経ってしまえば家族といっても過言ではない。

「……男には男の訳があんだよ。ほれ。膨れっ面やめろ。」
「…あの…隼人君。未来は変わるのかな」
「なにが」
「もえ達が過去から来たことで未来に干渉して、それって、この今を変えれるってことなのかな。もしもの世界が出来てしまって、隼人君と…結婚しない未来に、なっちゃったりするのか…な」

えりかの気持ちを甘く見過ぎだ。例え昔、山本を慕っていたとしても今は夫婦にまでなった獄寺がいるのだ。軽い気持ちで結ばれる程、えりかは軟派ではない。山本は家族。それ以上でも以下でもないのだ。しかし周りが会う度会う度掘り返してくる事。それが嫌で堪らないのだ。でも同時に思う。自分は山本が大好きだったのだと。

「あたし隼人君が好きだし、愛してるの。なんでその気持ちを嘘呼ばわりされなきゃいけないの?なんで…?唯一無二の親友にさえ本当の意味で祝われなかった…あたしの気持ち、」

とん、と。耳上辺りを覆ったリングだらけの手が硬い胸板に頭を導いた。黒いネクタイと外された第2ボタンが至近距離でぼやけている。最近忙しくてつける暇がないのか、人工的な香水の匂いはしない。

「俺がわかってる。」
「大好き」
「ああ」
「愛してる」
「知ってるよ」
「…お願いだから、側にいてね」

獄寺は明日のことを思い出した。もえに言われた、沢田綱吉の眠る棺に迎えと。それは、多分。自分が過去の自分と入れ替わる事を意味していて。…10年前の自分は、急に現れた二人を粗雑に扱う上に言動も横暴で疑心的だ。この時代のえりかと再会するのは、なんだか忍びなかった。側にいるよ俺は。その言葉を吐くことが出来ずに、急に迫り上がった気持ちがなんなのか分からない。10年前の自分が死んだら。えりかは、一人取り残される。そんなの、許せるか。

10代目。未来は変わりますか。変えられますか。守れますか。その為に俺に何が出来ますか。

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