その答えに触れて2 | ナノ


▼ 50.幸せの定義

なんていうことだ……先を越された…。ではなくて、恐ろしい…恐ろしいぞ未来。帰るために色々模索してたんじゃないのか???なにこの世界でめでたく寿退社してやがる。言葉をなくすウチを見て頬を決まり悪そうに掻いた。

「色々面倒くさいっつったろ」
「面倒くさ過ぎじゃないですかねお兄さん」

これ…山本がえりかを好きだったらどうすんの?だって山本は病室で言ってたんだよ。俺に任せてほしいって。なに簡単に獄寺に渡しちゃうんだよ。別にどっちの肩持つわけじゃないけど、だけど。

「……山本は、なんて言ってたの?入籍した時」
「拍手して喜んでたぜ。インチキくせー笑顔振りまいて。…同じ女に惚れた者同士がいりゃあ必ず勝者と敗者が存在する。逃げた腰抜けなんぞに勝機なんざねぇんだよ」
「ご…獄寺の口から恋だのなんだの出るなんて」
「お前は俺をどう見ていやがった。…まぁ、確かに10年前じゃ有り得なかったけどな」
「……でも、」
「この話は終わりだ。山本が帰ってくる。」

暖炉上の監視カメラの映像に切り替えた獄寺の言う通り、刀を背負った10年後の山本が基地のエレベーターに乗り込んだところだった。その顔は10年前では想像出来ないほど険しくて鋭い。そしてやはり疲れきっている。

「ランボとイーピンもこの基地にいるぞ。挨拶がてら会ってくるといい。…だがこれだけは守れ。10年後の未来は想像より危険だ。無断で基地から出ることはすんな」

いいな?と約束させられた後、獄寺はリボーンに会釈して部屋を出ていった。少しして、山本が入ってくる。そっか……鉢合わせも嫌なんだ…。

「お?もしかして……」
「あ、うん。10年前の郷士もえ。久しぶり…?」
「だよな!焦ったぜ。お前も戻れねーみたいだな」
「そうみたい」

ハハッと軽く笑ってるけど、やっぱどこか違う。なにも知らない子どもじゃないんだと、突きつけられる笑顔だ。獄寺も山本も。

「そだ。えりかには会ったか?それとも徹夜続きしてたから、まだ寝てるか?」
「……あ、えっと…まだ。その。…そう!リボーンにこの世界のこと教えて貰っててさ」
「そっか。吃驚しただろ。こんな時代で」
「うん、ひどいね」

みんなから笑顔を奪ってしまう、こんな世界は。

「変えたいね」
「……変えれるもんならな」



地下では窓もないから、正確な時間はわからなかったけど、食堂に呼んでくれたランボさんから聞けば、今は夜の7時なのだそうだ。イーピンが食事を用意してくれている間も、獄寺と山本は顔を合わさない。お互いぼーっとしているか、難しそうな資料片手に煙草を吹かしているか。ランボさんもまだ慣れないのか、居心地悪そうだ。……そして、ついにこの元凶となる奴が姿を現したのである。

「おはよ。イーピンちゃんの炒飯のいい匂いだねえ。やっと立ち直れた…」
「はよ。やっとちったぁマシな顔色になったな」

スライドの扉から急に現れた10年後のえりかはこれでもいい方なのか?という程顔色は悪い。おい獄寺どこ見てるんですか。嫁がへろへろなんですけど。全体的にへろへろしてて着ているシャツも寝てたせいか、よれている。

「10年前の郷士だ。今日来た」
「えーっと、久しぶり?って感じ?」
「……え…本当?なに?もえによく似せた子どもじゃなくて?幻覚でもなくて?雲雀さんの趣味でもなくて?」
「雲雀さんの趣味ってなに。」
「あっはは!なにこれ!すごい!やっと来た!やっと会えた!やっと…やっと、来てくれた」

あんたもそんな顔するんだね。辛そうな顔して。ウチが来ることを待ってたと言った。そうか、もしかして。

「ひとまず食べてから話そ?イーピンちゃんの炒飯美味しいの知ってるよね」
「うん。ウチもえりかに聞きたいことが沢山ある」

女性らしく笑むがへろへろなのはそのままで、手に持っていた書類を獄寺に差し出した。

「イタリアからボンゴレの使者が日本に着いたみたい。基地の情報はダミーを噛ませてるから誰かを迎えに寄越さないと……」
「俺行くぜ。」
「え、でも山本任務明けだよね。さっき帰ってきたばかりな筈。あたしが行くよ」
「んな顔色で行かせられるか。聞いたぜ。そっちこそ徹夜明けなんだろ?」
「あたし寝てたし、休んだし…」
「いーって。大丈夫だ」

獄寺に差し出された紙を横からさっと持っていった山本は頬杖つきながら目を通す。その二人を交互に見つつえりかが漸く椅子に座った。獄寺はなにも言わないし…なんだこの微妙な感じ。本当にどうしたこの3人。

「仕事の話、今は抜きにしよ!はいよ!炒飯一丁出来上がり!」
「ありがとうイーピンちゃん」

空気を肌で感じているイーピンちゃんは至極明るく振舞って料理を出してくれた。年下に気を使わせてる事に気づいてないのかこのいい歳した大人達は。じっと視線を向けていたら獄寺がまた決まり悪そうに頬を掻いた。



「待ってたよ本当に。10年前のもえが未来に来るの。」
「未来で、一体何があったの?先のこと知ってたなら、別に驚くこともないんじゃ…」
「うん。そうだよ。だけど10年前の沢田くん達が10年後に来る、その為には……。つまり今のあたし達が10年後を正確に生きていないといけなかった。その10年間は未知だったよ…本当に怖かった。」
「…なるほど、そっか。ウチは10年前から飛んできただけだけど、えりかはこの10年間を生きているんだもんね」
「うん。でもあたしがなにをしないでも、沢田君はリングの廃棄命令を下したし、…いなくなった。加えてボンゴレは壊滅寸前まで追い込まれている…歯痒いったらない。」
「未来のウチは、なにをしていたの?」
「あたしと同じように、この10年間を必死に生きてたと思う。でも最近財団の方に行ってたからよく分からなくて。…もえ、隠し事が増えるようになった。だからあたしより雲雀さんに聞いた方がいいと思う」

ざ、財団?雲雀に?確か雲雀はボンゴレ基地に繋がる少し離れた場所に風紀財団を立てているんだっけ?……ひい、10年後も雲雀の犬なのかウチは…。

「それと、さっきはごめんね。山本と隼人君が顔合わせたら大抵ああなるんだ。」
「獄寺に聞いたよ。入籍したんだって?えっと、おめでとう?」
「はは。ありがとう。嬉しい。」
「でも、なんで獄寺なの?えりかは10年も前からずっと山本が好きだった筈なのに。」
「大好きだった。こんな私でも絶対守りたかった。でも山本の気持ちは違くて、あたしは家族で。それ以上でも以下でもなかったよって20歳の時に、そうはっきり言われたのは今でも覚えてるな」
「……山本が、えりかを振った……?」
「玉砕しました」

昔の傷が抉れるわと軽快に笑い飛ばした。……山本がえりかを振った。にわかに信じ難いけど、獄寺と結婚してるって事実がそういうことで。

「でも今あたし幸せ」
「…獄寺と山本の仲は良くないみたいだよ」
「ね…。なんで…あたしは山本に振られて、それで少し経って獄寺と付き合って藉を入れさせて貰って…」
「山本は違うんだよ。多分その気持ちを獄寺も知ってるから、だから」
「…山本はあたしとは違う未来を見て…だから、あたしも違う未来を隼人君と見たの」
「……でも、でも本気で幸せって言える?」
「幸せだよ、当たり前だよ。あたしを好きだよって言ってくれたんだから…。未来のもえも、同じこと言ってきた。本当に幸せなのって。」
「そりゃウチだもん」
「その時にも言ったよ。あたしは幸せだって。隼人君が少しでも嫌だったら、山本に気持ちが残っていたら。そもそも結婚なんてしない。優しい人だよ。とても」

もうその話よそう?もえに嫌な態度とっちゃうから。とえりかはぱぱっと片手を振った。獄寺が山本の話はするなと言った理由がわかった。

「じゃああたしの話はもういいから、もえの話しようか?」

自分のコーヒーにぼとぼとと角砂糖を入れて掻き混ぜた。カップの底はジャリジャリしている。

「もえは、変わったよ」

その声色は、神妙だった。

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