その答えに触れて2 | ナノ


▼ 大事な家族のために

「それじゃ、いってきます」
「気をつけていけよ。上に偵察用のモスカが残ってる」
「大丈夫大丈夫!」
「あと、あまり雪のリングは使うな。マモンチェーンの予備を渡しておく。念のためだ。お前の属性は痕跡が残りやすい」
「心配症。はじめてのおつかいか。」
「…守護者が散る自体は避けてぇんだよ。本当なら笹川だけの筈だった」
「人手不足はどこも同じだもんね。」

10年前より伸びた髪が振り向きざまにふわりと跳ねる。それを眩しそうにして目を細めたのは同じく10年の歳月で一際頼もしくなった現ボンゴレ10代目の右腕として名を馳せる、獄寺隼人である。

「……本当に、気をつけろ……もう、誰かが死ぬのは見たくねぇ…お前が俺の、最後の砦なんだ」

どうか無事で。その思いは両肩を掴む手から伝わってきた。10代目ボスの死後、ボンゴレは多大なる犠牲と損失を与えられた。10年後に勢力を強めたミルフィオーレファミリーによって。10年間で出来た殆どの知人が消されていく中で大空を除く7名の守護者が存命だ。現在は散り散りになって行動してしまっている。各国のボンゴレ支部やイタリアにある本部への対処など問題が山積みの中、ボス亡き後に残されたファミリー達の指揮や自体の把握などは10代目ファミリーである守護者達が率先して事に当たる。イタリアには先に笹川了平が赴いているが被害が深刻なのもまたイタリアであり、笹川一人で対処し切れるものでは無かった。やもう得ないという判断で、同じく守護者のえりかが加勢として現地へ赴くことになったのだ。危険な場所へ送り出したくはない。…ましてや己の大事な人ならば尚更。

「あたしのことは気にしなくていいよ。本当に大丈夫。だから少し寝て。かなり隈が酷い」

1ボンゴレの上層部はあれど、すべての指揮は実質、ほぼ右腕である獄寺に委ねられていた。彼の信頼は厚く確固たるもの。故に無理をし過ぎているのは明白だった。ファミリーの混乱を一人で対処しようともがいている。これ以上、誰も死なせるものかと、だってそれがボスの一番の願いなのだから。

「見送りくらいさせろ馬鹿。」
「それが終わったら寝てね。起きたらきっとイタリア着いたって暗号コードが来てるよ」

今では、電波も傍受される可能性が非常に高い為に携帯電話の類いは使えずにボンゴレ機密の暗号コードでの連絡が鉄則だ。

「絶対に、生きて帰ってこい」
「勿論だよ」
「……それと、あとは、」
「いやいや、長いわ。引き伸ばしすぎだから」

ぴしゃりと遮られた獄寺は目を丸くした。そんなに長ったらしく話したつもりも、引き留めたつもりもなかったからだ。無自覚にそんなに止めてしまっていたのかと片手を口に当てた。またやってしまった。自分はとことん口煩いのだ。

「……でもありがとう。隼人君の判断はいつだって的確で正しいよ。沢田君がやるだろうなって事を遂行してるよ。大丈夫」
「はっ…なんだ急に。不気味だな」
「言いたい事を言った方がいい時代だから」
「……馬鹿が」
「ね、大丈夫。だから日本のボンゴレ支部をよろしくね。もえの事も頼んだよ」
「あいつは俺が口挟む前に、小煩せぇのがついてるじゃねーか。」
「今、日本にいないから。その小煩いのが」

じゃあそろそろ本気で行くねと一歩踏み出した途端、長年変わり映えしない獄寺愛用の煙草の匂いが体を包み込んだ。肩に回る腕に力が篭って苦しい程。銀色の細い髪が肩越しに見えた。

「……ボンゴレ嵐の守護者、ボスの右腕の俺から言うことは言ったが…旦那としては、なにも言えてねえんだよ」
「……言わなくても分かってるよ」

全部、伝わってるよ。縋るように回された腕に両手を重ねた。同じデザインの一連指輪が視界に入った。死ねるものか。やっと掴んだ幸せを奪われてたまるものか。

「先に逝ったら、お義姉さんに怒られる。それにきっとあなたを悲しませる。そんなことはしない。懸けてもいい。誓うよ」
「…頼むから、無事でいろ」
「あなたもね」

暫くして、腕がすっと離された。煙草の匂いが遠ざかる。

「約束だから」

隼人君の元に帰る。腕がもげても足が欠けても、目が見えなくなったって。エレベーターに乗り込み、近場のハッチへの通路を進めばジャンニーニからもごもごとした通信が入った。

「ジャンニーニさん?どうしたんですか?」
《あああ、獄寺さんには内緒でお願いしますよぅ!Dハッチ入り口で山本さんがお待ちです!》
「…!山本?!どうして、危ないよ!ハッチの入り口でなにを…!」
《すいません、どうしてもと言うことで…》
「急ぎます!急ぐから、あたしが出たら直ぐにハッチ閉めていいですからね!」

獄寺はエレベーター前までの見送りだった。ハッチまで出るのは危険だからだ。だからしのごの言う旦那を無理やり押し留めたのに。なんで山本が。えりかの頭の中には疑問だけが渦巻く。なにかの伝令?伝言?いや、それなら獄寺が知らない筈はないと。長いハッチへの道を走り抜いて、息が切れる。前線を退いてからデスクワークばかりやっていたせいだ。入り口の壁に背を預けて腕を組んだ山本は、いつもみたいに片手を上げた。

「よ、悪いな。ここまでしか出れねえみたいで」
「山本!ジャンニーニさんが困ってたよ。それに危ないよ。こんな所に立ってたら…!」
「ハハッ!大丈夫だぜ。ちゃんとリングはマモンチェーンで巻いてるから」
「そういうことじゃ…」
「獄寺には挨拶したんだろ?煙草の匂いすっから」
「え、あ、うん」

目線を逸らされた。山本とはどこか気まずい。だって振られたのだ。こうなることも覚悟していたけど。荷物を持つ手に力が入る。…昔。本当に昔。山本は「煙草の匂いは似合わない」と口にした。それが今では常に獄寺愛用の煙草の匂いを纏い、しかも長いこと隣に居過ぎて匂いが移っているのにも気付いていない。…姿は無くとも、常に獄寺の気配がすることに、山本は複雑な思いを抱いていた。

「スクアーロによろしくな」
「うん、任せてよ」
「襲撃に気をつけてな」
「うん」
「………日本(ここ)で、また会おうな」

ニカッと笑う。作った顔だ。無理して作らせてごめん。えりかも同じように歯を見せて笑い、頷いた。

「じゃあね」
「ん。行ってらっしゃい」

頭に乗った手がするすると髪を伝い離れていく。いつ、最後になるかわからなかった。だからあたし達は悔いを残さない別れ方をしなきゃならなかった。こういう時は特に。だから山本はこんな危険な場所にまで来てくれたのかもしれない。2人とも大事な家族だ。2人のためにもはやく日本に戻ろう。…あたし達の知る、漫画の中での瞬間に行き着くまで。絶対に生きようと思った。

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