その答えに触れて2 | ナノ


▼ 73.ブラジルの人聞こえますかー!?

「ゲええええええっ!!!!!」

ずどーーーん!!!!…なんだってんだ一体。でんぐり返しなんて暫くしたことないぞ。それも何回転したんだ。頭から木の根元に突っ込んだ。吐きそう。本当に吐きそう。一気に体力奪われた。

「げほっ、がはっ!…あっ!?雲雀!!!?」

誰もいない…てか、ここどこ…??痛った。まじで痛った。感想の語彙がなくなるレベル。腰をさすりながら起き上がる。ここは…どこ?

「うわっ!?なに!?」

爆撃音と激しい金属音が唐突に響いた。なにがどうして…。

「獄寺!一般人は手加減だぜ!」
「んなこた分かってんだよ!」
「山本と獄寺!?」

思わず馬鹿でかい声をかけてしまったおかげで2人がこちらを振り向いた。獄寺は若干キレ気味で。山本に至っては疑問符をあげながらノールックで剣を振るって相手の首にバッキリと峰を喰らわせた。顔面から地面に落ちるチンピラ。…おおう…近づいてきた。怖すぎる。

「なんだよ。虫でもいたか?」
「虫よりチンピラ倒せノロマ。」

目の前の獄寺は目がバッキバキ。いつの時代でもキレ散らかしてんな…。というかなんだこの状況。ウチが目をぱちぱちしてると更にイラついたような顔の獄寺がなにか投げ渡してきた。

「戦闘中に武器を投げ捨てた挙句?なに地面を転がり回ってやがんだ」
「どうしたんだよ。」
「いや…それ聞きたいのはウチのほうで。」

…ハッとした。格好が違う。2人と同じスーツを着て、手だってこんなに傷だらけ。髪だって短い。思わず自分の顔やお腹をぱたぱた触っていかにも不審な動きを始めたウチに2人も怪訝だ。

「…つかぬことお聞きしますが。」
「なんだ?」
「……今日、なんでワタクシ達はここにいるのでしょうか…」
「頭湧くのはまだ早ぇだろーが。なんだってんだよ。」
「まあ、これだけ連日忙しいと疲れるのは分かるぜ。もえはフライトあんま好きじゃねえもんな。でも久しぶりの日本だろ?ボンゴレ支部を作んのは日本で。今日はその視察任務だ。ツナの指示でさ。」

思わず口を覆った。10年後の綱吉君はすでに亡くなっていて、未来にひと足先にやってきたウチもその姿は確認していない。山本の言ったことを噛み砕けば、今居るこの地点は日本の並盛で相違ないし、綱吉君も…存命だ。

「並盛神社の地中を雲雀がすでに陣取ってるからな。ボンゴレの日本支部はここに併設できたら怖いもんなしだろ?」
「はんっ。雲雀なんざいなくとも10代目が設計する基地だ。世界中のどの拠点にも劣るものかよ。」
「…あの基地ができる前……?そんなに戻ったん?え?」

待ってくれ。戻りすぎ。まだ地面すら掘ってない…。これ守護者集めまでいくのにどれだけかかる?ていうかどうやってここに来れた?戻りすぎた場合の対処法くらいボイスに吹き込んどけよ自分!!!!

「あ…。そ、そうだ。えりかは?えりかも日本に来てる?」
「?調子が悪いから置いていくって言ったのはもえだろ?」
「今頃本部で書類業務だ。」
「頭が弱いやつにやらせても非生産だと思う。」
「ある程度できるようになっておけばここに来た時使いものになんだろ。」
「荒療治…」

えりかは日本にいない…綱吉君達と一緒にいるのか。そして雲雀はすでに財団を神社地下に建設している。匣の研究のために少数精鋭といったら聞こえのいいブラック企業も真っ青な労働環境を生み出している。恐ろしい。

「俺達の他にもボンゴレの建設チームがきててな。もう暫くしたら到着の予定だ。」
「仕事の邪魔だ。こいつらその辺に捨ててくるぞ」

どうやら下見に訪れたらチンピラがたむろっており、手っ取り早くご退場いただいたと言うわけだ。大人になるってこういうこと。パワーなのよ。しかも世界の大ボンゴレ幹部2名。ボスの両腕。運が悪かったなチンピラども。



「はあ……。こんな感じなんだな…」

建設チーム現着。山本と獄寺とウチは専門外なため、調査風景を遠巻きに眺めていた。地中に機械を差し込んでゴリゴリガリガリなんかやってる。ついでに例の霧の能力でカモフラージュされた財団の玄関口からリーゼントやら角刈りやらが、わらわら出てきて少し面白い。ちなみに玄関はあの足のリーチが短い人間に優しくない階段ね。なるほど。あの基地が作られるまでに、こうやって財団の人とも相談していったんだな。当の雲雀不在だけども。

「もえさん。お久しぶりです。」
「草壁さん」
「研究所の建設以来ですね。」
「えー…ええ?」

待てよ…身体は大人なのに中身が伴ってない。研究所の記憶なんてない。これは、意識が未来を行き来して…?待って。ウチの風の能力ってまさか。

「…そうですね。草壁さん。ご無沙汰です」

…10年を。あの日の間違いを正すためには要因を正確に分析して備えて回避または迎え撃つしかないのか。しかも今の自分は意識して特定の場所を選び選択することができない。14歳の思考能力と経験値でやっていくしかない。しかもミスればまた一からのやり直し。こんな複雑怪奇な能力、危険極まりない。というか、何故このような力が風のリングに宿っているのか。現実主義のウチらはこの世界にきてから頭を痛めてばかりだ。いっそこの際、山本や獄寺に事の顛末を話してみてはどうだろうか。10年近くともにいるんだ。力になってくれるかもしれない。あ…でも確かボイスレコーダーにはひとりで進めろと言っていた。自分の性格は自分が一番わかっている。確信を持って吹き込んだに違いない。ならば様子を見つつ、まずは原作にそぐわないであろう要素は片っ端から摘んで行くか。しかし、不安要素は膨大過ぎる。ボイスレコーダーの自分の期待に応えるためには周りにだって悟られてはならないのだ。10年間の記憶もスッパリ抜けた自分は気合いとノリで会話もなんとかせねばならないということであり…やばい。ストレスだ。

「雲雀は留守にしてますが、今夜には戻られますので財団に来ていただけると嬉しいです。中の設計も途中でしたでしょう?」
「うえ、あー…?あー!そうでしたね!はい!伺いまーす!いい頃合いに伺いまーす!」

中の設計が途中??なんだなんの話だ。とりあえず肯定の返事をすると草壁さんはほほんとした顔を見せた。

「喧嘩は程々になさってくださいね」
「ふは、ははは…」

…うわーー。雲雀いるのかー。暫く会いたくなかったんだがなーーー。なんでかなーー。えりかに電話でもかけて自分の性格や振る舞いに解釈違いがないかチェックでもしとこうかな。そうでもしとかないと雲雀に会ったら秒で全てが終わる気がする。初期装備、紙装備のレベル1。もはや農民のレベルで魔王に挑む鬼畜ゲーム。この時代は早速クレイジー鬼コースだな。

「…おい山本。」
「…あー。改めて久しぶりだな。獄寺。ツナ達元気か?」
「まだやってんのか。刀探し」
「…あぁ。"アレ"には新しい入れ物が必要なんじゃねぇかと思ってな。獄寺達がイタリアに行ってる間、色んな刀工に会いに行ったが…なかなか上手くいかねぇな。」
「お前まだ破片持ってんだろ。ジジイも言っていたが再刃した方が」
「それじゃあ10年前と同じになっちまう。それに自我がない状況で反逆でも企てられてみろよ。無傷で止めるのは互いに無理だ」
「刀探しに何年費やした!その間にもアイツはな…!」

「…ハハッ。やっぱ近くで見ていたらそうなるよな。でもわりぃ。同じ刀を握る者としてはさ…今度こそまっさらな、自分の刀を持って欲しいんだ。"当主"の首を刎ねるためではない。自分だけの武器。それがあればきっと」

う…。ここも相変わらず泥沼ってるな…。聞き耳を立てるつもりはないが、なにせ少し離れているだけで集中してしまえば聞こえてしまうのだ。刀探し…。山本はえりかの紅鬼刀のこともなんとかしようとしてたのか。しかも結構年数かけてるっぽい。そして山本だけは日本に残留したようだな。…あのネガティブ山本が誕生した経緯は案外ここなのかな…。山本は利き手を折った末に屋上ダイブを決意したくらいには意外と無遠慮に自分を追い詰めるタイプである。それは純粋故の混じりっ気のない危うさが爆発しただけにも思うけど、一度自信をなくしてしまえば案外ぽっきりいってしまう。えりかの想いに応えられなかったのも、ぽっきりいってしまったなにかがあったんだろう。大人の恋愛は難しい。遠くで想っていても、近くにいない。その物理的な距離だけでも壁ができてしまうし、想っているのが自分だけじゃないとわかっていたのならば。どちらを?なんて馬鹿な天秤を用意してしまったりもするわけだ。一体どこでどう出会ったんだと思わずにはいられないウチの両親は、遠い遠い異国の地にいたとしても地面に耳をつけてお互いを思い、叫んでいたことだろう。

「ブラジル人聞こえますかー!?」
「は?」
「なんだいきなり」
「ごめん母の真似」

物理的な距離は難しい。だけど過去と未来を見れば見るほど。この3人のトライアングルは複雑骨折なのだと思えてならないのである。


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