その答えに触れて2 | ナノ


▼ 72.風のゆくさき

整理しよう。ウチはつまり縦軸の時間を遡行できる力がある……う、うーん…なんて変な事言ってるんだ我ながら。しかし…事実…。今ウチがいるこの未来はえりかと雲雀を喪ったウチが作り直した未来。初めてにしては上手いこといってる気がするんだけど、どこぞでしくじっているか分からないらしいから、慎重に見ていってほしいと。…想像くらい、ならできるけどいまいち実感湧かない話だな…あの雲雀が?嘘でしょ。土に埋めたって死にそうにないのに。この未来、いつどうなるのか不安になってきた。だって言ってしまえばリング争奪戦から可笑しな事が起きていたじゃないか。居ないはずのヴァリアー隊員が増えてたり、それどころかこんなよく分からない属性のボンゴレリングが存在してたり。これはいいのか?というか一回目やり直したウチってどこまで遡ったの?あれ?肝心な事残してなくない?真っ白で配管剥き出しの通路を歩いていたらチン、と軽快な音とともにエレベーターの扉が開いた。

「うっわあ。屈託ない笑顔」
「なんか久しぶりなのな!」

山本だ。暫くペンキ塗れだとリボーンから聞いていたけど、からっとした良い笑顔である。いつぞやの結婚騒動で意気消沈していた未来の山本と同一人物とは思えん。…あれ。もしかしてウチが未来をやり直した事で獄寺とえりかがくっついたなんて事ある?え?ある??というかその時はどうだったの??そういうのも変わるもんなの??ええ…どうしよう。未来をやり直したってさらっと言ってたけど、どこまで遡ってどっからやり直したのか皆目検討がつかん。ターニングポイントはメローネ基地とはいえ、それまでをまた生きなきゃならない訳で、……え…?あれ?…もしかして…

「あのレコーダーの声……10年経った声じゃ…」

……え?え?あのレコーダーの声はもしかして過去に飛ばされた14歳のウチが残した……?いやいやいや、いやいやいや!?

「おーい、大丈夫か?」
「うおおお山本、ウチは今、とんでもない思考回路の迷宮に陥っている…!!」
「出口は見つかりそうか?」
「迷宮だから、迷宮って基本出口見つかってないから」
「大変だな」
「二文字で済ましちゃならんのよ」

すっとぼけ山本。お前は天然うなぎだよ本当に。そのままのうなぎでいてくれ。

「…山本、修行は順調?」
「おう!昨日はえりかにつけて貰ったんだ!」
「ああ、多分ウチが絶不調だったから」

本当に申し訳ない、いやでもさ、悩むわけよ…ウチこんな乙女思考に陥ったことなかったのよ…なにせ三次元の男より二次元のキャラクターを好きになったのだから、それが今じゃどうだ。線画が3Dになっちまったんだよ。ぺらっとしてないの。ちゃんと内臓が詰まってんの。想像できそうでできないでしょ…?すごいよね、ちゃんと生え際とか毛穴とかもちゃんとあるの。皆んなすべすべなんだけど、きちんとあるの。

「山本はブルベ。」
「なんの話だ?」
「すげえなって。髪の毛のコシとかすげえなって」
「親父に似て癖が強くてなー」

白い歯が眩しいぜ全く。虫歯とは無縁なんだろう。お父さんの教育の賜物だな。今日もペンキ塗れでーとかご飯楽しみーとか、話しながら食堂に向かっている最中大人組がバタバタしていた。なに?何事?それに草壁さんがいる。

「草壁さんだ」
「もえさん、」
「何かあったんですか?大人組がなにやら…」

慌てたようにえりかもモニタールームに駆け込んだのが見えた。相当慌てていたのか靴履き忘れてる。ストッキング伝線するよ。

「嘘だ、そんな事あるわけがない!!」
「落ち着け。確信を得られた訳ではない。」
「確信もなにも…!そもそもこんな事が起こるわけがないんだよ…!髑髏さんが"入れ替わる前にやられる"なんて!!!」

…は……?????

「以前骸が倒されたと聞きましたが、クローム髑髏の存命により生存が明らかとなりました。」
「しかしそのクロームの死亡が今確認されたんだな」
「…あり得ない……なんで…」

……この場面…クローム髑髏は、既に入れ替わっていてもいい頃合いなんじゃないか?それが、変わった?未来のクロームが死んだ?違う違う違う、そんなの原作にない!じゃあ、一体、?

どうしよう。こんなに唐突に突きつけられるものなの?修行の進行なんて全く関係ないじゃん!!!!まさか、やり直さないといけないの?ぞわりとした。すべてに。間違った世界、間違えた未来なんだこれ…。いきなり耳が遠くなったように、水面に漬けられたみたいに。皆んなの話し声が遠くなる。どうしよう、どうしよう。どうしよう。皆んな、深刻そうな顔だ。守護者集め、でも、骸はどうなってるの?クロームは?クロームがやられたってことは、骸はどうなっているの?

「っぐえ!!」
「また君は負けたわけか」
「!?」

襟をくんっと引かれたかと思ったら雲雀だ。な、なんで??その顔はどっち付かずな顔だ。また負けた?どういうこと?そもそもなんで雲雀がここにいるんだ?いなかった筈なのに、というか群れが嫌いの筈では?雲雀の存在すらも怖くなってくる。此処にいちゃだめなんだってあんたは。本当ならここに居ない筈なんだから。

「…さあ戻ってみてごらんよ。君にはそれが出来るんだろう?」
「ん、んん!??!?」

耳元で落とされた言葉に思わず勢いよく顔を上げた。なんで知ってんの??誰にも言っちゃだめなんでしょ?なんでよりにもよって雲雀なの?未来のウチを調べててその最中に知ったの?そんな簡単に知れちゃったの?色々聞きたいけど皆んながいる前じゃなにも出来ない。

「ここでは出来ないかい?」
「いや…あの、…なん…、なんで」

雲雀は未だにあり得ない、こんな事あってはならないと驚愕するえりかを尻目にウチを部屋から引っ張り出した。誰にも気取られることなく、一瞬で静まり返った廊下に放られ、数歩前のめりに足が縺れた。壁に手をつくと追いかけるように。退路を塞ぐように大きな手がウチの顔のすれすれをついていた。

「跳ね馬から情報を買った。紅林を使って調べさせた身辺情報と照らし合わせた結果、未来の君が鼠のようにこそこそと動く理由もだいたい分かった」
「う…、な、何のことだかさっぱり…未来の自分の事なんて、全然…」

「パラレルワールド。縦軸の時間遡行」

……ううう…駄目だ、誤魔化せる程、ウチだって消化できていないのだ。雲雀の方が何手だって上に決まってる。なんせ雲雀はリングにただならぬ興味関心をこの歳になってからも抱き続けているのである。その過程でぽっと出た風の特性だって、雲雀にはどうせ筒抜けなんだ。未来のウチは、それを予測出来ないくらい雲雀と遠い間柄になっていたのだろうか。そもそもウチがこんな複雑怪奇な嘘や周りくどいやり方をしなければ良かっただけの話なんじゃないの?

「君は2人目。つまりこの世界において2回目の縦軸の移動をしてきた。違うかい」
「……ううう」
「黙ってちゃ分からないよ」
「うううー…」
「唸ってもダメ」
「うううー!」
「拝んでも無意味。祈る程神なんて信じていないでしょ」

くすりと笑った雲雀はやっと答え合わせができたと満足そうだ。それはようございました…じゃねえええ!ウチが下手打ったのか!?これはウチのせいなのか!?違うだろ未来のウチが下手こいたんだろ!真っ先にバレちゃいけない人にバレとるだろが!他の人に言っちゃ駄目。きっと自分一人で解決したほうが勝手がいいんだ。わかる、一人で済ませてしまった方がいい事もあるって。その思考は変わっていない。でもやっぱりさ。やっぱりよくわからないんだ。

「なんで、雲雀はウチのことを調べたの?」

特性が周りと一線違うから?好奇心から?未来のウチらの関係って、周りが言う変わらないって。未来の自分はこの事があるから雲雀から距離をとってたの?絶対力になってくれるって、信じなかったの?だって、少なくとも今のウチは信じてる。雲雀は力になってくれる。面と向かって言う事じゃないし、興味本意だっただけで急にそっぽ向かれる可能性だってない訳じゃない。でもね、関わってみてわかった。雲雀は優しいよ。昔も未来も。きっと雲雀は10年経ってもなんにも変わってない。変わったのは未来のウチだ。拗れるようなことばっかして、意味わかんない手紙残して、振り回すような事してる。我ながらなんて、なんて女々しい…。

「さあ。それはまた時間を旅して自分で見つければいい。どうせまたすぐ会う事になる。」

雲雀の手がリングを嵌めている左手を覆う。瞬間吹き荒れる風はウチのリングが発した炎だ。


「風は雲を運ぶ。風が吹かなければずっとそこに在る」




轟音がして、雲雀の姿が掻き消えた。そして、ウチはこれを境に、何度も何度もあってはならない未来を修正していくことになったんだ。


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