その答えに触れて2 | ナノ


▼ 67.一進一退

「じゃあ早速もえの修業始めるよ」
「あんたが?ウチの?コーチ?」
「雲雀さんやディーノさんと最近まで修業してたもんね。ちょっと質量的に物足りないかもしれないけど…この時代の戦い方はハードだよ」

えりかの修業とか…違う意味でドキドキする。燃やされない?ウチ。えりかは微量な炎をリングに灯して匣を取り出した。

「え、匣持ってんの!?」
「苦労したんだよ。雪と風はレアな大空よりも少ないからさ。この匣も大切な武器」
「でもあんたって炎が弱いからあんまし長続きしないんじゃ?えーと、ラルミルチが言ってた。炎の注入の度合いによって匣兵器の持続時間が決まるって」
「その通り。でもあたしの匣は主に武器を格納する為だけに利用してるからね。」

ひゅっと冷気が流れ込む。割れた硝子の粒子みたいにキラキラした光が目を覆う。

「これは木刀。対みんな用だよ」
「…木刀…ちょっと舐めてる?」
「微量の雷の炎を纏っていたのなら話は別だよ。神社でγから奪った炎。沢田君の修業も木刀でやってる。それでも舐めてると?」

…言ってくれる。ホルダーから拳銃を取り出したら最早ストップがはいる。

「実弾で戦う気?正気?」
「イカニモタコニモ」
「なんて?」
「だってウチの相棒はこいつだし」
「この時代で実弾使うのは炎が出ない下っ端しかいない。それで入江の基地に殴り込むのは到底無理」
「じゃあどうすんの?」
「あんた最高のお手本を最近見たはずでしょ。」
「え?」
「拳銃を通して憤怒の炎を操ってたのは」
「…あのバケモンに学ぶにはウチのレベルが地を這ってる」
「修得して貰うから。嫌でも。そうやって駄々捏ねて最終的に完成させたのは未来のもえなんだからね」

えりかはウチの武器を取り上げると弾を根こそぎ抜いた。火薬勿体無い…

「まずは炎のコントロールから。ザンザスみたいに豪快じゃなくていい。相手の急所目掛けて炎を射出する」
「…えと、あの、ごめん、それよりもウチ…覚悟を炎に出来ないんだけど…」

えりかの目が若干死んだ。



「ワオ。浮かない顔だね」
「浮かないです本気で。覚悟を炎にするイメージからスタートです」

財団とボンゴレ基地は繋がっている。最もその扉が開くことはなかったのだが雲雀の許可が下り、ついに繋がったのだ。和風造りの廊下はもえの家を思い出させる。確かデザインはそうだった筈だ。

「…無線の件はすみません。余計な催促をしてしまって…」
「どうでもいいよ。」
「過去のもえが自室をひっくり返してくれたお陰で幾らか収穫がありました。…イタリア語で、あたしは…残念ながら読めません…」

オオカミに睨まれるチワワ…。おずおずと差し出した年季のある…言ってしまえば汚い紙の端っこを摘んだ。ぷらりと目の前に並ぶ文字を切れ長の目が滑るように動く。

「……」
「辞書引いてる時間はないんです!なんて書いてあるんですか?」
「君はそろそろ語学を学んだ方がいいよ」
「また今度で!!」

畳に置いた紙に再度雲雀は視線を落とした。この汚い紙に書かれているのは…想像を超えたものだ。自分が理解できていないことを目の前の阿保な女に聞かせるのは時間の無駄だ。だがしかし繋がりかけてはいる。

「"パラレルワールド"…ね」
「?」
「君は知らなくて良いことかもしれないよ」
「…???」

だめだ。話が噛み合わない。えりかは雲雀から明後日の方向に目線を変えた。薄ら笑っていた雲雀だがその真っ直ぐな目線が外されると途端に眉間に皺を寄せた。この紙に書かれていることが本当ならば、もえは"二乗の秘密"を抱えていることになる。一つ目の"秘密"の片棒を背負わせたのは自分とはいえ、"二つ目"は全くの彼女の独断だ。…早くこれの存在を認知していれば。彼女が過去と入れ替わる前に問い詰めたものを。…目の前にいる、彼女の唯一無二の存在であるえりかは何も知らず、雲雀達の描いた筋書きの通りに入れ替わること無く残っている。それは役目があるからだ。その役目とはなにか。それを話せば、えりかはきっと。いや確実に怒り狂うだろう。口を閉ざす雲雀は紙を静かに閉じた。



「あれ。えりかちゃんと修行じゃなかったの?」
「炎灯せないなら話にならない言われた」
「当たり前だ馬鹿者が。」
「えりかの教え方も教え方だよ。"うっとやってばっ"。だよ。擬音語かよ。人間かよ」
「それでもお前はえりかから教えて貰う事が山ほどあんだ。それぐらい自分でやってのけろ」
「綱吉君だってできないじゃん」
「お、俺!?」
「ヘボツナでも炎は灯ってんだ。過去からやってきた中でお前が今一番へぼいぞ。」

机にだらしなくへばりついたもえはぐったりとしている。漫画では見たものの、形のない覚悟を形としてイメージする、なんてそれだけでもかなり高度だ。やはり彼らが「キャラクター」だからこそできるのかも。でも自分と同じ異質な10年後のえりかは炎を灯して匣ですら開けてみせた。同じ筈なんだけれど、覚悟の差…なのかもしれない。10年で積み重なった覚悟の差。

「入江のアジトも突き止めてんだ。コケてたらどうしようもねぇ。」
「でも…」
「お前はツナの守護者になるっつっただろ。ジャパニーズマフィアは約束を違えんのか?」
「…そんなわけない。わかってるよ。」

覚悟の、差。自分に自信がないから炎が出ないのかも…しれない。確信はない。だって考えてもみたらここは異世界な訳で。ヴァリアーの時の肉弾戦とは違う。体を巡る、生命エネルギーが炎の形となって現れる?そんな事が、本当にあるのかって。

「えりかは確かに指導者には向かねえ。あいつからは学ぶよりか盗め。」
「アバウト過ぎた」
「え、ごめん」
「うわ。どこから湧いた。」
「沢田君はバージョンボンゴレリングの会得に成功したんだって。あたしらも頑張ろう。はい立って。タッチ。」
「あんたがどっか行ったからだろーが」
「不可抗力だよ。許せ」



もえにやる気がないわけじゃないと思う。多分、信じ切れていないからだ。自分の中に、沢田君達みたいな力がある訳ないって。あたしもそうだった。でも今は信じてる。自分の中にある力を。それがどれだけ脆弱だとしてもだ。風はシルバーに輝く、渦を巻くような炎だ。もえに必要なのは、自信と確信。沢田君の修業についてる雲雀さんには頼れない。

「あら。えりか」
「義姉さん」
「もえの修業はどうかしら?」
「ああ…上手くはいってないですね…どうも自分に自信がないらしくて。覚悟がなんなのか、イマイチ掴めてないって感じです」
「こっちも似たようなものよ。ハヤト。あの子もやる気があるのかないのか…」

深く、眉間に皺を寄せながら溜息を吐く。隼人君とビアンキ義姉さんの間には少し問題がある。未来の隼人君は割り切ってたけれど今の彼は子どもである。義姉さんとの確執は深い。

「隼人君ももえも。なにかきっかけがあれば越えていける気がしますね」
「どうかしらね。でも越えてもらわなきゃ困るわ。アジトのメドはついているのだから」

もえになにかきっかけを。それができればすぐに絶対に、あたしを追い抜く。

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