その答えに触れて2 | ナノ


▼ 66.個別レッスン

「んー…?んんー…??」

ツナがえりかと修行に励む中、もえは自室で小首を傾げていた。どうも、こう。自分の部屋であり自分の趣味丸出しの物もよく見れば隙間に収まってはいるのだが、なんだか奇妙なのだ。アジトにもえの部屋が存在している今は10年前とはいえ、そこで寝起きしている。ハルや京子とは別室でキャッキャできる環境ではない。寂しいが今そのことはさて置き、机に並べた汚い書類をガン見する。土埃で本来の白さは損なわれ雨で濡れたのか文字が浮いて読めない箇所があったり、保管が下手くそだったのかぐしゃぐしゃである。下手くそか。

「うえー…なんて書いてあんだ。汚い…すごく汚い…」

これで異臭などしようものなら重要なんだの言う前にゴミ箱にぶち込んでいた。読めないのは汚いだけじゃなく、英語なのかイタリア語なのか。それすらも判別不能。もえの頭はツナ並みだ。

「んー…自分の名前があるのはなんとなく…わかる…」

ところどころに存在する自分の名前の綴り。それと同じ回数で出てくるのはえりかの名前だ。交換日記?報告書?…手紙?

「リボーン…に聞けばまたなんかさせられそうだし、獄寺に聞くのもなんだかめんどっちぃし」

10年後のえりかはイタリア語わかるかな。………あてにするな。運転免許だけは奇跡的に取れた女だぞ。他に頼れる人間が皆無…。また今度機会があったら誰かに聞こう。お菓子の缶の隣にばっさりと置いた。…そういえば10年後のディーノさんとなにやり取りしてたんだろ。仕事のことかな?でもそういうのって残しておいちゃだめなんじゃないの?自分とディーノの接点などリング争奪戦の時にちょこっと世話になった程度である。10年後の自分はなんだか、意味わからない。



「………」
「あー、えーと、京子ちゃんにお願いしまして、配膳係を変わって頂きました…」

獄寺は思いっきり顔を背けた。よく分からないが10年後の山本とえりかはくっついておらず、それどころか山本そっちのけで自分にぐいぐい構ってくるのは何故か。なにかと山本から聞くタイミングを逃した今じゃ本人以外に答えられる人間はいないのだ。悲劇過ぎる。それどころか、どんな顔で言葉で声でこの女と話せばいいというのだろうか。10年前なら簡単だった。ただ、いつもの調子でいればいいだけで。なのに、何故。

「…らしくねぇんだよ」
「え?」

そうだ。しっくりこないのはこれだ。らしくないのだ。えりかという女は山本の前以外では結構小煩い。遠慮しないで物を言うようなところだってある。

「10年でなにがあった」
「…色々…?」
「だからその色々ってなんなんだよ!山本もそうだが言いたいことあんならはっきり言いやがれ!!」

わからないから、イライラする。言ってくれないから、モヤモヤする。大人だったら、もっと遠回しに相手を傷付けないように言葉を選ぶんだろう。だけど、今の獄寺は子どもである。14歳だ。性格の捻じ曲がりから相手に噛み付くようになってしまった。

「言いたいことなんかないよ。あたしは隼…獄寺になにも求めないよ。でも獄寺があたしになにか求めているなら応えるよ」
「ぐ、」

そう言われると、口籠る。なにを聞きたい?それに今答えると言ったんだ。ならこのモヤモヤを聞けばいい。すうっと息を吸い込んだ。落ち着け。

「…なんで俺に構ってくんだ。10年後の山本も似たようなことを言ってたが、俺とお前が仲良くなったってなんだ」
「…ごめんそれ聞いて後悔しない?」
「…大体想像ついてる」

…そう、想像はついてる。いやそれで間違ってたのなら自爆レベルだ。二度と顔合わせない。寝返りを打って漸く顔を見せれば…なんて情けない顔だ。

「…なんつー顔してんだテメエ」
「…入れ替わってから目合わなくてさ…わかってた事だけど。こんな時に思う事じゃないんだけど、やっぱりほんの少し…寂しいと思っちゃってた」

未来の自分はとんだ落とし穴に落ちたらしい。犬猿してた。だけど、どこか気になっていた。急に自分達の前に現れた2人。そして確信した。この2人は10年後もボンゴレにいて。ボスが絶えてもこの窮地で奮闘している。自分もそれを理解して歩み寄って、歩み寄られて。そして…山本を超えた。それだけの話だ。やたら嬉しそうに顔を緩めるこいつが。未来の自分が誓って交わしたであろう証の指輪が。今の獄寺に突きつけた。

「未来は知らねえけど、俺は優しくねぇぞ」
「そうだねえ。天と地の違いだねえ」
「俺はお前らを信用してるわけじゃねえ」
「うんうん」
「だけど、ここで踏ん張ってんのは…なんつーか、分かった」
「…ありがとう」

自然に重ねられた手を受け入れたのは、本当になんとなくで。まだ傷が癒えてなくて、払いのけるのが億劫だっただけだ。未来の自分はこの手を引いてこいつを導いていたんだろう。俺は、きっと。



13日後。ようやっと獄寺と山本が修業に復帰した。所々に擦り傷が残る程度までは復活。綱吉君も2人が戻ってきたことに安心したみたい。

「今日から俺たちも修業復帰するぜ」
「怪我はもういいの!?」
「完璧っす!体が鈍って困る程です!」
「4人揃ったな」

ラルミルチとリボーン。そして今日もよれよれのスーツを着たえりかに目を向ける。

「予告通り本日より新しい新しい修業。"強襲用個別強化プログラム"を開始する」
「個別…強化?」
「この10日間、ツナがラルミルチに1対1で教えられたように。1人に1人づつ家庭教師をつけた修業だ。リング戦の時と同じだな。例えばオレが鍛えるのは山本だぞ」
「えー!?リボーンが山本をー!?だ、大丈夫なの!?」
「ハヤトの担当は私よ」
「ビ…ビアンキ!?」
「ふげえ!!!!」
「獄寺君!!」
「じょ…冗談スよね…」
「やはり姉弟。私も嵐属性の波動が一番強いわ。そして修業が無事終わったらあなたにある物を授けるわ。お父様からよ」

うわ、やっぱりぶっ倒れやがった。

「絶対無理だよ!中止した方がいいって!」
「おまえは自分の修業に専念しやがれ」

脳天に死ぬ気弾を当てられた綱吉君は凄かった。ヴァリアー戦の時より迫力満点。鼓舞されるなあ、本当に。本人は否定しまくってるし謙遜しまくるけど、無意識であろうと周りの士気をあげる。それは頭の素質である。

「あ、あたしは皆んなの所に定期的に臨時コーチに来るから!ばいばい!また一時間後会おうね!」
「なんであんたはそんなに急いでる」

んですか。と言い切る前にウチの後ろから物凄い勢いでなにか過ぎてった。それは紫色で、綱吉君の元まで一直線だ。いつぞや神社で見た匣兵器。ああ、なるほど。そういえばえりかは10年前から、なんとなーく苦手だっけ。

「気を抜けば死ぬよ」
「お前は…!」
「君の才能をこじあける」
「いいいいッ!すみません!すみません!なんだか色々すみません!」

雲雀に首根っこ掴まれたえりかのチワワ具合が結構ツボだったりする。ショッカーかお前は。にしてもなんだか意外な組み合わせだな。この2人、10年後もこう…なんていうかチワワと狼…。なに。なにしたのこいつ。

「君には前の無線の件で話があるんだ。空けときなよ」
「すみません!分かりました!すみません!」
「騒ぐな喧しい」

ぺいっと離されたえりかは速攻でエレベーターに乗り込みボタンを連打した。

「あ!もえ!もえの修業にはあたしが付くよ!地下3階にきてね!」
「お前だったんかい!っーつうか!ウチも乗せろこのやろー!」

パタム。エレベーターの扉は閉まった。ちくしょうえりかの奴。本気でしばくぞ。激化する雲雀と綱吉君の修業を後ろで感じながらエレベーターが上がって来るのを待った。雲雀の背中は悠然としてて、それだけは前と変わらないんだなって。少しだけ安心してみたり。

「お前の属性で対等にやれんのは反射の特性を持ってるえりかだけなんだ。へたれた奴だがあいつとの修業は無駄じゃねぇぞ」
「リボーン…ウチは別にえりかの能力を疑ってるわけじゃないよ?元の世界でその頭角は誰よりも近くで見てきたし。なんていうか、ウチも意外と戸惑ってるみたい」
「だからこそえりかなんだ。」

リボーンの言っている意味が分からないようで、分かるようで。とにかく、ウチもこの未来で生き残る術を学ばなければならない。ヴァリアー戦を経て、漸く覚悟が決まったんだ。綱吉君を主と認めて仁義に生きようって。決めたなら貫かなきゃ。自分に申し訳が立たない。貰った恩は一生かけても返す。ウチが綱吉君達に貰ったものは…計り知れない。


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