その答えに触れて2 | ナノ


▼ 65.メンタルコーチ

えりかは頭を悩ませていた。多くの仲間を失ったのは皆も同じこと。ミルフィオーレを倒すことには何の躊躇はない。ビアンキとフウ太はその糸口を掴んだといっても過言ではない情報の持ち帰りに成功した。その中枢が入江正一という男であること。並盛駅ショッピングモール地下に奴らの基地があるということ。…それはわかっていたのだ。しかしながら10年の時間は記憶をも風化させていく。

「あたしにできることなら協力するけど、戦闘はラルミルチに任せた方が…」
「お前はあいつらのメンタルコーチとして尽力して欲しいんだ。」
「メンタル?」
「お前の属性は大空よりも数の少ない属性だ。同じ属性同士でドンパチした経験はないだろうから教えてやる。自分と同じ炎を持つ者と対峙した時、必ず炎の優劣がつく。それは時に臆する原因にもなる。この時代に来たからには沢田達にその経験を多く積んでもらう必要があるんだ。」
「雪の特性を生かして一丁頼めねぇか?今基地内で全員分の対戦を賄えるのはお前しかいねぇんだ」
「いや、もちろんだよリボーン。でもさっきも言った通り戦闘は自信ないよ」
「わかってるぞ。だがお前が思ってるよりあいつらのレベルは低い。ラルの基準に達するまでで構わねーんだ」
「…わかった。」

まずはツナの訓練を開始してくれ。…と言われて指定されたトレーニングルームに3人で降りてきた。既にツナが広いトレーニングルームで居心地悪そうに右往左往している。本当に何度も思うが10年前の我がボスはこんなに小さかっただろうか。未来のえりかにまだ慣れないのかさっきから挙動不審だ。

「ラルミルチ指導の炎強化訓練と同時進行で沢田君のメンタルコーチを務めるよ。改めてよろしく。」
「えりかちゃんがメンタルコーチ?」
「教えただろう。各々の属性には特性がある。嵐は分解、雨は沈静といったように雪にも特性がある。"反射"だ。対峙した者の炎を一時的に真似ることができる」
「じゃあ俺の炎も映せちゃうの?!」
「他の属性より持続時間は大幅に短いけど可能だよ。沢田君は炎強化訓練を平行してるんだって聞いたよ。いい機会だからあたしと炎を出して武器を交えよう」
「ええっ!?そんな!えりかちゃんと戦うって…!ムリムリムリ!だって!」
「ムリくないよ。」
「だってえりかちゃんすげー強いし!」
「過去の方がまだ幾分かやれたけど、この時代のあたしは"いないよりいたらいいレベル"のポンコツだからね。むしろ沢田君の方が怖いくらいだよ」

発展途上の。成長期の子ども達より怖いものはない。…そういば隼人君も言っていたっけ。力もついて、仲間もできて大人にはなれたけど。がむしゃらに、なんのしがらみもなくやれたのはあの頃だけだったと。あの頃の方が、自分は必死だったと。隼人君の事は隼人君にしか分からないから共感はあまりしてあげられなかったけれど。今、過去から来た皆んなを見て少しだけ思う。そうだ。この子達は必死だった。

「あたしは沢田君達に教えられることを全部教えたい。この世界を変えられるならなんだってする。だから…一緒にがんばってくれる…?」

ツナは得体の知れぬ違和感を抱いた。この時代に来てからというもの、ずっと。なんでこんなことに。自分達の未来は…なんて悲惨なのだと。皆んなが大変な時に、俺は死んでいるなんて。そんなの、そんなの…。目の前にいる彼女は自分の知っている少女ではない。色んな事を経験して、この悲惨な時代に生きているんだ。…過去の皆んなをこんなところにいさせられない。だからと言って、未来の皆んなを見捨てるなんてこともしない。…なら、やるべき事は1つなんだ。ラルミルチに必死に頭を下げたのだ。この時代で戦うと誓ったじゃないか。

「ごめん…えりかちゃん。ちょっと待ってて」

まだ柔らかい手袋をはめて死ぬ気丸を取り出す。この手袋がグローブに変わる時、決まって急激な気力が湧くのだ。死ぬ気の炎を確認したえりかが上着のポケットから取り出したのは匣だった。

「ラルミルチから匣の説明は受けたかな。あたしは山本みたいにどこでも刀を持ち歩けないから匣に収納してる。故に結構匣持ちなんだよ」

白い、だけどほんの少しだけ薄い水色を帯びた形容し難い程儚く綺麗な炎は匣の鍵を開く。中から一本の木刀が手元に飛び出した。

「もう一度言っておくけど、あたしの戦闘能力はボンゴレイチ劣る。あたしに勝てないなら誰にも勝てないと思って」
「聞こうと思ってたんだが、何故お前は自分を卑下するんだ。俺の知るお前は…」
「沢田。時間が押してる。さっさと始めろ」

くっと眉を寄せたツナだがようやく拳を構えた。自分を卑下するというか、事実なのだが…。少々自嘲し過ぎたかと反省する。自分は取るに足らない人間に成り下がったのだと認知して貰いたかっただけなのだ。そうでもしなければ、右も左もわからない過去の彼らは頼りない、こんな自分を頼るしかないだろうから。

「ヴァリアーと戦った時みたいに。あたしにかかってきて」

ツナの手が後方に炎を放射する。正攻法、刀が武器だとわかっての正面突破だ。えりかの眉がぴくっと反応する。速い…速いけれど、

(未来の沢田君には及ばない…)

それに、最初から炎を写し取るとネタ明かしした筈なのにこんなに膨大な炎を向けてくるなんて。ツナの拳を両手で掴む。簡単に武器とも言える拳を掴まれたことにツナは驚愕した。ここからが雪の特性、本領発揮だ。

「!な…!」
「あたしの捻出できる炎は限られているけど小出しにする分、濃縮されてるって事だよ」
「なぜ…!零地点突破を…!」
「これは雪の凍結能力。大元の特性は炎を写し取る反射だけど、小物を凍らせる事だって可能」
「っぐあ!」

もう片方の手から嵐属性の炎が放射される。分解の特性で溶かされた氷は拳を離し、直接身体に叩き込む。床に打ち付けられたツナは咳き込みながらもすぐに立ち上がる。

「もしかしたらこういう戦い方をするのはあたしだけかもしれないけど、覚えておいて損はないよ」
「…複数の炎を扱うのは、いつでも可能なのか」
「なんていうか、ストック型なのかな。無限にできないんだけど…」
「こいつの場合は複数系の波動を持っている訳じゃない。過去に戦った奴のを写したか…或いは故意に炎を貰ったかだ。嵐属性ということは獄寺か」
「いつなにがあるとも限らないから、分解の炎は持っとけって」
「お前ら夫婦、10年前とは考えらんねーくらいのイチャつきぶりだな。」

たはは、と照れ笑ったえりかにツナも複雑な顔だが逆にこんな未来もあるんだと思った。確かに10年前、自分達がいる世界の二人はこんな感じではない。むしろ山本と行動していることの方が多い印象だ。二人になにがあったのか。聞くのはお門違いな気がして。それでもやっぱり思うのは、過去に帰りたい…未来のことなんて、知りたくない。本当のところ、それだけだったのかもしれない。

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