その答えに触れて2 | ナノ


▼ 死んでいくパラレルワールド

目の前の白い悪魔に自由を奪われた。ここに閉じ込められた時は派手に取っ散らかして喚いたものだが、これだけ無菌室並の白さの中、窓一つない場所にいると人間嘆きを通り越して諦めた上に受け入れるらしい。10年という月日を経た自分が、ここまで変われるものかと自嘲した。嗚呼、えりかは元気だろうか。みんなと仲良くやっているだろうか。数ヶ月後に控えた彼女達の結婚式に参列するはずだったのに。ちくしょう、勿体ない。親友の式は特別だ。それも、愛だなんだと夢は見れど少々疎遠の立場であった彼女の。真っ白なウエディングドレス、当日のお楽しみだと見せてくれなかったけれどきっと似合うのだろう。10年という月日がえりかをも変えた。いや、彼が変えてくれたのだろう。えりかをあの御家から解き放ったんだ。彼に感謝してる。だけど、今のままでは感謝どころかその姿を見ることさえ叶わない。白い頬に目立つ爪模様のタトゥーに目をやった。

「親友の結婚式に出たい」
「ん?誰?」
「親友。この世界に唯一無二の存在であるし、ん、ゆ、う」

あんたはおじいちゃんか。耳が悪いのか、おちょくってるのか。2度も同じ事を繰り返し話すのが嫌いだ。イラッとするのは最早許して欲しい。

「あー…紅鬼の子?」
「そういう風に呼ばないでくれる。それは過去の話」
「んん、それが結構過去話でもなかったりするんだよね。あの世界この世界。皆一緒。変わり映えしない」
「は?何の話」
「お口が悪いのは慣れたけど、怒るのは体に悪いよ?はいマシマロ。甘くておいしーよ」

口に詰め込まれたマシュマロを奴の顔目掛けて吹き飛ばしてやったら、少し面食らった顔で「もー、困ったちゃん」なんておどける。

「えりかになんかしたら、首噛みちぎる」
「あはは!そうするしかないよね。手足自由じゃないもんね。でもね、運命は変えられない。僕が世界の創造者になるんだもん。」
「紅鬼を使いこなそうとしても無駄。あれは誰にも従わない!孤高の矜持。その権化たる紅鬼が支配欲の塊のあんたなんかに屈するはずがない」
「僕って面白いことを考えるの大好きなんだ。その子の結婚式、あとちょっとなんだっけ?」

憎たらしい笑顔。笑う時、糸目になる。心底面白いと言いた気。長い脚を組んで奴は明日の天気を言うくらい軽く言葉を紡いだ。

「他人の幸せを壊すのって、ゾクゾクしない?」

自分は後ろ向きでもなければ悲観的でもない。楽しい事は全力で頑張れる。だけどこの世界はしっくりこない。まるでゲームのようだ、と。奴にとっては自分以外は村人A、村人B。自分中心に作られたゲームの創造者。人の囁かな人生の門出も平気で踏みにじれる。…最悪以外のなにものでもない。

「あまり共感されたことはないんだよねー。でも、僕の邪魔するなら容赦しないよ」

鎖を引っ張られれば腕が持ち上がる。恐ろしい程に人間味のない紫の瞳に言い知れない悪寒を肌で感じた。

「ボンゴレの相手するのも飽きちゃった。うん、そろそろ話の場を設けてもいいかな。」

にたりと笑んだ、この男の顔を一生忘れる事はないだろう。後日、嬉々として奴が言い放った言葉も忘れはしない。

「あはっ!まさか本当に丸腰で来ると思わなかった!傑作だね!天晴れだよ!大ボンゴレのボスがあの様。本気で話し合いでもすると思ったのかなぁ!本当に、マフィアのボスに向かないね、彼」

沢田綱吉って男はさ。

「それから紅鬼ちゃんね。−あれも呆気なかったなぁ。幻ちゃんが一撃で仕留めちゃった。幸せだったかな?いい夢見れたかなあ?」
「えりか……に、なに…を……」

「馬鹿じゃないんだから面白くない質問しないでよ。綱吉クンと仲良く、死んじゃったよ」

紅鬼、危ないもんね。君が忠告したのを思い出して、あぁ潰さなきゃって。芽は出る前に摘んでおかないと。

「あれ?泣いてる?悲しい?僕が憎い?いいよいいよ。どんどん憎んでよ!愛情と憎しみは紙一重!僕はどっちでもいいんだ。いや、むしろその憎悪に侵されていく顔が見たかったのかもね」

残念だったねー、結婚式自体なくなっちゃって。彼なら死体でも結婚しそうな勢いだったよ。喚いて喚いて。それはもう動物みたいに。

「ボンゴレの壊滅は近い。ボスは死んで、その一角を担っていた守護者が1人死んだんだから」

この世界も、僕のものだね。




「ん?」
「なに?」
「もえ今あたしのこと呼んだ?」
「呼んでないけど。」
「なんかもえに呼ばれた気がして…」
「げ。なんか憑いてんじゃないの」
「やめろ。リアルにやめろ。」

もえの声に似た……それでいてとても苦しそうな……やばい、もえのドッペルゲンガーだったら確実に夜枕元に立たれる。

「あたし、もえになんかしたかな」
「ほーう、ウチになんか後ろめたい事があると」
「ないけどさあ!」

……この、纏わり付くような気持ちの悪いモヤモヤは……なんなんだろうか。

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