その答えに触れて2 | ナノ


▼ 49.顎が外れた

「どういうことだって」

前転して前転してしまった。危うく首の骨折るところだった。比喩ではなく物理的に。暫く目を回していたのだけれど、漸く顔をあげれば簡易的な部屋が広がっていて。だけどよくよく見たら確実に女性が使っている部屋だとわかる。下着干してるもん。別にまじまじとは見てないよ。ただ、若い女性のだなーって。

「うっわまじかよ。とうとうやっちまったよ」

そう、こうなってしまったのには理由があるのだ。ウチは人生で初めて「10年バズーカ」に当たってしまったのである。そういえば10年バズーカを撃ったのは誰だったのか。REBORN!の最新刊が未来編のメローネ基地前で終わってしまっている。ウチらの知識もそこまでだ。その先は……完全なる手探り。そこまではなるべく波風立てないように務めることはできても。その先は……。

「いやいや、いやいやいや。まずはここが何処であるかが問題な訳。無駄な事に脳味噌を使うのは良くない。」

とりあえずだ。ここはどこで未来の自分は何をしていたのか。それが問題である。……てか、

「未来に……ウチは存在しているんだ」

それが無償に嬉しかった。ドアノブのない扉のようなものの前に立つと、機械音と共に横式に自動で開いた。こわ。普通にこわ。

「ひっろいなぁ…果てしない廊下」

でもこの感じ、見たことある。天井にパイプやなにやらが剥き出しになっているところとか。果てしない廊下とか。この自動ドアとか。

「多分…ここはボンゴレ基地だ」

大人になった綱吉君が作らせていた、日本のボンゴレ支部。ということは誰か彼かはここに。

「ちゃおっす。お前も来たんだなもえ」
「リボーン!!やだ、めっちゃ懐かしく感じる」
「同じ事をそっくりそのままお前に言われたぞ」
「え、未来のウチに?」
「お前は10年後の今でもこの世界に存在してるってことだ。良かったな」
「良かったです」

猿のようなスーツを着たリボーンはぴょんと飛び上がるとウチの肩に着地した。

「獄寺がさっき茶を入れてくるっつって出ちまってな。応接間に移動するぞ。」
「あ、獄寺がいるんだ」
「お前なら既に知ってるかもしんねーが、ここは並盛だぞ。」
「うん、知ってる」

そこを左だ。ちっさなお手手が指し示した扉を開ける。暖炉の上についたモニターは真っ暗でなにも映していない。辺りにはなにかの資材や空のダンボールが放り出されている。ソファの上に移動したリボーンはちょこんと座ってこちらを見上げた。

「そのおしゃぶりの周りのって…」
「ジャンニーニが造ったおしゃぶりの保護カプセルだぞ。」
「えっと…そう、ウチ10年バズーカに当たって…」
「リボーンさん。お待たせ致しました。」

ほのかに香る珈琲の香りと共に黒のスーツをかっちりと着こなす男と目が合った。じわじわと開く瞳孔に、ウチもまじまじと見返した。

「郷士……か?10年前の」
「あ、えっと、うん。そうだよ。」
「そうか…久しぶりだな。」

随分やつれてる。嗚呼そっか。綱吉君がいなくなって…まだそんなに月日は経ってないのか。ボスとして友として。慕っていた綱吉君の死は獄寺にとっては耐え難いものなんだろう。それでも綱吉君の意思を引き継いで、陥落寸前の10代目ボンゴレの守護者として今戦っているんだ。リボーンと自分のとで2つ入れてきたんだろうけど、獄寺は躊躇う事なく自然にウチの前にカップを置いた。砂糖とミルクも多くつけるというナチュラルな気遣い付き。

「獄寺…さん。えっと、えりかは?」
「なんだ改まって。あいつは休養中だ。」
「休養?」
「仕事を三徹通して、とうとうぶっ倒れた」
「三徹……」
「安心しろ。10年後のえりかも元気だぞ」
「いや、リボーン。確実元気ではないよね」
「とりあえず寝かせてるから。気になるなら後で俺の部屋行ってこい」
「え、獄寺の部屋で寝てんの?」
「あ?なんかおかしいか?」
「おかしいもなにもそんなに仲良かったっけ?」
「お前なぁ。…10年だぞ。そりゃ付き合いも変わる」
「なんていうか…濃ゆいお付き合いとかじゃない…よね?」
「ガキには教えねーよ。」
「が、ガキ……」
「10年早ぇーよ」

含み笑いして茶化して返してくるものを、どこか拭いきれない影が獄寺を覆っていた。ウチの顔を見て悟ったんだろう。獄寺は少しだけ眉間に片手を持っていって深い溜息をついた。

「山本の親父が消された」
「……っ」
「それが、昨日だ。」
「昨日……?えりかはそれを知ってるの?」
「この件だけは伏せているつもりだが十中八九バレている。…俺の仕事を手伝う事で、気を紛らわせてたんだろうぜ。」
「山本は……?えりかは山本の家に住んでた。家族だって、山本が言ったんだよ。2人は今……」
「…郷士。俺とえりか、山本の関係が10年経った後も変わらないとは言えない。えりかの前で山本の話はすんな」
「は……?なんで」
「今の俺達は、ちっと色々面倒くさいんだ。」

色々面倒くさい関係。それがなにを意味するのかが理解できないのは、ウチがガキだからなのかな。強い銀色の眼に釘を刺されるように睨まれて、素直に首を縦に振った。……獄寺、本当に変わった。

「10年後のこいつらの問題だ。俺に免じてくんねーか。」
「リボーンは知ってるの?」
「大体は把握してるぞ。」

さすがですねリボーンさん。獄寺の声色は酷く落ち着いていた。ハスキーなのは変わらないのに逆にそれが大人のようだった。いや、大人なんだ。

「今のボンゴレの状況はわかってんな?俺達とは違うパラレルワールドから来たお前なら」
「!獄寺、10年前のえりかの話…信じてたの?」
「確信はなかった。信頼も信用もしてなかった。だが、一応は俺の中で留めておいてたんだ。まさか10年経ってから思い知らされるとはな」
「どういうこと?」
「未来のお前は、リボーンさん達が10年後に来ることを予期していた。そして明日、ボスの棺に向かえと念を押されている。…きっと今度は10年前のボスが来るんだろ?」

未来のウチは、獄寺に話している。獄寺はそれを信じている。そして、先読みの内容も完璧だった。何も言えないでいるウチを見てか、少し短く息を吐いたこの人は左手を目の前に翳した。

「この世界での戦い方は知っているか?リングと匣の関係性についてだ」
「あ、はい。」
「雪と風のリングはレアで数種のみの匣に留まる。故にリングも貴重だ。俺達の属性みてーにごろごろ創りだされているわけでもねぇ。こいつは雲雀が研究している風のリングだ。俺が持ってても意味ないからお前にやる」
「え、あ、ありがとう…でもなんで獄寺が持ってんの?」
「えりかが雲雀んとこに押し掛けて無理やり強奪してきたリングなんだが、なくしたって騒ぎやがってよ。風呂場に落ちてたから拾った。」
「えりか変わらねー……」

貰ったリングはボンゴレリングとは違い、不思議な色をした石が一粒嵌め込まれているものだ。とてもシンプル。これを、10年後の雲雀は研究して創り出した……のか。そんな話はなかった。やっぱり修正はここまでくると不可能なのかな…。

「獄寺のそれも嵐属性のリングなの?」
「あ?……あぁ、まぁな。」

左手の親指と中指。とてもゴツゴツしている。あれ。でも、薬指のやつって、……え?

「獄寺……結婚してるの?」
「……」
「え?誰?!ねえ!ねえねえ!ねえねえねえ!」
「だーっ!うっせえな!ねえねえお化けか!」
「相手!相手誰なの!?ちょっと待って、変な所で話変わるなよ!どうなってんだよ未来!」
「相手はお前もよーーーっく知ってる奴だぞ」
「へ!!?」
「リボーンさん!悪戯が過ぎますよ!」
「ハルちゃん!?ハルちゃんでしょ!?」
「なんでそこにアホ女が出てくんだ!」
「違うの!?」

……待ってよ。じゃあ……。なに。今までの話から、ウチを牽制する程庇護した人物。色々面倒くさい関係。山本の話は禁止……部屋で寝てる……左手の薬指…………よーーっく知ってる奴。

「あああああー!!!!!!!!!」
「うっせー!!」
「なんで!?なんでこうなったの!?why!!?だって、だって山本は…!」
「てめーは俺を応援する気はねーのか」
「え!?てか、じゃあ…やっぱり」
「……本当に、うっせーな。お前は」

ふっと綻んだ顔は昔を思い出したかのように、少しだけ子どものようで。左手に右手を被せた獄寺ははっきりと口に出した。

「そうだよ。去年入籍したんだよ俺達」

顎が外れた。


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