その答えに触れて2 | ナノ


▼ 63.選びとったもの

「…おおう。」
「なにが、おおうだよ。」
「おはようございます」
「おはようざます。」
「マダムかよ」

えりかの目が覚めたのは神社で雲雀がγを討ち取ってから丸二日経過した後だ。山本と獄寺はお互い重症を負いながらも驚異的な速さで回復しつつある。というより、回復しなきゃならないのである。その前向きさが傷を速く癒しているのかもしれない。それとは反対にえりかは目覚めるのも傷が塞がるのも遅い。ちんたらちんたら。晴れの属性がいない為、治癒も自己で行なっていくしかない。幸いこのアジトには医療機器が充実している。いや、こだわりが強いくらい出ている。…綱吉君らしいのだ。10年経っても、きっと彼は、綱吉君なのだ。

「2人は…?」
「順調に療養中」
「…嗚呼、そう。結局お荷物になった。いや、分かってたけど。分かってたんだけどね」
「…あのさ、あんたもウチに言っていいよ。なんか雲雀は本人に直接聞けとしか言わないから…えっと、そのー…」

…なにから聞けば?聞きたいことは沢山ある。だけど、なんだか10年を生きたえりかはえりかだけど、少し違くて。とんでもなく大きな地雷すらある気がして。言葉に詰まる。そんなウチを下からゾンビのような生気のない顔で見上げたえりかは「あー」と真意が全く掴めぬ声をあげる。

「雪の特性のこと?なんで隼人君達について行ったかってこと?前線を退いたこと?紅鬼刀のこと?」
「見事に全部だわ」
「うそ。5時間あっても説明し足りないよ。」

うーん、と唸ったえりかがふいに片手をあげた。10年後の獄寺が左手に着けていた指輪と同じデザインだ。本当に結婚してんだなー、なんて。それに連なるようにして白い石が埋め込まれたリングが目を引く。

「だけど全部に関連性はあるから、さらーっと話すから、さらーっと聞いてね」
「そのさらーっとの言い方むかつく」

「まずあたしの紅鬼刀の事から。ヴァリアーとの対戦でへし折れたあれは以降、山本のお家で保管していたんだけど、あれに代わる武器が中々手に入らなかったので再刃して貰った」
「再刃する技術なんて、そんなの誰が…」
「うん、あたしも吃驚したよ。ボンゴレ創立からの古いお付き合いの人みたい。滅多に人前に出ることないらしいよ。あたしも人を経由して刀を送って貰ったんだ。確か彫金師…って言ってたかな。」
「はあ…、それで紅鬼刀は?」
「見事に復活を遂げた。だけど厄介なものも復活したんだよ」

あたしの中に居座る紅鬼刀がさ。トントンと親指を心臓に向けた。…紅鬼刀。忘れもしない、だって再会したのだってウチにとってはつい最近で。

「そいつ、どうしちゃったのか着々と意識を奪おうとする。それの大部分が原因で体に問題が起きて、前線離脱。あたしはデスクワークでしか役に立てなくなった。」
「…獄寺、心配しただろうね。」
「うん、きっと。なにか悪い病気じゃないかって…できれば、もうあんな顔は見たくないな」
「…うん」

未来に来て、獄寺と会って。獄寺の顔がどれだけえりかを大事に想ってるかって。そんなの、気づかない訳がない。本当は離れるの嫌だった癖に、大人だからって格好つけて。ウチなら…絶対むりだ。

「そんなわけで前線を退いたわけだけど、これはあたしにとってはとても重要なことだった訳だ。雪の特性は"反射"っていってね。鏡のように他者の炎性質をほんの僅かな間完璧に写し取ることができるんだ」
「…ビアンキさんが言ってた。だから雪本来の炎が弱いって。写し取った炎を相殺しない為だって」
「お義姉さん帰って来たの?」
「うん。フウ太君と一緒に。ランボにイーピンやハルちゃんや京子ちゃん、嬉しそうだったよ」
「…なるほど。良かった。あたし1人じゃどうにもできなかったから」

微妙にそこを気にしていたらしい。えりかはよいしょと体を起こしウチと同じ目線に合わせた。

「…最後ね。隼人君達について行ったのはごめん単純に居ても立っても居られなかったから。2人を守れるくらいはできるかと。たとえ敵に情報を与えることになったとしても…それに信じてた。雲雀さんを。もえを。絶対に来てくれるでしょ?」
「……子供かよ。駄々っ子かよ」
「お茶目さも残すのも大人だよ」

信じてたって…バカ。当たり前だ。雲雀は必ずファミリーの側にいるし、ウチだって。

「そうだ、山本。山本があんたのこと心配してちょくちょく見舞いに来てたよ。動けるなら行ってあげれば?」
「そか…過去の山本は可愛いなあ」
「…山本となんかあった?」
「"あいつといて本当に幸せなのか"…って言われたよ」

…直球ストレート。さすが球児。てか、あれ?

「山本に獄寺と結婚したこと言ったの…?」
「ううん。」
「え、」
「多分、指輪と隼人君への態度で察したんだと思う。」
「ば…、馬鹿!今ここにいるのは過去の、10年前の山本なんだよ!?それが原因で過去に帰った時、2人の未来が今みたいに変わっちゃったらどうするの!?」
「…あたしは隼人君と一緒にいられる今に後悔はしていない。確かに過去に戻ることはできないよ。だからこそ過去のあたしに託す。…もしかしたら、2人に選ばれない未来が来るかもしれないしね」
「…それって、どういう…」
「ほら。愛想尽かされても仕方ないじゃん?」
「そんな訳ない…」
「今のあたしは選択した未来を隼人君と生きる事に決めた。絶対揺らがない。…例えどんな結果になったとしても」

…押し付け、だったかな…。少しだけ反省した。えりかに諭されるように、宥められるように言われた言葉には強い意思があって。…そっか遅いのか、もう。山本は、気づくのが遅過ぎたのか。えりかは獄寺と生きる道を選んだ。山本とじゃなくて……あれ?ふいに横をむけば、…なんて、タイミングで…。

「あたしは隼人君を愛してて、約束したもん守りたいよ」
「…あ、うあー、うん、えっと…オッケー!!」
「…は?なにがオッケー?」
「いや!なにも!?じ、じゃあほらあれ。ウチ綱吉君の所にも寄ってくから!えりかが目覚めたって!」
「お、悪いね。ありがとー」

片手振るえりかに見送られて速攻で部屋を飛び出した。みつけてしまったのだ。仕方ない。挙動不審になるのは仕方ない…!!だって!!

「待って!」

そんなところで立ち聞きしてるなんてわからなかったから!

「山本!!」

頼むから、らしくなく背中を強張らせないで。

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