その答えに触れて2 | ナノ


▼ 60.見て見ぬ振り

…5年前程から予兆はあった。この世界に来て9年と少し。あたしの記憶に深く刻まれたあの家の言葉。

受け継ぐのは刀だけではない

あたしはその意味が分からなかった。ヴァリアーとのリング争奪戦で初めてリボーンから指摘されて気付いた。あの刀が意思を持ってあたしの中に居座っていること。元の世界ではあたしに気を使って誰もなにも教えてくれなかった。…ううん。言えないくらい酷いことを沢山してしまったんだと思う。5年前…あたしが山本に振られた頃ぐらいだろうか。頭がぼうっとすることが増えて、任務にも支障をきたすようになった。基地の廊下で立っていられない程の激痛を受けた、あの時はとても隼人君を心配させてしまった。それからも度々そういうことが増えたせいで、あたしは沢田君に前線から外されデスクワークの仕事を任されるようになった。仕事が多くて疲れて寝落ちるのは勿論だけど、それだけじゃない事くらい分かってる。

「…っ、いで…!」

…ヴァリアーとの闘いで折れた刀は刀解して砕いた。例え、いつかもし元の世界に帰ったとしても、二度と使うことはないと決めたから。だけど、結局はそれに縋ってしまった。

「…、い…っ、」

持っていた資材が落ちる。バサバサと落ちる音すら頭に響く。白いリノリウムの床に膝をついた。こんなこと、別に珍しくない。だけど痛むものは痛い。…ああ、こんな時はいつも隼人君がいた。力加減の出来ないあなたは不器用な言葉で、行動で。あたしの痛みを和らげてくれていた。なにも変わってない。そうだ。あなたはいつもそうだった。

…10年前のみんなに余計なこと考えさせちゃいけない。彼らがすべき事は一つだけ。それの為にあたしはいるんだ。隼人君や山本に任されたんだ。…そのうちに痛みはスーッと引いていき、ようやく散らばった資料に手を伸ばした。

「みんなの前で暴走なんかしない」

させない、そんなことしてたまるものか。もえの疑惑を晴らす。あの子の抱えているものを知る。雲雀の、見せはしないけど苦悩を汲む。…残された限りある時間の中でどれだけの事ができるだろう。その為にはまず、頭を回せ。前線を退いた者ができることなんて限られている。なら考えろ。過去の自分に繋げろ。

こんなところで、負けてなんかいられない。



「匣を開匣できない場合、考えられる要因は二つ。炎が弱いか、属性が違うか」

同時刻、ラルミルチの修行を受けながら獄寺と山本、ツナはリングに炎を灯すことに成功した。見込みゼロだと確信すらしていたラルミルチにとってこれは予想外の出来事である。

「リングが発する炎は9種類。ボンゴレリングと同じく大空、嵐、晴、雲、霧、雷、雨、風、そして雪に分類される」

更に匣も同じく9種類の属性に分類されリングと匣の属性が合わなければ開匣できない仕組みだ。

「おいちょっと待てよ。10年後の山本はそんなこと言ってなかったぜ。奴は波動がどうこうって…」

「人の体を流れる波動とはリングが炎を引き出す必要なエネルギーだ。波動もリングと匣と同じように9種類に分類され人に流れる波動の大きさとバランスは生れながらに潜在的に決まっている。大抵の人間には複数の波動が流れているが1つのリングが炎にできるのは1種類だけだ。これだけは忘れるな。波動とリングと匣。この3つの属性が合致しなければ匣は開匣されない」

ラルミルチが3人に最初に課したのはある匣の開匣だ。大空のリングの特性は調和であり、故に唯一すべての匣を開くことが可能だ。獄寺の嵐でも山本の雨でもラルミルチの霧でも開かなかった匣の中には鎖に巻かれた、損傷の激しいおしゃぶりが出てきた。それがラルミルチにとってなにを意味するのか。今のツナ達には理解の及ばぬ事だった。



初日の修行から1日。朝一番。基地に緊急信号のサイレンが鳴り響いた。

「何すか今の音は!?」
「なにがあった!」
「みんな!大変だよ!ヒバリさんの鳥からSOSが!!」
「あのヒバードとかいう?」
「場所は」
「現在7丁目を時速37q/hで移動中!高度下がります25…20…!!き、消えました!」
「消滅した場所には何があるんだ?」
「神社です!」

あの雲雀がSOSなんていう信号を使うとは到底思えない。雲雀からはそんなこと聞いていない。そもそも話の顛末は知っている。これは、黒川花の放ったSOSだ。

「あの点が現在確認できるリングです。つまり少なくとも地上にはこれだけの敵がいるわけです。その中で一際強いリングが一つ。恐らく隊長クラス…精製度はA以上…」
「γ(ガンマ)だな」
「ガンマ…?」
「お前達と戦った第3アフェランドラ隊隊長…電光のガンマ。名のある殺し屋とマフィアの幹部を何人も葬った男だ」

「ツナさん!!!大変なんです!」
「わかってるよヒバードのこと今話し合ってて…」
「京子ちゃんがいないんです!!!」
「な!なんだって!?」
「書き置きがあったんです!一度家に行ってきます。ランボ君達のおやつを貰ってくるね…って」
「ジャンニーニ。どこかのハッチを開けっぱなしにしたりしてることは。」
「そのようなことは…!6つあるハッチは全て声紋、指紋ロックが施されているのですから!一応開閉記録をチェックしてみますが…あ。私Dハッチの内側からのロックを修理中でした…開いた形跡が…」
「なんでそんな大事なこと!」

…知ってたとはいえ、なにもしないのはいつまでたっても歯痒いものだ。なにも背負うものがなかったら早々にジャンニーニにDハッチの早急なるメンテナンスを要求していた。そうすれば京子ちゃんが基地から出ることはなかった。ヒバードの信号だけで済んだはずだ。だけどそれをしてしまったらまた話を曲げる。

「落ち着け沢田。雲の守護者の鳥からの救難信号の件もある。今はどうすべきか総合的に判断すべきだ」
「この場合最優先事項は京子を連れ戻す事だな。次にヒバードの探索及び調査だ」
「笹川了平の妹がまだ敵に捕まってないと仮定して…できればまだ戦闘は避けたい。敵に見つからぬよう少数で連れ戻すのがベターだな」
「それはヒバード探索にも言える。少人数で動いた方がいいっす。どーしましょうか10代目」
「決めてくれよツナ!」
「ええ!?お、俺!?」
「当然だ。ボスはお前だ」
「え…えーと、じゃあ俺も行く!京子ちゃんとヒバード、両方一緒に進めよう!」
「10代目のお考えなら賛成っす!」
「そうと決まれば準備開始だな!」

「じゃあ分担を言うね!俺とラルミルチで京子ちゃんを追う。獄寺君と山本とえりかちゃんでヒバードを探してほしいんだ」
「了解。2人の子守だ」
「誰が子守だ!!」

「通信機はこの時代のお前達と共に失われた。そのため今回はお互い連絡がとれない。原則として戦闘は回避しろ。それでも回避不可な事態が起きた場合は」

それぞれの判断で対処しろ


prev / next

[ back to top ]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -