その答えに触れて2 | ナノ


▼ 59.過去と今

びたん。両手をついて頭を下げた。土下座など、なんたる屈辱…獄寺は顔を顰めながらもぎゅっと目を瞑り耐えた。自分の隣で、己のボスである沢田綱吉が同じように頭を下げているのだ。右腕として、ボス一人に恥をかかせるわけにはいかない。

「お…お願いです!この時代の闘い方の指導をして下さい!!」
「…なんの真似だ」
「お…俺たちもっと、強くならなきゃいけなくて…でも…あの、リングの使い方とか解らなくて…」
「リボーンの差し金だな」
「ピンポーン。守護者を集めるには戦力UPは絶対に必要だからな。お前以外適任者はいねーんだ」
「断る。山本に頼むんだな」
「それがな。山本は見ての通りただの野球バカに戻っちまったんだ。」

てめーも土下座しやがれ!思わず口をついてでた。本当にこいつは…!!へらへらしやがって!

「…紅林がいるだろ」
「えりかは確かに口での説明は可能だが、炎を使っての戦闘を教えるにはちょいと難があるらしくてな」
「…あぁ確か雪は元来、炎性質が弱いんだったな」
「問題はそれだけじゃねーみてぇだが。な?お前しかいねーんだ」

はた、と獄寺は顔をあげた。この呑気な山本は知りもしない。いや、自分も割りかし分かっちゃいないのだろう。だが確かに聞いたし頼まれもした。自分は出来ないからと…未来の山本はこう言った。厄介なものがでてきた…ヴァリアーとのリング争奪戦で会った"紅鬼刀"。10年の月日を経て再び再刃されたということか?いや、しかし10年後のえりかは帯刀していなかった。

「ガハハ!ツナ見て見て!てっぽういっぱい!」
「んな!?ランボ!一体そんなものどこから!?頼むからじっとしててくれよ!今大事なお願いしてんだから!」
「あそぼーよツナ!」
「キャアアア!!」
「今度はなんだ?」
「キッチンから!京子ちゃん達だ!大変だ!」

全く付き合ってられん。ラルミルチは子ども達の騒ぎに眉間を寄せ、ため息をついた。



「紅林。」
《はい。聞こえてます》
「やはり過去の彼女は無知だ。全く以ってこの時代の彼女とは似ても似つかない」
《それを承知であたしに過去のもえの委託を頼んだと…思ってました。》

雲雀は片耳に嵌め込まれた小型の無線機から聞こえる声に舌打ちした。自分も分かってはいたのだ。この時代のもえと繋がる世界線の話。その顛末を知る事ができたら奇跡に近いと。

《もえは子どもです。その…珍しく期待しましたね》
「五月蝿い。」
《リング争奪戦終了直後と聞いています。秘密主義になる前ですから、なに聞いても無駄だと…。あたしはボンゴレ基地内部で彼女の残した資料の捜索を引き続き担います》
「なにか見つかったの」
《一端だけ…昔は散らかし放題してたのに、隠し上手になったみたいで…》
「詳細はいいよ。白か黒か。現時点で判断はどっちなの」

暫く耳障り甚だしいノイズが走った後、えりかは続けた。

《黒、かと…。門外顧問の使者も上層部も疑いの目をかけています…けど沢田君を裏切るような女ではありません。それこそ雲雀さんが知って…》
「詳細はいいって言った。」
《……すみません。》
「彼女はなにを知っていたんだろうね」
《…解れば、苦労はしていないんです。あたしにも、雲雀さんにも分からない。なら…誰にも解らないです》

こんなに付き合いの長い自分達でさえ。

《…そうだ。雲雀さん》
「なんだい」
《過去のもえをお願いします》
「………」
《あたしもいつ"変わる"か…"消える"か…分からないから》
「気安いよ」
《…あは、忘れてください》

ぷちりと無線は切れた。この回線は元々もえが使用していた回線だ。大方もえの部屋からこちらに連絡をよこして来たのだろう。えりかは沢田綱吉の命で以前からもえの動向を探っていた。それは海外へ出ていた雲雀の耳にも入れられていた事であった。

「"消える"…ね。」

えりかは重大な疾患を抱えている。気配や人なりの人格に敏感な雲雀は察していた。そろりと瞼を閉じる。沢田綱吉から課せられた任務も。もえの支えも。獄寺隼人の砦も。山本武の意思も。すべてに精通する女である。特に今は誰がいつどうなるのかさえ分からない程に常に周りには危険が潜む。過去と入れ替わるか…或いは。どちらにしても時間の問題に違いない。あの鬼が出てきたからといっても雲雀には何の不都合もない。…むしろ抹消した方がいいのではないかとも少々思っている。ボンゴレに加担するわけでもないが、あれでは組織の根元を腐らせる。内部の危険因子は即刻排除がセオリーだ。だが沢田綱吉という男は合理的思考を欠片も持ち合わせていない。青いほど「信念」やら「信用」やらの定で物事を決めるのだから。

「雲雀。」
「なに」
「えりかに言い忘れてたんだけど、この匣ウチの部屋に転がってたんだけど開けることってできる?」
「…匣?」

もえの匣は一つだけだ。…いや、自分の思い過ごしか?風の波動自体が希少価値のあるものであり、故に匣シリーズもかなりごく少数だ。未来のもえから手に入れたという話は聞いていない。

「今の君じゃ開匣は無理だ。」
「やっぱりかあー。だって覚悟なんてそんな、出来ないからね!?どういうイメージ!?どういうアレなの!?」

キーキー喚く子猿のようなもえに雲雀は抜けるような溜息を吐く。過去の君はこうも単純明快で騒々しい。なのに、何故急に分からなくなってしまったのだろうか。「パラレルワールド」とはなんなのか。どれだけ頭を回したところで。答えてくれない目の前の少女の無垢な瞳と匣をじっと見下ろした。

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