その答えに触れて2 | ナノ


▼ 58.どうやってでも

「未来の世界でみんな戸惑うと思うけれど、あたしがプラス10歳の紅林だよ。困った時や不安な時は頼ってね。改めてよろしくね」

特にリアクションが大きかったのはハルと京子だ。不安で何かに縋りたい、という気持ちが大きかったのを差し引いてもきゃーと歓声をあげて駆け寄ってくるのは予想外である。

「ハル、えりかちゃんに会うのはお買い物以来だったので久しぶりな筈なのに、初めて出会ったお姉さんみたいな感じです!」
「私も!お兄ちゃん達の相撲大会以来だね」
「相撲大会?そんなのしたっけ。」
「あったぞ。お前が相手の女にボロ負けして大事なモンへし折られたあのドンパチは見ものだっただろ」

…………。

「ああウン。思い出した。そうだったネ。そうでしたネ」
「この時代でお前達の知る内の頼れる大人だ。何でも聞くといーぞ。」

ウェルカムとにへら笑うえりかにハルと京子も少しだけほ、と息をついた。

「…この世界に来た時、黒い制服の男達に襲われたよね。あいつらはあたしや沢田君達の敵であって危険なものなの。」

「今ここで起きていることを教えてやるぞ。心して聞いてくれ」

…説明途中、ハルや京子の顔色がさっと悪くなったのが嫌でもわかった。だが、事実だ。危険な行動に出て欲しくない、そのための抑止でもある。10年。10年。その数字は無駄に積み重なったものじゃない。徐々に苦しめられてきたボンゴレの道筋だ。危険な世界。それを一般人である彼女達に伝えなければならない、とんだ…残酷な時代だ。

「!あのえりかちゃん、ツナ君は…」
「そうです!ツナさんは大丈夫なんですか!?」

…最後に上手いこと包んで不安や恐怖の感情から意識を持って行こうとしていたのだがそうも簡単にいかないか。想定内だと下げていた視線を向けた。

「沢田君は怪我をしてしまって。でも安心して。命に関わる怪我じゃないし隼…、…獄寺もついてる」
「ツナさんの所に行きたいです…」
「ここを出て左に真っ直ぐ進むと右側に扉があるから、そこに行くといいよ。もしかしたら意識を取り戻しているかもしれない」

やはり自分一人では子ども達を抱えきれないと、部屋から出て行った2人の少女の背を見送る。最後まで話を聞いてくれて良かった。…予想の斜め上をいって最後までなにも喋ることなく、じっと話を聞いていた山本が漸くへらっと笑う。

「感動なのな。」
「か、感動?」
「10年後は結婚してんだろ?」

なんと目敏い。そうか、なにも喋らずなにを見ているのかと思っていたら結婚指輪を見ていたのか。…この時代の山本は入れ替わる直前、後悔したと言ってくれた。目の前にいる過去の山本はなにを考えているのか少しだけ照れたような顔だ。足元にいるリボーンだけがにやりと含み笑いこちらを見上げる。

「京子とハルもあの様子じゃとてもじゃねーが落ち着いてねーだろう。茶を淹れてから俺たちも行くぞ」
「え、あ、そうだね、うん」

えりかの中の山本は中学2年生が印象強く、誠に失礼ながら高校の印象は薄い。その頃はツナや獄寺がイタリアに正式なボンゴレ継承の手続きをしに留学という定で並盛を離れた。山本家には居候させて貰っていたが直前まで野球漬けだった山本とは朝練のない日か、オフの日にしか滅多に話さなかった。暫くしてえりかも正式なボンゴレ守護者の一員として9代目に謁見しイタリアでの生活を求められる。

「山本も沢田君のところへ行こう」
「おう!」
「その前に、山本に話しておかなきゃなんねー事があるぞ。この世界でお前の親父は殺されちまったんだ」
「!!!」
「は……、なに、言って、リボーン!?なんでそんなこと言う必要があるの!?」
「お前こそなにナマ言ってんだ。この世界で守護者に秘密にしておかなきゃなんねーことなんて、一個もねーぞ。」

ありえない。えりかは目を白黒させた。何故そんな無駄なことを。父親を失った世界の話なんて、聞かせなくてもいいこと…!

「だからな山本。お前もこの世界を、どうやってでも変えなきゃなんねーんだ」



この10年。いまのウチには一瞬の出来事であれど、彼らにとっては重く耐え難い10年だったに違いない。未来の出来事は多少なりとも知っているけどここまでとは思わなかった。

「ひばっさん。まさかあの頃の委員会がこんな事になっているとは思わなんだな」

目の前に広がる、巨大施設と思しき研究所。それに相応しくないほどの研究員の少なさ!!!ブラック感がひしひし伝わる。お前はどこぞのブラックヤクザだ。仁王立ちで研究所をガラス越しに見下げる姿はまさにそれだ。誰かグラサン持ってきて。

「向こう3ブロック目。あれが風の研究場」
「なるほど」
「雪の研究の成果はあれ以来上がっていないが風の研究を続ければ自ずと解明されるだろう。それまで雪の研究は凍結中だ」
「雪だけに」
「3点。ちなみに100点中だよ」
「低っく。」

ひばっさんの10年は研究の日々だったらしく、ボンゴレマフィアと関わってリングに大変興味を持った後並盛から世界に飛び立ち、リングのメカニズムを研究する多くの人間を恐喝紛いの…もとい、対話をしてきたそうだ。その情報を知れば知るほど面白くなり、今に至ると。

「そういえば未来の君は面白い事を言っていたっけ。」
「いまのシャレが帳消しになるくらい?」
「"自分はパラレルワールドの人間だ"と」

パラレルワールド、と言われたのは初めてだった。異世界とパラレルワールドでは微妙に違いがある。パラレルワールドとは"並行世界"だ。数多の「もしも」から枝分かれし、分岐した後の世界。例えば草壁さんと雲雀が出会わなかった世界。そんなのもパラレルワールドだ。しかし異世界とは世界そのものから外れたもの。別のもう一つの世界が存在するというものだ。何故未来のウチは「異世界」とは言わず「パラレルワールド」なんて言い回しを…?

「未来の君は隠し事が多くて」
「あ…いや、えっと。」
「過去はこうも分かりやすかったのにね。」

…そう呟く横顔はなにを思ってるのかはウチが幼過ぎてよく分からない。でも、雲雀が思い出しているのは今のウチではなく、この時代にいるべきはずの未来のウチであることは明らかだった。



「ハルは平和な並盛に帰りたいです!!!」

全員の叫びを、代弁した。そんな声がスライドドアからも筒抜けだ。

「ハル、京子。こいつを飲め落ち着くぞ。特製ハーブティーだ」
「ありがとう、リボーン君」
「それと、さっき話したお前達に任せたい事だ。読んでおいてくれ。」

「リボーン!!!」
「お。もう立てるようになったか」
「…っ、俺、…」
「…………わかったぞ。ツナと獄寺と山本と話をする。ハルと京子は席を外してくれ」

かわいそうに。こんな世界に来るべきじゃなかった。えりかは静まり返った部屋でぼうっとそう思う。

「京子とハルには今やばい状況にあるということだけ伝えたぞ。マフィアのことやボンゴレのことは一切話してないからな」
「……帰さなきゃ…皆んなをこんな所にいさせられない!なんとしても過去に帰さなきゃ!もう生き延びるとかそんな問題じゃないよ!そんな問題じゃ!!」
「お、おいツナ!」
「落ち着いてください10代目!」
「だいぶ錯乱してるな…」
「ちっ違うよ!もうここで守護者を集めるとか!そんなのんびりしてる場合じゃないって言ってんだ!」
「そうやっていちいち興奮するのがそーなんだ。それに守護者を集めるのは避けて通れねぇぞ。」
「なんでだよ!もうそんな根拠のない話は沢山だよ!お前の話はいつも…!」
「根拠はあるぞ。」

獄寺が取り出した手紙に、そういえばと思い出した。やたらと夜中に一人で机に向かってガリガリと何か不気味な印を書き連ねていた。覗こうとしたら片手で制されてしまったのだけれど、多分あれはこの手紙だったんだろう。10年後の獄寺が所持していた暗号文書はこうだ。

"守護者は集合 ボンゴレリングにて白蘭を退け 写真の眼鏡の男消すべし 全ては元に戻る"

「わかるか?この手紙はこの時代にいてリングを持つもの。つまり過去から来たお前達に向けて書かれていたんだ。そして文面通りならば守護者を集めて眼鏡の男を消せば全ては元に戻る」
「か…過去に帰れる!?」
「幸いなことにこの眼鏡の目星はついてるぞ。ラルミルチが知っていてな。ミルフィオーレの隊長で入江正一っていうらしい」
「でも人を消すなんて…!」
「まーツナ落ち着けって、一人で背負い込むんじゃねーよ!みんなで解決してきゃいーじゃねーか!」
「…!山本、お父さんのこと……」

「俺はここにこれて良かったぜ。自分たちの手でケリつけて、俺たちの未来を変えようぜ」

ああいけない、過去の山本の言葉はいつも真っ直ぐ純粋だ。ヴァリアーと闘った直後といっても、まだ山本はカタギな筈。剛さんのことも聞かされたばかりなのに。

「コラー!待ちなさーい!ランボちゃ…はひー!」
「ハル!」
「こ、これは…イモ?」
「ハルちゃん大丈夫?」
「京子ちゃん!…と玉ねぎ?」
「非戦闘員の2人には食事やチビの世話を頼んだんだぞ」
「今日はカレーを作るんだよ」
「楽しみにしててください!こんな時だからこそいつまでもクヨクヨしてられません!」
「ツナ君達に負けないように私達もがんばろうって決めたの!」

護ろう。入れ替わってない内の一人であるあたしだって。この時代に負けてしまわないように。手を離さないように。あたしが教えられる範囲のものは全部教えて。強くなって貰おう。

沢田君、それでいいんでしょう?


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