その答えに触れて2 | ナノ


▼ 57.わたしが背負うあなたの責任

「郷士もえさんですか?」
「っ…!!!そのリーゼント」
「風紀委員副委員長をしておりました草壁です。紅林さんから信号を貰いました。雲雀が待ってます」
「へ…あ、ハイ、えっと…」
「我々の出入り口は霧系の幻覚カモフラージュで隠されています。ひとまず私についてきてください」

く、草壁ええええええええ!…さん、の後に続いて電柱に向った。この下に幻覚で隠した通路があるのだそう。

「階段になってますんで気をつけて下さい」
「…この階段足が短い人用に出来てないですよ」

女性が使うこともありませんからねえ…なんて何でもないように下っていくが、それは草壁さんや雲雀の脚が長いからであって女もなにも関係なく、足が短い人なら踏み外しても仕方ない程にやばい段差である。これは意地悪。意地悪設計だ。

「!お、おお!なんだか実家に似てる!」
「風紀財団所有のセーフハウスも、雲雀ともえさんの共同デザインになっておりますからね」
「…あのー…草壁さん。ウチと雲雀ってどういう…」
「実に子どものように純粋で、見守っているこちら側が焦れるような関係です」
「あ、そうですか」

純粋……純粋か…そんな言葉が似つかわしくない2人だと思うが。それにしても未来のウチはどんだけ雲雀に近づいているんだろう。あの奥手のえりかでさえ犬猿の仲の獄寺とくっ付いたんだから、10年とは本当に長いらしい。

「雲雀は中におりますので」
「え」
「どうぞ」
「草壁さんついてきてくれないんですか…?」
「遠慮しましょう。雲雀の機嫌を損ねます」

デジャヴだ。さっきもこんなやり取りした。何番煎じだ。未来の彼らは本当にウチをボス戦に単騎で乗り込ませたいらしい。この襖二枚隔てた向こう側に未来の雲雀が…。

「し、しつれーーーい……」

なんだあああー、この二枚襖なんなんだあー。わかるかなこの緊張感。開けた瞬間トンファーが降り落ちてくるって可能性があることを。それでなくてもなにか飛んできそうな。だって雲雀だもの。雲雀だもの!ええい!女は度胸だ!いざ…っ!!!!

「ワオ。いつまでも襖の前から動かないから、てっきり"良し"の合図を待ってたのかと思ったよ」
「…あ、」

襖を開けた瞬間黒の着物にぶつかった。嗚呼、これが未来の、未来の雲雀…

「割と早かったじゃないか」
「雲雀!」
「そう。」
「いだだだだ。鼻。鼻摘まないで」

一瞬で悟った。なるほど。草壁さん。確かに、雲雀はなんにも変わらない!むしろ図体がでかくなってこれなら余程タチが悪い!成人男性が中学生いじめてる図ってどう!?

「元気そうだね」
「え?まぁ…」
「背中の傷。争奪戦からそう経っていないのかい?」
「いだだだだ!!!そ、それはそうと!聞いたよ!いでっ!雲雀が匣の研究してるって!」
「あぁ。」
「風と雪のリングについて、なにかわかったんですか…いたたたた!」
「少しはね。実に情報が少な過ぎて困ってるんだ。ただ一つはっきりしたことがある。」

ぺいっと鼻を放された。雲雀の顔はそれはもう楽しそうである。くそ、綺麗なのに悪どい顔しやがって…!

「風と雪のリングの炎性質は根本的に同じなんだよ」
「は!?同じリングってこと?本末顛倒じゃん!2つも要らないじゃん!?」
「そうだよ。だから雪を廃棄すべき」
「ちょっと待って名指し」
「ボンゴレリングの中で一際炎反応が小さいのは雪のリングだからね。なくても支障はない」
「えりかは未来で炎を灯せるの?」
「ある程度は。」
「ある程度…?」
「彼女、雪の波動が弱いよ。」
「弱いって…えりかは雪の守護者だよね?あれ?違った?」
「元々ボンゴレ初代雪の守護者は炎エネルギー自体が弱かったって話だから不思議ではないよ」

おいこらえりか。あんたそんなこと一言も言わなかったよね??普通に別のリングつけてたよね。チェーンしてるってことは作ったやつなんだろうけど。

「…どうなっちゃってるの」



「ただいま」
「ちゃおっす。まさか一般車両に乗っているとは思わなかったぞ。」
「物騒だからね、それにあたしは日本製大好きだから。…沢田君達、は?」
「お前達の言う通りになったぞ。」

リボーンの後ろはツナのいる医務室だ。言う通り。何もしなかった。えりかはリボーンの真っ黒な目を見つめた。

「この世界のことを気に病み過ぎだ。」
「あなたは…ラルミルチ…?」
「初めて会うな。お前達の事は家光から聞いている。…勘違いするな。ボンゴレの限られた人間のみの機密だ」
「あ。…はぁ」
「郷士もえの事も聞いている。裏で敵対勢力に関係しているそうだな。」
「それは…」
「悪いが野放しにしておけないぜ。ただでさえボンゴレは壊滅的被害を被っている。ボンゴレ10代目の守護者がまさかミルフィオーレのボス、白蘭と繋がっているなど。この時代の奴らが知ればどうなるか…」

ラルミルチが足元に放ったのはえりかと10年後のツナが外部にひた隠しにしてきたもえの携帯端末の不明暗号コードの解析書だ。CEDEF機関もまだ動いている。身内にも厳しい目で見られるからこそ門外顧問組織なのだ。沢田綱吉率いる守護者にも徹底的な姿勢を崩すわけにはいかない。

「…あたしはボンゴレ10代目から直接的命令を受けてもえを監視し、探ってるんです。唯一無二の存在だし、もしなにか理由があるなら知りたい。…あれは義理堅い女です。のし上げるべき存在の沢田君を裏切ることはしないと信じてます。」
「それはつまりオレ達に黙ってろと言う意味か?」
「…その通りです。」
「お前はCEDEFを甘くみているようだな」
「この内容は沢田君だけじゃない過去のもえも混乱させる内容です。守護者集めを指針にしている今伝えるべき事ではありません」

既に疑いの目が向けられていることは話してあるのだが……邪魔してほしくないのだ。それは例えCEDEFであっても。ヴァリアーであっても。控えめに言って、ボンゴレ内部の大爆弾である未来のもえは過去と入れ替わり、最早なんの確証も得られない。しかしミルフィオーレに踏み込めば踏み込む程、もえが裏で何をしていたかが浮き彫りになる筈だ。例え彼が死んでも貰った任務は続行する。

「あたしに任せて下さい。」
「事の重大さに気づけ!内部での裏切りは死程度じゃ済まされない!ボンゴレが壊滅的被害に追い込まれたその現状を作り出したのが内部の、しかも守護者ともなればこの責任は亡きボスの右腕、獄寺に向くぞ!」

ボス亡き今は、だ。実際このアジトの舵を握らざるを得なかったのはボスの右腕たる獄寺で相違ない。

「この事については、……獄寺にも話していません。責任はあたし一人にあります。もし全てが明るみになり、もしもえが黒だと思い知ったら…全責任を取らせて下さい」
「…ッチ!」

曲がりなりにも、沢田綱吉率いる守護者の一人である。そして右腕獄寺隼人の妻でもあるえりかが取れない責任ではない。現にもえの調査に関与している人間はもう、えりかしかいないのだ。舌打ちをかまして去ったラルミルチの背中が見えなくなってからリボーンがボルサリーノのくいっと下げた。

「重い責任だな」
「昔、この世界に来た時約束したんだ。自分達で変えてしまったかもしれない世界を直していこうって。なのにそれを根本から揺るがすなら…やっぱり止めるのはあたしだし、あたしにしか取れない責任だと思う」

そんなあたしも、隼人君と結婚してしまったから、言えた立場じゃあないんだけれどね。見上げた大きな黒目はぱちりと瞬きした。

「後悔はしてねーんだろ」
「してないよ。」
「ならいいんだ。お前がこの10年で得たものの価値は過去から来た俺たちには到底分からねーからな」
「…やっぱりリボーンは他の皆んなと違う。」
「あたりめーだろ」

この世界へ来たもう一人が道を外れたのなら。その詫びをするのは同じ立場である自分しかいない。むしろ自分以外には出来ない。

「えりか。お前の気持ちは分かったぞ。だが今は入れ替わっちまったあいつらのフォローを頼む。」
「勿論だよ。応接室にいるんだよね。行こ」

ぴょんと身軽に跳ね肩に乗ったリボーンの足が肩越しに組まれるのを見た。

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