その答えに触れて2 | ナノ


▼ 55.よくないもの

「…あ、」
「お…まえ、」
「!…獄寺」

獄寺隼人の自慢の脳味噌がまるで冷凍保存されたかのようにカチコチに固まり、正常な働きをしていなかった。何故こんなに動揺しているのだ。こいつらが仲良いのは10年前も同じだろ。もえは獄寺に未来のえりかとの関係を伝えてはいない。伝えてはいない…が、

「ケッ。部屋でやりやがれ」
「隼人君!」

2人は向かい合って話をしていただけだ。ただ過去から来た獄寺の目にはどこからどう見ても仲の良い恋人同士にしか見えないのだ。それは10年前のえりかの山本に対する態度から見積もったら…未来ではとうとうそれが成就したのだろうと。獄寺の脳がそう弾いた。

「隼人君!」
「はあ!?なんで名前っ…!?」
「あっ…それは、」
「勝手に呼び捨てんじゃねーよ!」
「獄寺!」
「邪魔したな!」
「…待ってっ」

一応補足しておくと、10年前のえりかは山本に対してはオドオドと頼りない印象があるにはあったかもしれない。だがそれは山本限定での話であって、獄寺には該当しない。そして10年での成長と獄寺の妻である今のえりかには、

「も、もーー!!」
「うがっ!?」

今や過去の旦那を尻に敷く事さえ造作もないのである。えりかとてか弱いとは程遠い生き物である為、いくら子どもであろうが旦那である獄寺にはきっぱり容赦はない。足をかけてすっ転ばせられた獄寺は素早く振り返った。

「何年前の喧嘩だろう!?これしたことあるぞ!!」
「はあ??!」
「先入観!悪い所!!先入観!!!!」
「意味わかんねーこと言ってんなよ!」
「この時代では、勘違いも先入観も捨てなきゃ生きていけない!過去とは違う未知の世界。あたしは貴方に死んでほしくない怪我もしてほしくないよ!」
「…っ、ひ」

…10年の間に、一体何が。この変わりぶりはなにかがとり憑いているとしか思えず思いっきり山本を見上げたが彼は彼で少々複雑な心境を抱えており、獄寺から視線を逸らす始末。可哀想なことに自分を含む未来の彼等の辿った道を知らない子どもの獄寺は珍しくも困惑した顔で小さく悲鳴を上げざるを得なかった。

「だからつまり、誤解だよって事。山本は大事な家族」
「は…??」
「そうだ隼人…獄寺。明日から忙しくなるんだったね。沢田君連れて今日はもうおやすみ」
「いや本気でお前、なん…」
「守護者集め頑張ろうね」

それじゃあおやすみ。片手を振ってスライドの音と共に部屋に消えた笑い顔を見送った獄寺はぐりんと首を山本に向けた。

「今まででこんなに動揺したのは初めてだ」
「10年後のお前はいつもあいつに動揺させられてたぜ」
「オイ。逃げてんじゃねーよ。どういうことだ。お前らくっついたんじゃねーのかよ」
「あー…今日はその話題がよく出るのな。」
「ったりめーだろ!なんだよあいつ!なんで俺を…!」
「10年の間に仲良くなったんだよお前ら。獄寺の事を放っておけないんだと」
「わ、訳わかんねー…」
「それに、俺とあいつは本当になにもねぇよ。ただの家族だ」
「嘘くせぇ。別に隠す必要は…」
「嘘じゃねえ。…獄寺。10年前から来たお前だけど、この時代のえりかを傷付ける事だけはしないでくれ。頼む」
「お前、10年後もあいつらの事を信用してんのか?」
「…信用?当たり前だ。2人とも仲間だからな。それに身の上も分かった。」

身の上。あの日、リング争奪戦の最中にえりかが告げた言葉。「この世界の人間ではない」「異世界」から来たという突飛なものだ。それを胸のうちに留めている。

「お前にも話しとくか。分かったついでに、よくねぇものも出てきちまってツナやボンゴレ首脳達が困り果ててよ」
「よくねぇもの…?」
「覚えてるはずだぜ。リング争奪戦。えりかの中にいるもう一つの人格。…名を紅鬼。10年経った今、奴がまた顔を出しやがったんだ」

山本の顔が翳った。あの破壊力で齎す衝撃は大きく、思い出すのもおぞましい。ふと、獄寺は気付く。…あの刀折れたんじゃなかったか、と。



「おはよ。良く寝た?」
「寝起き一番にあんたの顔を見て眠気も飛んだ」
「そりゃ良かったな」

そんな真っ青なゾンビ顔が覗き込んでいてみろ。地味にビビって寝られなくなったじゃねーかこの野郎。

「沢田君と隼人君が廃工場ハッチから外へ出てミルフィオーレ部隊とやり合う日。山本と京子ちゃん、ハルちゃんにランボにイーピン。多くの人間が過去と入れ替わる。」
「ハイ」
「10年も経って、あたしの記憶もあやふやだけど合ってる?」
「恐ろしい程精密に。」
「昨日秘匿回線に連絡が入ったんだ。ずーっとこっちの呼びかけ無視しまくられてたんだけど、過去のもえの情報を伝えるや否や、鳥の信号が…」
「トリの信号?」
「未来のもえと雲雀がよく使うコードで、緊急帰国を意味するもの」
「はぁ……つまり?」
「雲雀さんがスペインから並盛に帰ってくる」

あぁ、あの人スペインにいたんだ…。………帰ってくる!!!!!!!!?ついに10年後の生雲雀に会える拝めるオイシイ!!!

「オイシイ言うな。」
「心の中くらい自由にさせてや…」

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