90.ズタズタに傷付けて

久しぶりの帰郷だった。早々に任務についたナルトは第7班の任務に赴いた。カカシに頼んだので大丈夫だと思うが。九尾のチャクラだけは使うなと、念押ししたのが昨日だ。路地を曲がったところで…鉄臭い臭いが鼻をついた。自来也はその臭いを辿った。里の中で、これほどの殺気と…血の臭いが充満するのは、イレギュラーだ。忍同士の喧嘩か?…路地裏で繰り広げられていたのは、ただの喧嘩と生易しいものではなく。4人のベストを着込んだ忍を嬲る1人の男。手加減無用容赦なく。まるで汚いものを捨てるかのように、胸倉を掴み上げていた忍を地面に落とした。どしゃり。胸倉を離した手首は細く、手持ち無沙汰にプラプラ揺れる。自来也の息を呑む音が聞こえたのか、首だけが振り返った。

「…お前」

この、澱んだ目。暗部の者だ。すぐにわかった。闇を専門に扱う暗部では、人格破綻者が出るのがお約束だ。今まで生きてきた環境のギャップが酷いものだ。生き生きとした顔の暗部など一人だって居ない。あの場所では、娯楽も癒しも、なにもない。だからこそ闇を踏みしめ続けたら、ああなるのだ。…丁度この青年のような顔つきに。

「もしや。奈良シモク…か?」
「…俺をご存知なんですか」
「綱手ご自慢の部下だろう?」

綱手は奈良シモクを評価している。以前酒に付き合った時、そう零していた。優しく、面倒見がいい。里を愛している男。

「…だが、これはどうしたもんだ?」
「ケンカです。ただの」

薄く薄く笑んだ。実際口角上げてるだけで1ミリも笑ってはいないが。シモクは足元に転がる忍を邪魔だというように蹴飛ばした。
端に転がる体。思わず顔を顰める。

「貴方は三忍の自来也様。俺は奈良シモクと申します」

おいおい綱手。これのどこが優しく、面倒見がいい里を愛している男だって?顔についた血を拭ったシモクは足元に転がる忍を一瞥した。数人が意識を取り戻したようで、見下ろされていることに気づき、震えだした。

「……誰が10年間、引き篭もってたって?忘れないようにもう一度言う。俺は火影直轄暗部の第6部隊隊長代理、奈良シモクだ」
「わ、…っかった…、」

歪んだ笑みは、…血に狂う幽鬼のようだった。…それを見たとき。これほどに血の似合う男はいないと、衝撃を受けた。

「…ナルトとは違った意味で…厄介だのう」

螺子が一本外れたような男を前に、自来也は呟いた。


「あっ、やった!砂漠だ」
「ここから先が砂隠れだ。こっから先も中忍試験で一度ここへ来た俺が先導する」
「頼んだ」
「新兄ちゃん、来たことあるの?」
「嗚呼。中忍試験でな。連絡役として」

この足場の悪さ、久しぶりだ。蠍でるんだよな。ここ。そして一人で走ると寂しい孤独ロード…。ネジに会いたいと切に願い、駆け抜けた青春ロード…って俺ガイさんの思考が移ってきてないか。それかオクラか。あいつの影響か。

「我愛羅。俺もあいつと知り合いだ。だからお前の急ぐ気持ちは…よくわかってる」
「なぁ新兄ちゃん。それって昨日の」
「…先に言っとくが、シモクは本来馬鹿が付くほど優しい忍なんだ。幻滅だけはしないでくれ。」
「なにも言ってないってばよ」
「…悪い。あいつの事になると俺もオクラも先生も冷静さ欠くんだよ。あ。オクラって元チームメイトな。」
「ゲジ眉と一緒にいたよな。あんま覚えてないけどさ」

ナルトは前を走りながら答えた。カカシさんは静かに後方にいる。

「そんで、シカマルの実の兄だ」
「!?シカマル兄貴いたのか!?」
「あれ。知らなかったのか?奈良シモク。兄貴」
「知らねーってばよ!上忍?カカシ先生や新兄ちゃんと同じか?それとも中忍?」
「どれも外れ。正解は、火影直轄暗部構成員だ」

ナルトの青い目が、突き刺さった。

「って、なんだこれ!!」
「砂嵐か?」
「まずいな。ナルト。新。岩陰に入るぞ、避難だ!」
「でも!」
「ナルト。カカシさんの言うとおりだ、避難するぞ」

渋ったナルトだが、俺たちは砂嵐の対策を知らない。岩陰に入ったところで、ナルトはじたばたじたばた…。

「っ、もう少しで砂隠れの里だってのに…っもう待てねってばよ!」
「ナルト!焦っても駄目って言ってるでしょ」
「でもよぉ」
「辛抱しなさい!」
「砂嵐は中忍試験のときに体験したが…まじで狂うぞ方向感覚。俺は白眼があったから目標を見つけられるが、三人をサポートしながら進むのは無理だ」
「くそ、早く止んでくれ…!」

…その日、砂嵐が止んだのは日が暮れてからだった。ナルトを筆頭に、俺たちは休んだ分だけ脚を動かした。このペースなら朝には辿り着ける。カカシさんに目配せすると、彼も同じことを考えていたらしく、頷いた。

「っ見えた!あれが入り口だ!砂隠れの里だ!!」

新の目が里への入り口を先に見つけたらしい。ナルトの足が早まる。

「!お待ちしていました!」
「お待ちって…なにかあったのか」
「はい、実はカンクロウ様が…!」




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