89.ぶち壊しの世界観

ネジは任務だった。己の白眼を有効活用できる。任務の内容も、視野のいる任務だった。
木の葉に帰還中で、ネジはそういえばと新を思い出す。新は、日向家きっての視野を持つ男だ。周りからは宝の持ち腐れと言われていたが。その広い視野をネジ察知アイテムとして本人曰く、有効活用していたという。…なるほど、確かに宝の持ち腐れだ。ネジ本人がそう思う。ヒアシを交えての雑談で新がそう言っていたとヒナタがそうネジに零した。恥ずかしくてなにも言い返せなかった。自分より6つも年上でありながら、あの天真爛漫さ。もう少し落ち着いて欲しいと切実に願う。最近話していない。自分が修行に明け暮れたから、それを見て敢えて邪魔しないように新が配慮してくれていたらしい。時々、ものすっごい視線を感じたのは多分新だ。新は必死に飛びかからないように我慢してたようだ。そしてシモクの行方がつかめなくなった時。縁側で頭を抱えていた背中に、今度はネジが配慮した。今まで一方的に新がネジを構い倒していただけに、いざそれが途絶えるとどうしていいのかわからなくなる。そして天真爛漫な彼が塞ぐと、なにをしたらいいのかわからない。馬鹿が塞ぎ込むとろくな事がない。…だけど、俺がなにを言う?自分がそうなっていた時、新はどうしていたっけ?お互い上忍。任務の難易度も跳ね上がり、やっと新の世界を見た。新とて、忍。抱えるものは、それなりに重い。「あん」の門が見えた。嗚呼。帰って来た。家に帰ったら真っ先に出てくるであろう新と久しぶりに会話でもするかと。思った矢先、門の前でうろうろしていたシズネがぱっと顔を上げた。


「お前達にも、カカシ班と同様の任務をして貰う。砂に向かい、カカシ達とサポートし合い任務をこなせ。わかったな」

任務に任務が入るのはかまわない。だがネジは違う事も考えていた。次の任務の準備をしに一時帰宅したが、新の姿はなく。代わりに空き巣にでもやられたかのように散らかっていた。…誰が片付けると思ってやがる。新の任務用のバックパックがなくなっていたことから、新も遠征任務についていることは明白。だから散らかっていたんだろう。恐らく急ぎで。

「カカシ班には、日向新も同行している。」

やはり。

「はっ」
「任せてください!」
「了解です」
「承知」
「ガイ班、これより出動します」

彼が同行するということは、周辺でなにか起こったということ。親しい間柄のピンチには敏い。それが、新だ。


火影邸。回復するまではここで絶対安静を言い渡された。夜に寝れなかったのか、昼に寝るシモクは眉間に皺を寄せ、手が小刻みに痙攣していた。魘されているにしても相当な拒否反応。

「兄貴?」

小さく戸を引いたのはシカマルだ。片手には甘栗甘とポテチ、海苔せんべいが入った紙袋を抱えていた。因みに甘栗甘とポテチはいのとチョウジからだ。

「兄貴!どうした?」

表情が歪んでいる。首を左右にゆっくり振った。額には汗が浮いている。シモクの口が微かに開く。掠れた声は聞き辛かったが、シカマルは意地でも拾おうと耳を近づけた。

「…嫌、だ…」

たしかに聞こえた言葉にシカマルは顔を勢いよく上げた。

「兄貴!!兄貴起きろ!」

本当は、手を伸ばしているんだ。本当は、一人は嫌に決まっている。体を揺すっても一向に目覚めず、シカマルは心で詫びながらその頬をぶっ叩いた。真っ黒な目がうっすら開いた。シカマルに叩き起こされたシモクはゆっくり瞬きをした。

「兄貴、いま」
「…何故、ここにお前がいる?」

感情の読めない顔がシカマルを通り越し、天井を見上げた。痙攣も治まっている。

「兄貴…なんか夢見てた?」

シモクは無言で否定した。体を起こすと暫く沈黙し、徐に脚を床に着けた。便所かと、シカマルはそのまま背中を見送った。廊下の窓をこじ開けた。はめ殺しの窓だったため、一箇所破壊した。毎日毎日、誰か彼か側に居る所為で印が組めない。特にシカマル。覚えているんだ。大切な存在である弟で。俺がこの腕に抱えていたもの。手放すのが惜しいほど、成長してほしくないと思うほど。大切だった筈なのに。

「…なにも、振動しない」

嬉しいと思ったり、楽しいと思ったり。いつも此処はどきどきして、全身に伝えていたのに。その機能を失った俺の"心"は、何処に行ってしまったんだろう。気配を消して、街へ降りた。俺が歩くべき場所ではないのかもしれないが。周りの目。小さい時から臆病な俺は人の顔色を伺ってた。本当に息子なのかと、言われた事もないわけじゃない。明るい髪色。母似の顔。父親が奈良家の顔なら。そりゃ似てないと言われて当然だ。…昔から。我慢は得意分野だった。どんなに周りの奴等に叩かれても、蹴られても殴られても。俺はそれこそあいつらの思う壺だと我慢したし、父さんがあのピアスを俺ではなく7歳離れたシカマルに譲り渡したって、…我慢した。その上、強要された暗部入隊だって。
我慢ばかりの日々。それも、多分限界だったんだろう。俺の此処が、もう耐え切れなかったんだ。どこかで嫌気が差していた。どこかでこう思ってた。弟さえ。シカマルさえいなければ…。

「あ?おい、あれって…」
「なになに」
「もしかしてシモクかぁ?」
「えー」
「ほら、やっぱ間違いねぇって!!」
「おい久しぶりだなシモク」

無遠慮に組まれた肩。視線だけを動かせば、なんてことはない。ありきたりな顔だが、そのありきたりさが逆に記憶を掘り起こした。チビだった俺を、いいように殴りつけてきた顔だ。

「よぉ、奈良家の欠陥品」
「こんな昼間から出歩いて、暇人なんだなぁ」
「そういやお前中忍試験出てなかったよな?まさか担当上忍に落とされたとか?」
「有り得る!お前忍のセンス皆無だったもんな」
「どうせ家に引きこもってたんだろ?この10年間」

今更な昔話に怒気も沸かないほど、此処は壊されたようだ。だが、訂正箇所は沢山ある。それに、ニート扱いは…心外だ。

「…試してみるか?」
「あん?」
「…俺がこの10年間、本当に引き篭もりだったかどうか…」




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