87.風に乗って届くといいな

「落ち込んでいられないぞ、オクラ」

オクラが肩を落としている。昨日、今日と指先を弄りながら歩く背中はしょんぼりしている。

「…おい!!」
「おおう!?いきなりなんだ!」
「お前が鬱陶しい程しょんぼりしているからだろ!!気合入れろ!アホ!!」
「アホとはなんだ!お前は薄情か!!」
「…お前、ちゃんとカカシさんに伝えたんだろうな」
「…あぁ。なんだか小難しい顔をしていたが…あの人も忙しい、あまり詳細は伝えなかった」
「…確かに、ナルトが帰ってきて、それどころじゃないか…」
「今頃初任務だしな」

昨日今日と、バタバタしていた。

「!おい新。見ろ。」
「?…おいあれ…」
「他里からの伝書鳥!」
「…なんだ、嫌な予感がする」


「…どういう、ことですか。我愛羅が…っじゃあさっきのは!」
「砂の里より通信が入った。砂隠れの風影が暁という組織に連れ去られた…」
「っく!俺も同行させてください。五代目!!俺も我愛羅を助けに行きます」
「新の兄ちゃん」

砂からの、正式なる応援を要請。その任務にあたるのは…ナルトがいるカカシ班だ。五代目は頷いた。

「これより第七班、加えて日向新に新たなる任務を言い渡す。直ちに砂隠れの里へ行き、状況を把握し、木の葉へ伝達。その後砂隠れの命に従い、彼らをバックアップしろ!!」

火影に聞きにきてよかった。

「カカシさん。よろしくお願いします」
「ああ。上忍が一人加わるだけでも心強い。」
「準備を急ぎます」

風影が攫われた…我愛羅…。俺達は門の前での集合を決め、一度解散した。中忍試験の時のようにネジと叫びまわる余裕もなく、素早く荷物を詰めた。そんな時間すら惜しい。早く。助けに行かないと。なんだか本当にやばいことが起きそうで。

「っ、し!今皆と助けに行くからな、我愛羅」
「新、砂へ行くと聞いた。本当か」
「オクラ…あぁ。暁だ。」
「…」
「イタチの情報が入ったら渡す。」
「承知した」

オクラもやることがあるのだろう。瞬身で飛びのいた。門の前まで走ると、既にあの遅刻魔と名高いカカシさんが一番最初に来ていた。

「カカシさん。お早いんですね」
「お前が次に来るって思ってたからね。…オクラから聞いた。」
「!」
「それで、確かめに会ってきたんだが追い返されちゃったよ。随分な挨拶だと思わない?」
「…何を確かめに行ったんですか?」
「…根の忍は、秘密を口外しないための呪印が舌に刻まれると、ある伝から聞いたことがあってね。…案の定、シモクの舌には呪印が刻まれていた。ダンゾウの事を聞きだすことが不可能になった訳だ。」
「そんなにすごいものなんですか。それ」
「そうだね。死ぬまで消えないし、たとえ拷問にあっても口を割らないためのものだ。ダンゾウの術はダンゾウにしか解けないよ」
「…あいつのこと。」
「?」
「もう、見放したんだと思ってました…」
「誰が」
「カカシさんが」

カカシさんはぎょっと片目を開いた。何言ってんの、そう言わんばかりだ。マスクをした頬をぽりぽり掻いて、困ったように笑った。

「何言ってんの。俺が手塩にかけて育てた…と勝手に思ってる後輩をそんな簡単に見限るわけないでしょ。」
「でも、シモクばかりに拘ってられないと…」
「物事には優先順位をつけて行動するのが当たり前だろ。俺たちは忍だ。」

この話は、一旦お終い。また今度。カカシさんは手をぱん、と叩いた。ナルトとサクラちゃんが来たのだ。五代目とイルカさんも一緒だ。

「じゃあ、行ってくるってばよ!!」
「行って参ります、綱手師匠!」

…そうだ。優先順位。今は、我愛羅のことを解決するのが専決だ。

「カカシ先生、サクラちゃん、新の兄ちゃん!はやく行くってばよ」
「あっ、待ってよー!!」


「…おう。兄貴。今日はなにやってんだ」

じっと同じ医療室で足を組み、印を結んでいるシモクに声を掛けた。昨日今日で顔色や体力が回復するわけではない。ほんの少しだけ人間色が戻ったゾンビだ。

「おーい」

ポケットに手を突っ込みながら、反応しないのは承知の上。シカマルは天井に向かって話しかけているかのようだった。

「なぁ。兄貴。母ちゃんが待ってる」

窓の外からは丁度アカデミーの屋根が見えた。子ども達が走り回っている。…なぁ。なんの印?それ。シモクの方をはじめて向いたシカマルは肩を少々跳ねさせた。お世辞にも良いとは言えない自分に似た吊目がこっちを向いていたからだ。一体いつからこっちを向いていたのか。

「チャクラのコントロール」
「?…コントロール…?」

一言答えるとシモクはまた目を閉じてしまった。

「…なんだ?それ」

もしかすると、あの演習でみた影の濃さのことだろうか。影を薄くさせるなど、聞いたことがないが…。

「…兄貴。兄貴はいまどこにいるんだろうな…」

窓の外を見つめて呟いた言葉に、シモクは薄ぼんやりと目を開いた。小さく、蚊の鳴くような声はシカマルの耳に入ることはなかったけれど。

「…ここに……いるよ」


「ナルト。いくら急いでるからって、隊を乱しちゃだめ」
「っ、でもさ、でもさ」
「そう熱くなるな。自来也様にもそう言われたんだろ?」
「そうだぞーナルトー熱くなるなー心は熱くていいぞー」
「って、ちょっとぉ!!新の兄ちゃんこそ飛ばし過ぎだってばよ!!ちっこくて見えねーよ!!声がやまびこだっつーのぉ!!」
「新は前衛だよ。白眼で先陣切ってくれてるんだ。感謝しろよナルト」

尾獣のこともある。うちはイタチが言った言葉だ。ナルトの尾獣を狩ることが我々に与えられた至上命令だ、と。敵がいつ来ようとも限らない今、新は白眼を剥き出しのまま移動しているのだ。急いでも二日半はかかるこの道のりを白眼を出したまま走るのはかなりの負担な筈。

「…、なら尚更急ぐってばよ!!」
「ナルトォー俺ならー大丈夫だーぁーお前らはーゆっくりこぉーい」
「だっから声がやまびこだっつーの!!!」

日が暮れても、ナルトは急ぐ事をやめなかった。夜目を利かさなければ進めない木々も、忍の目ならば余裕だ。

「ナルト!さっきも言ったでしょ!隊を乱しちゃだめだって…」
「気にくわねぇんだってばよ!あいつらが俺や我愛羅を狙う理由くらい分かる。サクラちゃんももう知ってんだろ。俺の中に。…俺の中に、九尾の妖狐が封印されてんの」

新の声も、静かになった。ナルトの言葉を聴いているのか。

「俺も我愛羅も、化け物を体に飼ってっからな。それが目当てなんだ…あいつらは!」

ダンッ!!木を強く踏みしめる。言葉にもならない苛立ちとがごちゃごちゃになっていた。

「それが気にくわねぇ!!俺たちを化け物としか見てねぇ、あいつらの好き勝手な見方が気にくわねぇんだ!」

あいつと俺とは、全部一緒だった。そしてあいつは俺よりも一人ぼっちでずっと戦ってたんだ。

「暁に狙われてた今度も俺と同じだ。それなのになんであいつばっかりが損な役回りになっちまう…!あいつ、ばっかりが!だから!だからどうしたってちんたらしてらんねーだろ!今度こそ、さっさと助けてぇーんだ!!」
「なら泣いてる暇はないからな。」
「っうわ!!」

後ろ飛びで飛んできた新はナルトの横に並んだ。目元には神経が浮き出ており、白眼を使っている事はすぐにわかった。

「一人ぼっちで戦ってた…か。なぁナルト。すべて終わったら会ってほしい男がいるんだ。」
「会ってほしい男?」

新はゆっくりと頷いた。

「理由や境遇は違うかもしれないが、…そいつも、ずっと一人ぼっちだ。そして、今は声が届かない」

…そう。届かない。

「…新の兄ちゃんの友達なのか?」
「……大事な、友達だ」

俺も思ったさ。なんで、いつもシモクばかりがこんな目に遭うのかって。

「…おう、会ってみる」

ナルトも新の横顔を見ながら、頷いた。




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -