82.鳴り止まぬサイレン

「久し振りだな。自来也、ナルト。修行の成果はあったのか?」
「勿論だってばよ!綱手のばーちゃん!」

同刻、火影邸ではナルトと自来也、サクラの姿があった。身長も伸び、無邪気な瞳はそのままに。だが滲み出るのは頼もしさだ。

「ならばその成果を見せてみろ。これからある男の相手をしてもらう」
「ん?ある男??」
「あっちだ」

綱手の親指が真横の窓に向いた。ナルトは頭にハテナを浮かべながら窓を持ち上げて開いた。顔を出した瞬間、ナルトの顔に笑みが広がった。

「よっ!ナルト。でかくなったな」
「カカシ先生!」

ぴょんと身軽に飛び出したナルトは屋根の上でいつもの愛読書を片手に座るカカシの前にしゃがみ込んだ。

「久し振りだってばよカカシ先生!あ!そだ!俺ってばお土産あるんだ!」

お土産を見たカカシの感動の声を聞きながら。少し離れた木の上から眺めていた。ダンゾウが隔離していた施設は木の葉の内なのでここに来るのに時間はそうかからなかった。それなのに、一ヶ月半も太陽を見ることはなかった。太陽が、気持ち悪くて堪らない。

「お遊びはこれくらいにしろカカシ。」
「演習場を抑えてる。ナルトも帰ってきたばかりで疲れただろうから、暫く休憩をやる。指定した時間に集合だ」

ぼん。カカシの姿が消えた。ナルトもサクラも完全に部屋から退室したところで、漸く立ち上がった。開きっぱなしの窓から音もなく侵入すれば、中にいた綱手とシズネが警戒し、後退していた。

「!貴様何者だ」
「その制服、…根の者!」
「お呼びだと」

片膝をつき、頭を垂れた男。はっきりした言葉に、綱手は警戒しながら近づいた。

「ダンゾウ様に伺いました」
「…顔をあげろ。」

すっと顔を上げた男に綱手は思い切り目を開いた。…奈良シモクだ。一ヶ月半の長い間、ダンゾウの元にいた。奈良、シモクだったのだ。

「…よく戻ったな」
「戻る?」

会話の相違。シモクは黄土色の床に視線を落とした。全く動かしていない脳が暫くしてから稼働し始める。

「俺は火影様が用があるからと…。呼び出されただけですが」
「なんのことだ。お前はあたしの火影直轄暗部だろう」

薄暗い瞳。鋭利な顔付き。少し前の、あの当たりの柔らかそうな青年は尖りに尖ってそこにいた。にこりともせず、そこに。

「…シモク、ダンゾウになにを聞かされた」

鼻先まで近づいても、無反応。…そこで。
綱手は初めて。彼の顔が僅かに変色していることに気が付いた。医療忍者の勘が唐突に疼き、根の黒い上着を剥ぎ取ると。左腕に刻まれる炎の刺青はそのまま。

「なんだこれは…!」

見るに堪えない。シズネも両目をぎょっと見開いた。支配と恐怖、混乱の中で付けられた無数の傷跡だ。イビキの拷問よりも酷い。治りかけの痣は硫黄色で、所々に青紫が混じっている。

「綱手様…!」
「すぐに医療室へ運ぶぞ!」

しっかりと二本の脚で歩き出すシモクを、シズネは急ぐよう促した。シモクの目は、ただひたすら前を向くのみだった。


「シカマル、ナルトに会った?」
「あぁ、さっきな」

いのが後ろから声を掛けた。シカマルの背中。どこかぼんやりした表情の理由は、チョウジすら話す気配はない。相当、なにか衝撃的なことがあったに違い無いのだが。

「シカマル!!」
「…新さん、どうしたんすか。転びますよ」

シカマルの言うとおり、脚を多少縺れさせながら走り寄ったのは新だ。とにかく焦っていた。いつもの冷静さはなかった。荒い息をそのままに新はシカマルの腕を引っ掴んで更に走った。

「ちょ!新さん!」
「っ、が!…帰って来たんだ!」
「あぁ、ナルトにはもう会っ…」
「シモクが!」

その名前を聞いて…シカマルは思わず足を止め掛けた。だが新がそれを許さない。

「シモクが、帰ってきたんだ…!!!」

シカマルの頭の中にいる、兄の背中が突然目の前に現れた。

「火影様の医療室にいる!早くっ、」

新の言葉を最後まで聞くこともなくシカマルは走り出した。それこそ新のように焦って脚が縺れそうになる。ドクリドクリと心臓の鼓動がやけに響いて聞こえてくる。地面を蹴る音も、雑踏も。子ども達の笑い声も。すべてがこの時は飛んでいた。

「……っ、よかった…」

帰ってきたんだな。心配かけさせやがって。オクラにもシナガ先生にも口寄せで連絡は回した。シカマルにも伝えた。一足先にシモクの帰還をシズネから聞いた新は、いの一番にシカマルの元へ気配を探して走ったのだ。シカマルの顔、ずっと会いたかったに違い無い。だって俺は知ってる。10年前、シモクが初めてシカマルの前から消えた…暗部の長期任務。兄が帰ってこないと。寂しそうに顰めっ面をしてシモクのお気に入りの場所で横になっていた。俺は確か。早く帰ってくるといいな。そう言った気がする。そうしたら、彼は小さく。ほんの小さくコクリと頷いたんだ。あの兄弟は不器用だ。不器用だから、周りが支えてやらなきゃ。…な、シモク。シカマル、ずっと待ってたんだぜ。この一ヶ月半。シカマルだけじゃない。俺達、旧第4班も。お前の帰り、待ってたんだ。

…お前がどんな気持ちで。どんな思いで、ダンゾウの凄惨なカリキュラムに耐えていたか。そして、決壊したそれは。俺たちはただ。里抜けじゃなかった。シモクが帰ってきたのだと浮かれて本当に大事な事を見落としていたんだ。




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