74.僕と祈り

白眼で周辺を捜索したが、同じ任務を与えられた8人と、第三小隊の暗部3人のチャクラしか見つけられない。そのチャクラの中には昨夜のイヅルと言う少年もいた。

「…もう少し範囲を広げてみるか」

高まれ、俺の白眼。ビキビキ。頬に神経が粟立つのが分かった。

「………?あれは…犬塚の。」

ネジといのちゃん、春野サクラと共に一直線に進んでいる。目的地は……

「あっちには…終末の谷が…」

俺は木の上から飛び退いた。

「カカシさん、ネジの小隊がなにか見つけたみたいです。」
「ネジ達?」
「ええ。終末の谷に一直線。」
「確か鼻の効く犬塚の末っ子がいなかったか?」
「はい、行きましょう」

少なくともここにはなにもない。犬塚の鼻は演習で思い知っている。信用できるだろう。それに赤丸もいる。

「終末の谷…か」
「カカシさん、なにか思い出が?」
「んー、いや、ね。ちょっと」

手入れされていない獣道。伸びきった木々を飛び越えて俺たちも終末の谷に辿り着いた。

「ネジ」
「新か」
「なにか見つけたのか?」
「お、カカシ先生。ここら辺まで奈良シモクの匂いを辿ってきたんだ。ここに来たのは確かだぜ。後は……4人…知らねぇ匂いが混じってるって赤丸が」
「ワォン!」

ここで、シモクはなにを。それにシモクを連れ出したのは3人のはず。最後の1人は…誰だ?

「…ねえ、これ」
「どうしたの、いの」

辺りを散策していたいのが、なにかを見つけたのだろう。手に何か持っている。

「これ…もしかして」
「!…これは暗部の面だ。紛れもない、木の葉の…一体どこで?」
「滝の下、浮いていたのを見つけて…」
「間違いない、シモクの面だ」

鹿の面は奈良シモクの物だ。

「第三小隊にも連絡しましょう」
「はい」

……お前、どうしてこんな所に。そして今…面を置き去りに…どこへ行ったんだよ。


「新入りか?」
「こりゃえらく細っこい奴」
「ダンゾウ様直々の勧誘らしいぞ」
「若いな」

ざわり。ざわり。吹き抜けの十字路に橋が交差している場所はダンゾウ率いる暗部拠点の玄関口だ。コンクールの鉛色。冷たい風を感じる。ダンゾウの導術は写輪眼だった。持ち主が違っても、写輪眼の力は強い。真っ正面からダンゾウの眼にあてられた手足は自分の物ではないかのように重く、動かない。脳裏に生きる愛しい者達の姿すら焼き尽くすかのように写輪眼は彼の内を燃やした。目の前が、真っ赤に染まった。己の眼から飛び散った涙すら熱い。手を伸ばした先には、…もうなにもなかった。

「お前を長らく拘束は出来ん。早急に終わらせるぞ。これは里の為だ。サジ、アカイ。奈良シモクのカリキュラムが終わるまで奴の監視の任を言い渡す。ワシもすぐに行く」
「はっ」
「御意」

定まらない焦点でコンクリートの床を見つめていた。サジの太い腕に両手首をがっちりと締め上げられる。元から逃げる気力も術もないというのに。シモクは写輪眼の導術の中だ。意識は混濁し、足を引きずりながらでも用意された"カリキュラム部屋"へ歩かされる。カリキュラムと言えば聞こえはいい。だが、そのベールをとれば。それは……ただの調教となんら変わらない。支配と恐怖と畏れで統一すること。ダンゾウのやり方は火影のように穏便ではない。里を。例え己の命や身内であっても。斬り捨てることができる。それが暗部だ。だからか。天涯孤独の者のなんと多いことか。木の葉という大木を根から支える暗部。ダンゾウの信条だ。これは、たとえなにがあろうと。覆されることはない。

「ここで待て。」

薄汚れた配管が剥き出しの壁や床にこびりつく赤錆がよく目立つ。黴臭かった。部屋の中は薄暗く、真ん中にコンクリートで造られた椅子が物々しく鎮座していた。腕を引っ張られ、強制的にその椅子に腰掛けることになる。尻から伝わる冷たさに、無意識に肌を粟立てた。2人がすぐにシモクの両手両足を拘束する。周りの壁には年季の入った古い封印札が貼り付いており、内側の扉には様子がわかるようにか、鉄格子のついた小窓がぽっかりと口を開け風を通していた。

「サジ、こいつ、ダンゾウ様のカリキュラムに耐え切れると思うか?」
「…こいつは相当タフな精神を持っていると聞く。ダンゾウ様も本腰を上げるだろう。そうなったら、一ヶ月と持つまい。」
「だな。…それにしても、人は見かけによらないぜ。こーんな優男な顔して。暗部としてここまで生きるのに、どれだけの人間殺してきたんだろうな。」

暗部とは、人の命を積極的に奪う組織だ。正式名称。暗殺戦術特殊部隊。所属したからにはその掟に従い従事する。里の暗。そこで9年間生きるということは、それだけ敵であるその命も奪ってきたということ。やらなければ、やられる。シモクの心に、それはいつでもいた。死ねば、弟に会うことはない。死ねば、両親に顔向けできない。死ねば、友人を残すことになる。死ねば、里の損害。死ねば、もうなにも感じることはない。死ねば……全てが終わりだ。怖いから。なにもかもを残し、無に帰する事が。全て悟り、忍として生きることを決めても。心の奥底で本当は。

「サジ、アカイ。」

重々しい扉が開き、ダンゾウが姿を見せた。コツコツと杖をつきながら項垂れるシモクの頭部を見下ろす。

「こちらを向け。奈良シモク」

焦茶色の髪が無造作に掴まれる。片目を覆い隠す髪がさらりと地面に落ちた。ダンゾウが切り落としたのだ。赤錆だらけの地面に落ちた髪は薄暗い部屋の中に融けた。

「解」

導術を解いてやれば早急に瞳に光を取り戻す。

「シカマル!!!!!!」

ガッ!拘束器具が彼の行動を抑える。シモクは見ていた。己の家族、仲間、すべてが燃えてなくなるその様を。記憶の内側からじわじわと侵食されていく恐ろしさを。意識が浮上したことにより、体を動かすことができた。なのに導術の中だけでなくリアルでも拘束されていると思い知ると、シモクの顔が歪んだ。

「…どういう…おつもりですか」

殺気の篭った…憤怒すら感じる眼だ。辛うじて冷静さを保っているが、すれすれだ。

「言った筈だ。お前には忍として重要な事が欠けておる欠陥忍だ。火影はお前に甘いが里を影より支えし暗部の、今や重鎮であるお前がそのていたらく。」
「…」
「それを正し、暗部としての意識を叩き直すまでだ」
「俺は耐える…耐えてやるさ。貴方の言うとおりになんて…なるものか…!」

イタチを追い込んだ。うちは一族殲滅の、首謀者。そんな男の思い通りになんて…なるものか!!!

「俺の思う里の繁栄と、貴方の思想は別物だ!絶対に…屈しません」

ダンゾウの思い通りにはならない。なにを見せられても。なにを言われても。

「俺は、貴方の思い通りにはなりません。五代目様が、すぐに見つけてくれます。それまで…絶対に貴方にだけは負けません。」

イヅルの時も。耐えたじゃないか。イビキの。思い出すだけでも嘔吐しそうになる程の拷問で、失血寸前まで追いやられた時も。耐えたじゃないか。昔から、我慢は得意じゃないか。

「いいだろう。その威勢がどこまで持つか見ものだな」

鈍く凶悪に反射する赤い眼に向かって。シモクは笑って見せた。ガチガチと歯を震わせて。その顔は引き攣ってとても笑顔とは呼べないものだったけれど。




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