73.狡猾と心中

「ここは…」

程なくして3人は足を止めた。かなり走ったが、まだ国境をギリギリ越えていない。音隠れと木の葉の間。終末の谷。かつて初代火影とうちはマダラ、最強と謳われた二人の戦いによって平地だった地面がえぐれる程の激しい戦いの末、その傷跡から谷ができたとか。二人が戦った場所として語り継がれ、それぞれの像が建てられている。…こんな場所に、一体。

「奈良シモク」
「…お前達、火影直属暗部じゃないな?」
「御名答だ。気づいたなら何故ついてきた」
「色々考えていたが同じ暗部。……ダンゾウ派閥の者なら、ダンゾウ様絡みと思い、ついてきた」
「…なるほど。ならば話をしよう」

志村ダンゾウだ。いつからここにいたのか。3人の後ろから現れた。イタチの一件から、ダンゾウには良い印象を抱いていない。むしろ、イタチを唆した仇と思う程だ。

「こんな場所まで、なんのご用意ですか」
「お前の噂はかねがね聞いている。絶対的帰還率を誇る優秀な忍だと」
「俺は優秀なんかじゃありません」

ただ。神様に嫌われた死に損ないだ。ダンゾウはコツン、と杖をつき一歩踏み出した。

「だが、お前には忍として欠けているものがある。それを埋めずにして一人前の忍にはなれまい」
「…人を見捨てろと言われるならば、俺は忍なんてやめてやる。」

ダンゾウはカラカラと笑ってみせた。心の籠らない、酷くしゃがれた笑い声だった。

「甘いな。ヒルゼンは中身までは干渉しなかったか」
「三代目は寛大な方だ」
「お前の未来を捻じ曲げた男がか?笑わせる」
「俺は火影様に仕える火影直属暗部です。任務でないと確信した以上。ここにいる理由はありません。」
「ワシは話をしよう、そう言ったのだが?」

…さすが、三代目と対になっていた存在。こんなに離れているのに伝わる。圧倒される。

「帰還率の高さ、冷静な判断力。それらを持ってしても、お前は優先すべき里よりも肉親、仲間に肩入れする。暗部になり切れておらん」
「説教をするおつもりですか。これは俺の信条。忍道です。仲間は見捨てない、絶対に」
「影より木の葉を支えし暗部に、そんな甘ったれたことが通用するとでも?」
「…俺は、染まりきりたくない」

イタチも、ナグラさんも。そこに無抵抗に落ちていく。大口を開けた、闇に潜む化け物に呑まれていく。それが、とても恐ろしい。

「暗部におるからには、そのような姿勢断じて許すわけにはいかん。お前はワシの方で一切の情を捨て去るカリキュラムを受けさせる」
「…ダンゾウ様の、カリキュラム?」
「なに。一ヶ月もあれば終わる」
「……結構です、俺には必要ありません」
「そんなことで里を守れると思うのか!?」
「…!!」
「忍とは時に選択を迫られる。どちらを選べば良かったのか後悔する時もある。ワシはお前に見分ける術を与えようと言っておるのだ。その判断一つで里を守れるのだぞ」

ダンゾウは更に一歩一歩踏み出し、俺の前に立ち塞がった。これは、だめだ。身の危険を感じて足に力を入れた瞬間。サジが俺の脇に腕を通し、締め上げた。体格の違いすぎる俺とサジでは、抵抗も無駄だった。

「…俺は火影直属暗部…!五代目様が黙っていない…!」
「綱手が己の暗部をこれだけ甘く衰退させたのがそもそもの原因だ。ワシはお前を評価しているのでな」
「イタチを……イタチを使ってうちは一族を滅亡させたお前に…!!俺は従いたくない!」
「イタチの真実を知っていると?イタチは極悪犯罪者の汚名を被ってまで一族を思い行動した。その自己犠牲は尊いものだと思わないのか」
「思うものか!最後にイタチは俺の元に来てくれた、それは俺に苦しいと言いたかったからだ!こんなことしたくなかったと、そう言いたかったからなんだ!」

イタチの背中を、イタチの言葉を、イタチの思いを。

「あんな最後…イタチは、望んでなんかいない!」

弟と、里。二重スパイの苦しみ。双方のパイプ。イタチは苦しがっていた。

「自己犠牲。それはお前もよくやることだな?」
「…」
「イタチとお前はよく似ておる。聡明で純粋、なにより一族を愛しているところがな。そのために体を張れる。イタチの行動、理解できておるのではないか?」

俺は自己犠牲的だと再三言われてきた。それをどうにかしろとも。だけど、そう簡単に翻せるわけがない。人は、そんなに簡単にできていない。できてないから、うまくいかないんだ。

「…イタチの行動を"里の為の名誉"だと俺は思っていません。イタチは弟を、里を守った。それは一人で全てを背負うこと、憎まれることが大前提。その強さを…俺は尊敬しています、理解も、して…います、…イタチともう一度…」

"俺はうちはイタチを誇りに思うよ"。イタチ…俺は。俺はもう一度だけでも、

「サジ」
「御意」

サジの俺より一回りでかい手が顔を掴んだ。強制的に向かされる双眸はダンゾウに向かう。

「ならば、イタチともう一度会おうではないか」

ダンゾウの隠された片目の包帯。真っ赤な眼が見え隠れした。嘘だ、そんなことあるわけない。ダンゾウは、うちはじゃない。

「木の葉の暗部と、暁として」
「っ…!!!!」

その瞬間に脳裏によぎったのは新にオクラにシナガ先生、カカシ先輩にテンゾウさん。五代目様、いのにチョウジにシカマル。ナグラさんと27人の先輩達。真っ赤な光ですべてが消え去った。嫌だ…やめてくれ

「奪わないでくれ…!」


「早急だが、これより任務を言い渡す!先日演習を行った奈良シモクの行方が掴めない。情報によれば昨夜木の葉の門から出ていったという記録がある。そしてシモクを連れ出したという暗部はサジ、ニシ、アカイと名乗っている。第一小隊。日向ネジを隊長にキバ、いの、サクラ。お前達に一任する。」

「はい!綱手様!」

早朝、日が登り始めて間もなく。奈良シモクの捜索任務が展開された。約三小隊、フォーマンセルでの異例の捜索だ。

「第二小隊、はたけカカシを隊長にオクラ、新、シナガ。任せたぞ」
「…御意」
「第三小隊の暗部は既に里外に展開している。連絡を取り合いつつ、捜索しろ。些細なものでも構わん。手掛かりを掴め」

それは、案にダンゾウの仕業だという証拠を持ち帰れ。ということである。ご意見番同様に一定の地位を確立しているダンゾウ。火影であっても、踏み込ませないものがある。暗部絡みなら尚更だ。正攻法から責めても無駄に終わるのだ。

「…一つよろしいですか、火影」
「なんだ」
「シモクがもし見つかったとして、…その時の対処も一任して頂けるんでしょうか」

ダンゾウの件はイヅルと綱手しか知らない。だがシナガはまんまと見抜いてみせた。恐ろしいのは、その頭の回転の良さと抱える情報量の多さ。そのシナガの言葉に、確信を持ったのはカカシだ。カカシとて敏い。シモクの行方が掴めないという時から、既に可能性として考えていたに違いない。対処…つまり、シモクがダンゾウ派にもし、もし寝返っていた場合。自らの意思で暗部異動を願った場合の対処だ。

「連れ帰れ」
「はっ。」

連れ帰れ。なにがなんでも。シモクの心境がどうだろうと意思がどうだろうと関係ない。連れ帰れ。綱手は顔色一つ変えずに言い放った。

「以上だ。行け!散!!」

二つの小隊。計8人の忍が門を抜けた。

「…シカマル、大丈夫なの?」
「わかんない。昨日の夜から会ってないから…でもチョウジがいるから多分大丈夫」

サクラは走る速度を緩めることなくいのに声を掛ける。本当は、チョウジやシカマルだってこの任務に加わりたかったに違いない。でも選ばれなかった。捜索としての特性がないからだ。感知タイプのいのが選ばれるのは必然的。新やネジも白眼での感知が可能。キバは言わずもがな。オクラとシナガ、カカシの上忍に至っては、なにかあった時の為。

「目的地に着いたら各小隊各々で任務を行ってちょーだい。ネジ、頼んだよ」
「はい」
「ネジ…お前はあまり関わっていないからネジにとってはどうでもいい奴かもしれない、だけど、………頼んだ。俺の親友なんだ」

新はネジの隣を走りながら訴えた。そんなの、知っている。オクラと新と、シモクは。単純な関係ではないということくらい。

「当たり前だ。なにか見つけたらすぐに連絡する」
「…あぁ」
「心配性は健在だな。俺たちは右に行く。後でな」

ネジは不安気に揺れる新の目を一瞥してからカカシ小隊と離れた。それを確認してからシナガは口を開く。

「オクラァ、新。火影は中忍達の手前言わなかったがこの件、ダンゾウが関与している可能性が極めて高い。」
「!シナガさん、いいんですか」
「こいつらは子どもじゃねェ。俺達と同じ上忍だ。情報を共有してなにが悪い」
「シナガ先生、カカシさん!どういうことですか!」
「火影直属暗部と、ダンゾウ率いる暗部は昔っからばっきり二つに分かれてんだ。さっき火影はサジ、ニシ、アカイと言う暗部に連れ出されたと言った。つまり己の直轄暗部の者じゃねェとはっきり言ったようなもんだ」
「シモクの活躍は暗部の間じゃ結構盛んでね。ダンゾウが里の為になると見込んだのなら…?」
「…そういう、ことか」

オクラも理解がついたのだろう。一度顔を伏せ、持ち上げる。

「ならば…早急に見つけだそう。シモクは俺達といなければ駄目だ!」
「オクラ…」
「おー。お前そん時ちゃぁんと謝れよー」
「はい!!!」

オクラの活気も戻ったところで、目的の地点に到着した。

「さて、始めるよ」

どんな小さな事でも、掻き集める。それがシモクに繋がるのならば。




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