72.類は友を呼ぶって言葉は確かね

俺の後ろはいつもそう。真っ暗な影が俺をぐいぐい押してくる。押した先には深淵が大きく口を開けて落ちてくるのを今か今かと待っている。時折囁いてくる。楽なのに。落ちてしまえば、楽なのに。止まる意味はなに?だって貴方はもうそんな綺麗事言える部類の人間じゃないでしょう?深淵を見つめれば見つめるほど。光に手を伸ばしても。どちらが先に掴めるかなんて。

「お、来た来た。おーい、奈良シモク」

考えるまでもない。俺に与えられた選択肢は始めから決まっていた。いつものように笑え。昔からそうしてきたじゃないか。どんなに辛くても、苦しくても。耐えてきたじゃないか。

「…なんだ?そこでなにをしている。」

当てもなく歩いていると、同じ暗部の者が三人片手を上げて近づいた。身体つきが3人とも違っており、横一列に並ぶとマトリョーシカみたいだった。

「五代目様より伝令でな。お前は俺たちの小隊に組み込まれた。これから任務だ。」

俺は、こっち側の人間なんだから。

「任務を?火影様がか?」
「ああ、なんでも早急に取り掛かれとの御達しだ。」

直接は、なにも聞いていないが…。そこまで急ぐ…のか?

「わかった、急ごう」

いいや。なんでもいい。この気持ちをぶつけられれば。なんだって。苛々して、心に穴が空いたような。冷たい風が時折吹き抜けた。身勝手に裏切られたと感じているからか。オクラはそう思っていたのか。俺の事をそういう風に。あの豪快な笑顔の下で。ずっと。

「奈良シモク」
「不用意に名を口にするな」
「そりゃ失敬。俺はサジだ。よろしくな」
「俺はニシ」
「僕はアカイ」

前を走る三人を追って検閲を抜けた。暗部は比較的夜の出入りが盛んで検閲も黙って門戸を開いてくれる。木の葉のあん門を照らす火の光が遠くなる。見慣れた光景。生きやすい、暗闇だ。サジという男は大柄な体躯を揺らした。見た目の割りに身軽に走り飛ぶ。少し前を行くサジの横顔を確認した。額に碧の丸い模様。俺の後ろを走る二人も同様だ。…サジ…?ニシ?アカイ?そんな奴…火影直属の暗部にいたか…?


「シモク、どこいっちゃったのかなぁ??」
「もう!ちゃんと探してよシカマル!」
「……あぁ」

こんな遅い時間まで家に帰らないんだ。今夜は誰にも会うつもりはないのかもしれない。

「僕、吃驚したよ。シモクが怒ったところって実はあまり見たことないよね」
「そうね…あたしも吃驚した」

いのとチョウジが無意識か、声を潜めて言う。シカマルは二人の前を歩きながら前方の街灯に照らされる人影を見つけた。

「…新さん」
「嗚呼、シカマル…すまない、オクラが…」
「あ、いいっすよ。本人からもう謝られたんで」
「さすがにあいつも言い過ぎたと悟ったか…あんなシモク、初めてなんだ。喧嘩することはあったけど…あんな…」

新も端正な顔を歪めた。シカマル達と同じように歩き回りながらシモクを探していたのだろうか。

「シモク…家には?」
「帰ってないっす」
「そうか…」
「…兄貴、任務に出た可能性は」
「あり得なくもないな。暗部は任務なんて腐る程抱えているし」

四人で頭を捻らせていると気配なく、鳥の面をつけた小柄な暗部が背後に降り立った。栗色の跳ねた髪。

「お前が…奈良シカマルだな」
「…誰だお前」
「火影直属暗部所属のイヅルだ」

いのはハッとした。心転身の術で覗き見てしまったシモクの記憶。その中で、確かにイヅルという名を口にしていた。

「手短に問う。奈良シモクの行方を知っていますか」
「兄貴の…?」
「僕達も探してる所なんだよ」
「任務に参加していないのか?」
「今日はあの人に任務は出されていない。火影直属の暗部は火影からの命令がなければ、単独行動は厳禁です」
「はあ?じゃああいつどこ行ったんだ?」
「僕達も総出で捜索している所です。あの人は今や火影直属暗部の重鎮ですから」

火影ですら、割り出せない…?この木の葉にいるなら。そんなことはあり得ない。

「…俺も白眼で探しているんだが、てんで発見出来ない。」
「どういうこと…?」
「…里の外…ということも考えられるかと」
「…里抜けって言いたいのかよ」
「あくまで、推察です。可能性はゼロではないでしょう。」

面で表情がわからないイヅルを睨み付けた。なんなんだ、こいつ。

「里抜けであるならば、検閲が気付く筈だ」

「今からそこに行きます。もしなにか情報を得たら知らせて下さい。口寄せ紙です。口寄せして頂ければすぐにそちらに参ります」

新の手に紙を握らせたイヅルは瞬身の術で移動した。

「新さん!里抜けって…!」
「可能性、ってだけの問題だ。でも…確かにあいつ動揺して正常な判断つけそうになかったし、気になるところだな…」

平常心を失ったところはあまり見たことがないが、……一度だけ。


下忍時代、戦争が終わったばかりで下忍に与えられる任務も厳しかった。死体回収任務では他里の忍が周りに潜んでいることは大前提。同期で死ぬ者もざらにいた。新達、第4班も死体回収任務につき班長シナガを筆頭に口寄せの巻物6本に死体を回収した。特に木の葉と敵対していた雨隠れと岩隠れの忍に行きと帰りには戦闘を余儀無くされた。その帰りの事。新達を庇い、深手を負ったのはシナガだ。それでも水遁を駆使し、立ち上がり続けた。当時、さした力を持ち合わせていなかった新達はシナガが言い渡した木の葉への帰還……つまり、逃げ帰ることに手一杯だった。だが、一人だけ違った。3人の中で一番背が低く華奢なシモクはシナガを置いて行くことを拒否した。忍は、残酷な決断を迫られる時がある。仲間の命よりも、任務を優先するのが当然。

『なにいってるんだ!今俺たちが行った所でなにもできない!』
『先生の足を引っ張るのがオチだ!』
『だからって置いていけるのか!?俺一人でもシナガ先生の所へ戻る!』
『馬鹿野郎!先生が体を張った意味を考えろ!』

仲間の存在が。シモクにとって大きいものになっていることは、この時から気づいていた。やたら敏感だったからだ。執着すら見えた。新の胸倉を引き寄せ、シモクは静かに言った。

『仲間を見捨てるのが忍?シナガ先生を、見殺すのか?…冗談じゃない。なら俺は忍なんてやめてやる!忍なんて糞食らえだ!』
『!っこの…!待てシモク!!』

結局…3人揃ってシナガの命令を無視し、戻ってしまったのだ。当のシナガは敵を全て倒した後で。怪我を負った大人の体を3人がかりで運び、木の葉に戻った。シナガには、拳骨だけでは済まされない程の仕置きを受けた。シモクの地雷は浅い。なにがきっかけで爆発するか知れたものじゃなかった。そしてその爆発で、どんな行動にでるのかも。全く予想出来なかった。


「…どういうことです」
「奈良シモクならフォーマンセルで先刻、任務で出たぞ」

門の検閲に着いたイヅルは面下で大きな目を更に見開いた。火影の命を受けていない直属の暗部は里外には出ない。任務中の者は小隊一ついるが、火影はシモクに、任務を与えていない。

「彼以外の暗部はどのような者たちでしたか」
「門戸を出る差中、薄っすら聞いたが…サジ、ニシ、アカイと名乗っていました。」

検閲のもう一人の忍が大きな情報を明け渡した。イヅルは礼代わりに頭を少し下げ、瞬身で飛んだ。目的地は火影邸だ。

「火影様!」
「イヅル、なにか分かったのか?」
「火影直属暗部に、サジ、ニシ、アカイという暗部はいますか?」
「…サジ、ニシ、アカイ…いや、聞いたことない。あたしの部下じゃないな。その3人がなんだ」
「……奈良シモクは、その3人と共に里を任務と言い出て行ったと…門の検閲で聞きました」
「なに!?あたしは任務を言い渡しておらんぞ!」
「つまり…火影直属暗部ではない…その暗部は、もしや…。」

綱手はやられたと言わんばかりに表情を歪め、歯軋りした。

「…ダンゾウか…!」




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