70.冷淡な言葉

「最終戦だ!奈良班対奈良班…ええい、紛らわしい!シモク班対シカマル班!」

最終戦…そんなにお膳立てしてもらわなくても良かったんすけど。

「チャクラは大丈夫か?」
「さすがに連続三戦はきついな」
「次も体力勝負だからな…感知タイプと体術タイプと、…こいつは厄介。司令塔タイプだ」
「俺の弟を厄介者にするんじゃないよ」
「言葉のあやだ!!!」
「声がでかいオクラ!」
「玉はどうする、このままシモクで収めるか?」
「俺は構わないよ」
「じゃあ頼むな。」
「今回はあの猪鹿蝶か。」
「…猪鹿蝶は、連携技を得意としている。シカマルを頭脳に。己が為すべきことを知っている、そんなチームだ。」

兄貴の説明は説得力がある。それに確信も。さすが猪鹿蝶の兄貴。誰よりも間近で俺たちを見てきている。嗚呼、素直に対戦できることを喜べねえ。リベンジだと喜んでいるのはチョウジだけだ。

「いの、チョウジ。俺たちも玉を決めるぜ」
「あたし達の中で玉って言ったら、やっぱりシカマルじゃない?」
「うんうん、僕は攻撃の軸になるでしょ?」
「あたしは2人を繋いでいる間は身動きできないし…」
「…相手の想定に収まっちまうが…しょーがねぇか…」

なにも、頭がキレんのは兄貴だけじゃねぇ。新さんや、あのオクラっていう上忍も。冷静な観察眼と状況判断に優れているのは一目瞭然だ。それに、昔からの連携は健在で。なにより、兄貴をよく輪に引っ張ってくれている。もしかすっと、この演習……。


「…俺たちは俺たちで、取るぞ。玉」

連携プレーが得意なのは知ってる。父さん達が、…そう教えているのを見ていたから。

「いの!」
「オッケー!」

いのの術は心転身。昨日受けたから、わかる。精神に入り込まれると追い出すのに気力も精神力も使う。オクラだけは。チャクラ量が多くても、ただでさえ口寄せでゴリゴリ削られているんだ。いのの術に嵌れば、戦闘不能もあり得る。

「シモク、お前は玉だ。俺たちが応戦する。」
「そこで分析頼むぞ」

そんなことしなくてもあの子たちのスタイルは知ってる。シカマルが2人を纏める司令塔。チョウジは攻撃の要。いのは3人の意識を共有する為の繋ぎ。俺たちのスペックと、似ていた。新も昔から攻撃の要だった。特に回天。オクラは口寄せで後方支援。

「…」

シカマルがいる限り、2人の陣形が崩れることはない。予測内なのは、シカマルが玉であること。シカマルは自陣から動くことしない。将棋の駒運びのように頭の中で百通りの戦法を弾き出し、その中でも最善を選択できる才気の持ち主だ。既に頭の中で計算を弾き出しているのだと思う。

「オクラ、新。3人の攻撃パターンをよく観察だ。」

俺以外の2人は猪鹿蝶の戦闘スタイルを知らない。俺たちの力量と相手の力量を見た上で策を練る。これが近道だ。

「…ひとつ頭に入れておいてくれ。第十班は確かにチーム力がものを言うチームだ。だけど連携がなければその分、力も分散する。」
「個々の戦力としては、若いな」
「了解」

シカマルの頭脳に勝てる自信はないが、こっちは机上の空論、理論ではなく経験がものを言う。俺たちは、負けない。

「くるぞ!」
「肉弾戦車!」

やはり、攻撃の主軸はチョウジ。心転身の術にいのがもう入っているなら、3人の視界はリンクしているといっていい。その間、いのは戦闘に参加しない。手合わせした時も、攻撃手ではないように思えた。山中一族の秘伝忍術は後方支援の技術だな。猪。名前に反して支援とは。巨大化したチョウジを避けながら頭を回す。シカマルの影がチョウジの影と繋がっている。断ち切るのは無理だ。いのにしても、チョウジにしても。繋いだ先にいるのは、第十班の脳であるシカマルか。

「おい山中の娘、厄介だぞ」
「臆すんなオクラ。隙も多い」
「それをカバーする形でシカマルが影使ってんだよ」

どう崩す…。一番最初に叩くのは?その効率は?リスクは?誰が先陣を?

「…攻撃手はシカマル含めて2人。いのは加わらない。代わりに2人の視界を繋げている。だけど俺たちは3人いる。」
「…どうやってもこれしかないのだな」
「俺は得意だ、苦手なシモクの分もやってやる」

再び加速するチョウジを避け、どうにか印を結ぶ。シカマルのやつ、阻止しようとしてきているな。

「オクラ!新!」
「影分身の術!」
「土遁!土分身!」

一人一人、ありったけの分身を作っていのの頭を混乱させろ。俺がシカマルのところまで行く。


『シカマル!やばい!』
「…ちっ、さすが上忍2人…!影分身もこうして見りゃ随分いるじゃねーか」
『それだけじゃない、どれが本物か分からないくらい!それに、まだ感知できてない分身もいる!』
「…俺に近づく影分身が本物だ。いの。周りの影分身はチョウジに任せろ。混乱するな、感知範囲を狭くして集中しろ」

いのの感知は集中力を駆使する。範囲が広がれば広がるほど、負担は大きくなる。兄貴、先に感知の目であるいのを潰そうとしたな。つまり、いのの力で視野が広くなり、倍化したチョウジを振り切るだけの攻撃力は持ち合わせていないということ。新さんは確実に攻撃の軸だ。あの人は近距離戦闘と、あの回天での護りと兼用している。兄貴の影真似とが融合した時は、ネジでも動きを封じられる程速い。オクラさんは口寄せ、土遁。後方支援。テンテン達との対戦でかなりチャクラを消費したと思ったが、…かなりタフだな。一切の疲れも感じさせない。それに、見た目とは裏腹にかなり冷静だ。それに細工が綿密。誰になんの仕掛けをすればいいのか、わかっている。最後に…。兄貴は、よくわからねぇ…。細工を凝らすわけでも。支援に回るでもない。かといって攻撃の軸になっているかといったら、そうでもない。とにかく……俺らを見ている。多分、影分身でいのを混乱させようとしたのは兄貴の策だ。

『!シカマル後ろ!!』

影縫い!!!仕留めたと思ったが。これは…………兄貴の影分身だ。やっぱり、俺を狙ってくるか。

「…?!おい!シモク!!話が違うぞ!!」
「…!?」

なんだ…?あんだけのチームワークを張る兄貴の班が…伝達ミス…?なにか、合わなかったのか?

「お前がシカマルを仕留めると言ったのだろう!?感知タイプがいるとはいえ、なんだこのていたらくは!」

オクラさんの声が演習場に響く。少数の兄貴の影分身が動きを止めた。

「弟だからってか!?だから、お前は甘いんだ!」

すたん。最小限の音を立てて、兄貴が隣に現れた。一瞬のことで。気配が全くなかった。いのの感知も、沈黙している。これで…これで、背後に迫られたら。背筋が冷たくなる。

「…シモク。これは演習だ。だが俺たちはお前の暗部復帰の為にやっているんだ。その中核であるお前が生半可では、示しがつかん!」
「…俺には…」
「いい加減にしろ!!!」

兄貴の停止していた影分身がオクラさんの拳で吹っ飛ばされる。苦痛に顔を歪めた兄貴の影分身は音を立てて掻き消えた。俺もチョウジも、成り行きを見守るしかなかった。

「昔と今は違うんだ!何故わからん!?お前は…お前は俺たちとは違う!」

その言葉に、兄貴は顔を上げた。

「お前は俺たちと違う。闇を背負い、一切の情を捨てる、暗部だろう!!」
「オクラァ!!!」

新さんの怒号。瞬間、ぼふん。兄貴の残った影分身が消えた。

「…………俺たちとは、違う…か。…確かに」

その言葉に、今度は俺が顔を上げた。片手で顔を覆ったその手が、僅かに震えている。

「俺は…暗部、……」

その指の間から見えた目は、普段の兄貴からは想像もできない程。絶望的な顔をしていた。




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