69.どうしたら君を抱きしめられるだろうか

チャクラを溜めること。それは想像以上に困難なものだった。春野サクラだって、すぐにできた訳じゃない。数ヶ月の月日を跨いでいるのだ。昨日今日でできないことは分かっている。溜めても溜めても、抜かれていく。まるで栓をしてない湯槽のようだ。更にチャクラをコントロールする為に集中も持ってかれる。このチームの玉として。膝を着くわけには。

「オクラ」
「あぁ、2人とも玉ではないからな」

玉はネジだ。そのネジは一対一である柔拳を新と交わす。互いの白眼が神経を集め、筋が浮かび上がっている。

「どうネジを抑えるか、そしてこの2人をどうするか」
「シモク。お前は新の加勢に入れ。ここは俺が引き受けた。」
「…でもお前…さっきから口寄せでチャクラが…」
「なに。口寄せなら誰にも負けん。それにこの物理攻撃を受け止めるには、俺が適任だ」

オクラは歯で指の腹を噛んだ。テンテンちゃんと似た小ぶりの巻物。

「口寄せ!」

ぼぼぼぼぼぼぼんっ!細かい煙がオクラの周りに漂う。そうだった、オクラは口寄せなら負けない。昔とは違うんだ。チャクラ量も昔より増えているとしたら、きっとオクラは倒れない。

「任せた、オクラ!」
「ああ!」

なら、早々に決着付けて、最後のペアとやり合わなきゃならない。俺だって多くチャクラを有しているわけじゃない。それにチャクラの池を作っている今は、更に。

「ネジは白眼の感知タイプ。前後左右での攻撃はすぐにバレる。」

なら…そうだ。影を、今以上に薄めれば。


シモクは決して頭が悪いわけじゃない。要領が悪かっただけだ。それも、ここ数年の任務で克服されている。印を結び、元々薄い影だが集中しチャクラをコントロールしている。春野サクラから少しだけ、コントロールを学んだのだ。1日も経たない、数時間だけ。奈良家の術は火遁、水遁、風遁、土遁、雷遁のどれにも当てはまらない。それは非生命的な術を生み出す陰遁だからだ。影を操る力に恵まれなかった。影が薄いからこそできる技である。影を薄めるなど、シカマルも考えたことはないだろう。それ以前に、できないはずだ。

「……兄貴?」
「シカマル、見て!シモクの影が消えてくよ!?」

チョウジの手がシカマルの肩を揺らす。あり得ないと、目が開く。

「どーなってんだ?影は薄められるものじゃねーんだぞ…」

サクラは影の術を深く知る訳ではない。シモクの影が薄まったのは昨日教えたチャクラの池を作ることに起因していると思っていた。実際にそうだ。元からチャクラ量を多く保有していないのも合間って、器用に分けきれていない。

「兄貴…なにしてるんだよ」

あり得ないことが、あり得ないものを見ている。シカマルは己の手を見た。もしかして俺にもできるのか?と。

「影真似の術!」

目視も難しい程の薄い、薄い影がネジの背後に迫る…!

「っお!?」

筈だった。

「おい!?なんで俺に影真似かけてるんだ!?」
「…間違えた」
「ほんっとに要領悪い奴…!」

仕方が無い。自分の目でも影を追えず、チャクラも極薄のこの影真似はヒットしただけでもいい方である。昨日の今日で完璧にコントロールできるほど、シモクは天才じゃない。

「八卦」
「!シモク!影を解け!!」
「六十四掌!!」

シモクの動きと同調している新の身体はネジの点欠を突く、八卦六十四掌を受ける筈だった。

「な…んで、俺止めれてるんだ?」
「これは…」

ネジの両の手を掴んでいるのは新の手である。しかし体術に於いて日向家ではネジの右に出る者はいない。新が止められる訳が無いのに。

「…お、い…お前の…仕業?…シモク…」
「不利な状況になっても、絶対に倒れるな。逃げるな」

印を結んだまま、新と同じ格好で背後にいるシモクに問う。ネジの手が新の手で引き寄せられる。実際はシモクが新を動かしているが、操られる感覚とネジの技を見切ったシモクに些細な恐怖すら感じた。

「逆手にとってしまえば」
「しまった…!」
「勝機はある!」

新の身体は引寄せたネジの膝裏を片脚で突いた。不安定な体制でいたネジは、まるでスローモーションのように地に片膝を着けた。

「そこまで!玉が膝をついた。勝者、奈良班!」


「どういうことだ。シモク。お前がネジの柔拳を捉えられるなんて聞いてないぞ!」
「あれは俺だけの力じゃない。新の柔拳に対する柔軟性と白眼があったから見切れただけで。」
「それでも、見切ったんだよな?」
「…日向ヒナタに、慣れただけだよ」

とんでも、ねーなこいつ…。さっきは要領悪いとか言ったが、それを逆手にとって勝機を引き寄せるなんて。昔のシモクには出来なかったことだ。

「まさか、水を刺されるとはな」
「ネジ」
「本来柔拳は一対一の体術だ。…だが、これはチーム戦。やられたよ。」

肩を竦めたネジは右手を差し出した。握手か?

「お前と一戦やれてよかった。」
「俺こそ…ありがとうネジ」

口元を緩めて笑んだネジの柔らかい笑顔。こうしてネジと闘えたのは、いつ振りだろう。ヒザシさんがご存命の頃。ネジの修業の手伝いをしていたが、ネジはすぐに6つ上の俺を凌駕したから対戦しなくなったんだっけ。

「お前達!よくやったあ!俺は信じていたぞ!!」
「オクラ」
「チャクラは大丈夫か?」

オクラの両手がシモクと俺の肩をぐわっと抱えた。相変わらず暑苦しい、暑苦しいけど、それがとても安心した時期もあったかな。それはきっと、隣で呆れ顔してるシモクも同じだ。ふ、と観客席を見上げれば、見慣れた銀の箒頭が片手を上げた。

「カカシさん!…!オクラ!シナガ先生だ!」
「おお、張り紙を見たのだな!」
「シナガ先生ー!俺ら二連勝!」

その隣にいたシナガ先生は相変わらず尖らせた唇から細い息を吐き出して、頬杖つくと片手をひらりと振ってみせた。

「懐かしいだろシモク!お前何年振りって感じ…」

シモクの顔は俯いており、シナガ先生を捉えようとしなかった。オクラと俺は顔を上げているのに。それだけで、やはり俺たちとシモクは、なにか決定的に違うのだと感じさせた。

「どうしたシモク!!顔を見せてやれ!なに、歳を取ったのはお互い様だあ!」
「いっ!!痛いオクラ!」

頬っぺたを片手で掴まれて上を向かされている。それを見たシナガ先生は、やっとその仏頂面を崩した。

「お前ら時間かけすぎだァ。ばかやろー」
「当たり前じゃないですか!ネジがいるんですから!!」
「言うと思ったよ…」

シモクが呟く。シナガ先生はなにかを噛み締めるように、数回、うんうんと頷いた。血色の悪い青白い顔に少々赤みが混じっている。これは興奮した時か、驚いた時か、嬉しい時によくある。俺たち、まだ"3人"だよな?欠けてないよな…?




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