67.傘の中で転んだのだあれ

シモクは渋っていた。勿論、自分の相手である日向ヒナタに。確かに一度対戦したが、頭をフルに回転させ、穏便に穏便を重ねた結果があの個人戦だ。女を傷付ける趣味等、これっぽちもないシモクにとってはむしろ苦行だ。何故新はシモクにヒナタを当てがったのか。というか散々個人戦で怒鳴られたのだが、いいのか、俺がまた相手で。早いとこ、ケリをつけてくれ新。玉であるキバと対戦している背中を確認した瞬間。ヒナタは見逃さなかった。

「八卦空掌!!!」

突然の衝撃波が襲う。吹っ飛ばされたシモクはくるりと空中で体制を立て直し、両の足で着地した。ヒナタにとっては、自分こそ相手の玉を任された身。キバは新との戦闘に夢中で本来の目的すら忘れてるのでは…。彼の口癖である"ひゃほ〜!"は、本日何度目だろうか。背負う刀に手をかけるが…やめる。女の子に刃物は向けたくない。シモクの悪いところはそこだ。自分の甘さが滲み出る。…この子は玉じゃない。膝を着かせたところでなんの意味もない。だが相手のチームを分散しなければ持ち前の結束力で更に厄介になる。感知タイプであり、このチームは聡い者ばかりだ。仕掛ける前にばれてしまう。ならば。ちらりと横目で見た2人も、これでは時間を潰すだけだと分かっている。新も早々に決着はつきそうにない。着けたとしても、まだ時間はかかる。このあとも俺たちは二戦抱えてるんだ。…嗚呼、こういうのをチームワークっていうんだろうな。こちらを向く目だけで、2人の思惑が手に取るようにわかる。なら、それでいこう。

「そら!」

ばふん!白の煙幕がヒナタの視界を遮った。また、昨日のような戦法かと白眼で更に警戒した。霧が晴れ、突っ込んできた。煙に隠れる訳ではなく、真正面から。予測から外れた行動に面食らったヒナタだが、もう一度構え直した。


「虫は好きだぞ!若い頃はよく捕まえて標本を作ったりした!」

オクラは身軽に蟲を避け、豪快に笑っていた。八重歯が眩しい程、笑顔の似合う男。

「そうだなあ!これも縁とやら!昆虫採集でもしないか!」

シノは心の中でリアクションに惑っていた。こんな朗らかな大人。

「奇壊蟲か、蟲使いとしての噂はかねがね聞いている。」

オクラは口寄せや土遁が得意である。幼い頃、その好奇心の高さから様々な生き物と契約してきた。

「あぁ、自己紹介してないな?俺は土中オクラ。土遁が得意でな」

にっかりとした笑みを向けた瞬間、2人の間にキバが飛んできた。

「オクラァ!」

その声に反応するように、素早く組まれる印。バン、と骨張った掌を叩きつける。

「土遁!地下牢の術!」

ぼこりとヘコんだ地面。長方形に開いた穴の中にキバは吸い込まれていく。シノがキバを救うべく素早く放った蟲は入り口を塞ぐようにして回天する新に阻まれ、散り散りになる。

「キバ君…!」

ヒナタが気付いた時、今の今まで交戦していたシモクがぼふんと音を立てて消え去った。まるで役目を果たし終えたかのように。

「…気配が消えた…、っ影分身…!」

いつ。チャクラの流れはちゃんと見ていた筈なのに!疑うとするなら。あの時の煙幕だ。では…影分身を放ち、シモクはどこに…。そう考えて、ヒナタは少し離れた場所にぽっかりと開いた穴を見つけた。


「女の子の相手はやはり俺には向かないな。…さすがオクラ。戦闘しやすいように広く作ってくれてる。」
「俺と一対一でやろうって腹だったのかよ、最初から!」
「個人戦に持って行った所で、時間を食い潰すと判断した。ならば、またチームワークで勝負するしかないだろう?」

薄暗い土の中で、キバは壁に背を預けて待ち構えていたシモクと対峙した。アイコンタクト一つで行われた大胆な作戦。シモクは、まずヒナタを欺くため己のチャクラを少し残した影分身を置き、オクラが事前に土遁でこしらえた地下通路に潜り込んだ。あとは、新が突撃技に偏るキバを"予定通りの位置"に誘導したら…オクラが地下へ誘う。…圧倒的な、チームワークの力。

「これは、個人戦ではなくチーム戦。いつ何時も仲間の存在は忘れない。」

シモクの背後から、個人戦の時よりも薄い影がキバの足元にゆっくりと侵食した。ドゴォ。数分、入り口を守り固めたオクラと新は内側からの破壊音に動きを止めた。印を組み、地下牢を地上へ引き上げる。地面がまるで両開きの扉のようにゆっくり開いた。

「っくしょおおおおお!」
「ワオーン!」

光が差し込み、中の状況が明らかになった瞬間。オクラと新はやれやれと地面に座り込んだ。咆哮が聞こえる。キバは膝をついていた。

「そこまでだ!勝者!奈良班!」

綱手の判定が下る。オクラが堪えられないというように腹を抱えた。

「はっはっは!!若い頃温存していた作戦を今やるなんて思わなかったぞ!」
「なんだっけな。"囚人作戦"だっけ?」

地下から這い出たシモクはなんともいえない高揚に惑う。まるで、まるで中忍試験。今回の3人でのチームワークも、アイコンタクトも。全て、あの頃の作戦だ。シモクが暗部に移動になった為に、3人で出来なかった作戦。派手なことしよう。地下牢にでもぶち込むか?じゃあ、待ち構えてやろうよ。幼い頃の、実現されることなかった作戦は9年の時を経て実現された。勝ち星をあげて。

「キバ達が…」

決して結束力のないチームではない。最初の方は押していたはずだ。個人戦に持ち込まざる得なくなったのは新達のチーム。なのに、いつから押され始めた。いや、違う。忍とは相手の先の先を読み取らねば。正攻法で攻めても無駄に終わる可能性もある。新達のチームは、それが勝った。相手の技、性格、それぞれがそれぞれの視点で分析していたのだ。己の役目を分かっているから。すぐに個人戦からチーム戦に切り替えた。


さすがとしか、言えない。シカマルは大胆で尚且つ鮮やかな勝敗を掲げた3人を凝視した。元から頭のキレる人達だとは思っていた。相手の虚を突くのが上手いというか。シモクにしたって。昨日今日と驚かされてばかりだ。知らなかった、兄のポテンシャル。

「二本目!奈良班対、日向班!」
「ネジいいいい!!」
「煩い」

次はネジ達だったか。とシカマルは呟く。さっきの戦闘で、多大なチャクラを消費したのはオクラだ。口寄せは、実際結構体力も持っていかれる。だが彼はそんな素振りすら見せず、白い歯を見せて笑っている。…これが、兄貴の班。…強い。素直にそう思う。




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