66.むきだしのしんぞうがひとつ

「おいおい、さすが感知タイプの班だ」
「オクラの土遁も嗅ぎ当てられるなんてな」

お互い距離を取り、後ろに飛び退く。サンダルの底が砂に擦れてノイズのような音が鼓膜を震わせた。

「相手の特性は昨日、シモクが体験してみせた通りと思っていい。個人戦に持ってくぞ。」
「うむ。仕方あるまい」
「異論なしだ」
「俺は犬塚。シモクはヒナタ様。オクラは油女だ」
「新、玉を獲れる自信があるのか?」

予想はドンピシャで、玉はやはり犬塚だ。因みに新達のチームの玉はシモクである。

「自信がなかったら、こんなこと言わない」
「わかった。健闘を。」
「よし!!行くぞ!散!!」

オクラの一言でそれぞれが自分の相手の元へ散る。

「!貴方は…」
「もう一度、膝を着いてもらう」

ヒナタと、玉であるシモク。

「やはり俺の相手は貴方か。予想はしていた。何故なら、蟲達を回避できるのは土遁を使える貴方しかいないからだ」
「俺は理論、理屈は性に合わないタチの人間でな。」

シノとオクラ。

「つーことは…ヒナタと同じ柔拳使い!」
「言っとくが、俺は野郎には容赦しねーからな」

キバと新。

「牙狼牙!」
「は!見た目通り!」

新は両手をぱしんと打ち付け、足に力を込めた。新の白眼にはキバのチャクラの流れも脈動も全てが見えている。キバはヒナタと同じ班に属し、ヒナタの柔拳を知っている。ならばヒナタと同じ事をしても時間を食い潰すだけだ。

「八卦掌回天!!」
「ッチ!!」

ヒナタは回天を会得していない。これは本来、日向の宗家で使われる防御術。チャクラを放出しながらの回転速度は他の比ではない。例え同じ回転を得意とするキバの術でも、必ず弾き返す。弾き返されたキバは盛大な舌打ちをかまして有り余った威力を壁にぶつけた。ネジは、唯一。この八卦掌回天だけは新から得た。新は宗家のみ伝わる術、八卦掌回天を会得していたからだ。どこで得たのかは今も尚不明である。…幼い頃から名門、日向家の天才として名高いネジには常に厳しい修行が付き纏った。別に嫌とも思わなかった。厳しい修行だが、父に教われば教わる程。自分の拳に誇りが持てたし、何よりも優しい新が当然だと言われたネジの拳を裏表なく素直に賛美するものだから。…嬉しくて。むしろ意欲的に力を身につけた。

「すごい…ネジ、あんたのお兄さんやるじゃない!」
「さすが、ネジのお兄さんです!」
「従兄だ」

思えば、ネジの修行相手は新だった。6つ年上の男はメキメキ力をつけるネジを賛美していたが、忍の道に進むことをよしとしなかった。忍の話になると、途端に顔色を変えた。自分こそ忍のくせに。

『ネジは、本当に忍になるのか?』

当たり前だろう。何度言えばわかってくれるのか。そう思っていたが、憎悪に囚われたままのネジを忍にさせるのが嫌だったのかもしれない。ナルトとの負け試合の後、宗家と分家の和解の後。素直に己の身の内を明かせば、新は今度こそ押し黙り、反対しなくなった。今では上忍昇格を涙を垂れ流すまで喜んでくれている。

「羨ましいですキバ君!ネジのお兄さんと一戦交えられるなんて!」
「ネジが増えたみたい」
「増やすな」

羨望の眼差しを向けるリーと、新の動きを忙しなく追うテンテン。ネジは久し振りに彼の戦い方を見た。白眼は日向一族ほぼ全員が開眼するほど血継率が高いが、中には上手く眼を継げなかった者や欠陥…純度に乏しい白眼が受け継がれた者もざらにいる。新は後者に当てはまった。そもそも新は未熟児として白眼が未発達のまま生まれ落ちた。そのためか、白眼の力が弱いのだ。それは、名門・日向一族として恥ずべき事。それを突きつけられた時から、新は新なりに補う術を探した。柔拳も並、白眼も劣るとなれば自分に残るのはなにかと。

「いくぜ赤丸!こうなりゃ!」

牙牙転牙!!!!三頭狼に変化したそれはまた新たな回転をかけて新に迫る。威力も倍だ。

「お前は…突撃技に偏り過ぎちゃいないか」

ぱしん。構えた新はおぞましい勢いで迫り来るキバの回転を、その白眼で見定めた。




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