65.首筋を撫ぜるまばたき

今日受けた傷が地味に痛んだ。さすがに5人の若い中忍達の相手は違う意味で手こずる。特に、春野サクラの一発は重かった。チャクラを纏った拳は、よく机を叩き割る五代目そっくりだった。いい拳だった。今度は憎悪なしで、もう一度闘ってみたい。女の子だけれど。それでももう一度と、思える相手だった。火影岩の真上には真っ白な月がぼんやりと浮かんでいた。これくらいの光が俺には丁度いい。

「…イタチ。お前に蛇、けしかけられたのを思い出す。とても懐かしいんだ」

親友で、時に出来の良過ぎる、もう一人の弟みたいだった。あの時のお前の顔。年相応で、嬉しかった。嗚呼、こんな顔もするんだな、って。給水タンクの上から見える位置にあんの門がある。勿論見張りはいる。里を囲う壁の上にも。巡回は回っている。上手く巡回をすり抜け、追っ手を撒けたら。俺は抜け忍になる。この里を捨て、ただ一人を追って。……俺、今、なに考えた…?背筋が凍った。誰が、里を…捨てるって…?…俺は、俺は、……なにを考えた…?震える肩を引き寄せた。イタチを追って…里を抜け…、

「あのー…」
「!!っわ!!」
「ちょ!?…だ、大丈夫ですか!?」

突然掛けられた声に吃驚してタンクから落ちかけたら顔に似合わぬ腕力で衿ぐりを思い切り引っ張られた。あっ…ぶなかった…。

「ご…ごめん…ありがとう。春野サクラさん」
「…なんか意外。さっきとは別人みたい」
「はは…そうかな?」

春野サクラは指先を弄りなから、でもしっかりとこちらを見据えた。

「あの…今日は…ごめんなさい。あたし、自分を抑えてられなくて…」

戦闘終了後のあれだろうな…。

「五代目に治療して貰ったから全然平気だ。それに、俺も悪かった。ごめんね」

春野さんは、肩を下ろして笑んだ。…俺ごときに緊張してたのだろうか。お互い気負うものがなくなったのか、春野サクラは思いついたように声を上げた。

「一ついいですか?奈良さんの術ってシカマルのと同じですよね?影。とても薄かったのが気になって…気配もなかったし」
「あぁ、それは」

俺が、奈良の能力を受け継げなかったから。

「シカマルに比べたら…微弱でね。あの濃さに慣れてたら気付かないかもしれない。」
「微弱?それってなんで…」
「…俺がシカマルより才が劣るからだよ。」
「…兄、なのに?」

久し振りの、これか。忘れていた。あまりにも弟と一緒にいることがなくなったせいで。昔は、しょっ中だった。シカマルの前で大人達かそれを言うものだから、上手くあしらってやってきた。笑顔を貼っつけて、シカマルの小さな小さな耳を塞いでやりながら。あの頃は。

「うん、お兄さんなのに。おかしいでしょ。」
「え、あ…ごめんなさい!そうじゃなくて!その…ちょっと違うかもしれないけど、あたしと少し似ていたから」
「え?」

春野さんは俺の隣に腰掛けた。なんか不思議だな。いの以外の若い女の子と話した経験もあんまないし…。

「あたし、同じ班の男の子2人に守られてばかりで。追い掛けても、追いつけなくて。2人とも強いから仕方ないんだって。そう思ってました。」

ナルトと、サスケ君のことかな…。確かに普通より強い子達なのはわかる。カカシ先輩が苦労する程だからだ。

「でも…あたしの我儘のせいでナルトが傷付いた。それで、決意したんです。あたしも、2人に追いつきたいって。今度は、あたしも一緒にって。」

吹き抜ける風が、ひやりとしていた。そろそろ秋に季節がチェンジするだろう。木の葉は四季がはっきりしている。風に運ばれてきたカサカサに渇いた葉が足元に不時着した。

「…俺はそんな立派じゃないよ。追い掛けることも、追いつかれることも。よくわからない」
「同じですよ。」

春野さんの新緑の瞳が希望に満ちていて眩しい。目を背けたくなる程。それは太陽光にも似た、強過ぎるもの。

「力が足りないと思ったら、蓄えればいいんです。」
「蓄える…?」
「はい、あたし綱手様に弟子入りして、百豪の術を極めています。」
「百豪の…術?」

「あー、えっと…百豪の術っていうのは、一定のチャクラ量を三年間くらい掛けて溜める術なんです。あたしの場合は医療忍術にも回すので自分の中に、チャクラの池を二つくらい作る感じで今も溜めてます。」
「そんな緻密なコントロール…その歳で?」
「医療忍者、やってますから!」

なんて…聞いてるだけでも難易度はAランク並みだ。特に医療忍者なんて。チャクラコントロールが緻密過ぎて習得する忍が少ないことから重宝される存在。それを…この若さで。正気の沙汰じゃない。彼女だって戦闘にも参加する忍だ。チャクラの使用量には波がある筈なのに、更にまた別の場所にチャクラを溜める?そんな芸当、俺には。

「影の術も、チャクラによるものですか?」
「あ…うん。チャクラを練って影に纏わせるんだ。チャクラが切れると影は引っ込む。」
「なら…あたしと一緒に、チャクラを溜めてみませんか?」
「だが俺なんかが…」
「チャクラが溜まり切った時…あたし、あの2人に追いつける気がするんです。」

その真摯な目差し。嗚呼、本当。眩しい。目が潰れそうだったのに、俺は情けなくもその眩い光に手を伸ばす。

「…俺に教えて。春野さん」

光に依存する。俺は闇に溺れるのが怖いだけなんだ。


「これより公式戦2日目!チームでの戦闘を開始する!チーム内で"玉"を選定し、初日と同じく膝をついたチームが負けとなる!」
「えーと?」
「チーム3人の中で。"玉"、つまりは勝敗を決める要を選び、"玉"となった奴一人が膝をつけば、そのチームは負けってことだ」
「なら"玉"はチームの中で一番強い奴がなるってことか?」

シカマルの説明にキバが問い返す。まぁ、単純に言えばそうなるが、チームのパワーバランスにもよる。"玉"を決めるのは慎重になりそうだ。

「チーム分けを発表する。」

テンテン、ロック・リー、日向ネジ
奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの
油女シノ、日向ヒナタ、犬塚キバ
奈良シモク、日向新、土中オクラ

「以上だ!」
「あ、良かった。シャッフルされなかったんだ」
「中忍試験終了直後だからな。チームワークが高まっていると判断されたんだろう。」

シモクはぱちりと切れ長の目を瞬かせた。この名前が同じ場所に3つ並ぶのは、何年振りか。胸の奥が震える。なぜ、なんで。五代目は…。

「おーす。シモク。よろしくな」
「おっす!シモク!新!久方ぶりだなぁ!やってやろう!俺たちの時代は終わってないのだ!!」

オクラががっしりと二人の肩に腕を回した。少し暑い。

「…これ絶対、手回ししただろ…」
「はー?お前と組む相手は俺たちで十分だろ」
「チームワークも、俺たちの方が良いと思わんか」
「……相変わらず、バカ野郎共だ」

俺を喜ばせることが、上手いんだから。

「さあ!一本目!奈良班対、油女班!」




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