05.白くはない羽根の所在

今日もいい修行日和だ。朝っぱらから多大なるチャクラを使って修行していた新は一旦休憩のために手頃な岩に腰掛ける。川がさらさらと涼しげな音を立てながら流れていく。そんな時、控え目でどもりまくりな、か細い声が聞こえてきた。

「あ、あ、あの…新さん…」
「ヒナタ様」

日向ヒナタ。宗家の嫡子である。つまり、自分より偉い立場の彼女の事は常に様付け。ネジもそう強要されているが、彼は従った試しがない。ネジの額には消して消えることはない永遠に宗家に劣る証である呪印が刻まれている。元々仲がよろしくない宗家とはなにかと対立が酷かったのだ。ネジは宗家を、勿論ヒナタをも恨みの対象として見ている。気持ちはわかる。自分も宗家じゃない側の人間だから。だがネジは更に呪印もろともの理由を含め宗家を恨んでいる。

「どうしたんですか?ヒナタ様、俺になんの御用でしょうか」

でも、新はただそれだけのヒナタに冷たく当たることはしない。彼が優しいのも理由のひとつだが、なにより態度を悪くする理由はない。宗家の人間だから、なんだ。それが素直な理由だった。現に新はヒナタに怯えられてもいないし、むしろ懐いてくれているようだ。だからこそ、更に突き放す理由は存在しないのだ。

「あの…その…、修行を、つけてもらいたいんです」
「修行を?それは何故…」

と、言うところで止めた。そうだ、確かヒナタ様はあの宗家の中でも劣る類なのだ。妹であるハナビよりも劣る彼女はヒアシに見捨てられていると、そんな噂を耳にした。ネジの一つ下の彼女は必死なのだ。忍の道に進めない者は見捨てられるだなんて。それこそ、その根本からおかしいのだと新は改めて思う。この小さな少女が忍になる必要はないのではないか。彼女なら一般人として里にいたってなんら変哲はないし、むしろ似合っているかもしれない。花屋さんにでもいれば顔立ちの良いヒナタはたちまち看板娘になるだろう。そんなもうひとつの可能性を思い浮かべながらも消した。

「わかりました。僭越ながら、お相手させて頂きます」

そんな事、叶うはずが、ないのだ。ヒナタにしても、ネジにしても。忍の道を断念してくれるわけがないのだから。だって忍になるのは自分たちにとって、当然のことなのだから。

「…シモク…?」

ふっ、と。そう一瞬のことであった。
人通りの多い店が建ち並ぶ大通りで見知った姿を見つけた。もう長らく見ていなかった。

「おいシモク!!!…っと、え?」
「……新か?」

走り寄ってその肩を掴めば容易に振り向いた。その顔はやはりシモクであった。問題なのはそのシモクの傍らに佇む男だ。自分よりも年上であろうその男はいきなり現れた新を見下ろしている。美丈夫で背丈が高く、顔を半分以上黒い口布で覆っていて、涼しげな片目に一際目を引く銀の髪。顔が半分以上見えなくてもよほどの美形であることがわかる。

「…え、あ。どうも」
「…どうも」

素っ気なくオウム返しされ、新は僅かに眉を吊り上げた。

「おいシモク、誰なんだよこの人、知り合い?」
「俺の先輩」
「先輩って……なんのだよ、見たことねぇよ俺」
「だろうな」
「だろうなって…久々だってのに、随分なご挨拶じゃねーか」
「ごめん」
「お前には聞きたいこといっぱいあんだ!場所変えようぜ、話しを…」
「それは出来ない」
「は?てかアンタ誰なんだよ?」

低い声でこの男は言った。新の眉が更に吊り上がる。警戒の色を濃くして男を下から睨みつける。男はその片目だけで更に威圧をかけて新を見下ろす。

「それは出来ない。召集がかけられている」
「意味わかんねーよ、下忍になんの召集だよ」
「下忍?……あぁ、そうか。お前には知らされていないのね」
「…なんのことだよ」

男の目が少し細くなる。まるで薄く笑っているようだ。

「カカシ先輩、遅れますよ!」

2人の雰囲気に押されたのか、シモクがチキン肌を逆立ててカカシと呼ばれた男を引っ張った。

「新、今はゆっくりできないんだ。またいつ帰ってくるかわからないけど、必ずちゃんと話をするから、待っててくれ」
「あ、おい!!!」

そう言うなり2人の影は闇夜に溶けていった。呆然と立ち尽くす新に、近づく小さい影。

「なにしてるんだ新」
「ネジ!」

ネジである。修行の帰りなのか、はたまた修行の帰りなのか。どちらでもいいがネジが怪訝な顔でこちらを見ている。新は慌てて表情を取り繕ってなんでもない、と首を振る。

「ネジはなんの帰り?」
「頼まれた買い物帰り」

確かにネジの手には今夜の食事の材料であろうものがかごの中に収まっていた。

「そうか、ネジはお使いか」
「そういう言い方するな」

プライドが高いネジはプイと顔を背けるとそのまま歩いていってしまう。慌ててネジの隣に駆け寄り、ペースに合わせて歩く。

「……ねぇネジ、ネジはやっぱり忍になりたい?」
「は?なりたいではなく、なるんだ。当たり前の事だろう。」

"当たり前"…やはり幼い頃から忍としての知識を蓄えられたら、こう思ってしまうものなのだろうか…。

「大体、何故そんなことを聞くんだ」
「……愚問、だったか?」
「あぁ」

ずっぱり、きっぱりそう断言するネジにむしろ笑いがこみ上げる。少し声に出して笑えばネジがむっとした顔で睨み上げてきた。

「なぜ笑う」
「いや?別に?」

…どうすることも、出来ないのか。やはり、忍の道に進んでしまうのだろうか。




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