59.ここではなにもみえません

「我愛羅!聞いてんのか!」
「わあーい!トモダチトモダチー!」
「今はそんな話よりこの状況をどうするかだ。」
「!…」

ビキキッ。感じた、今。濃密でかつ繊細なチャクラの繭に阻まれているが、わかる。近くに居る。…これはネジのチャクラだ。

「…ネジ!」
「!救援ッスか!?ほら!ほら!」
「ネジにリー君にテンテンちゃん…あと、砂の額当てをした少女と……滝隠れの忍2人だ」

…巻物を持ってるなら早く中央塔に行けと言ったのに…!

「どいつもこいつも…!」
「新!いるのか!」
「お前、中央塔へ行けと言っただろ!」
「行けるか!ナルトなら、きっとこうした!」
「っ、」
「今からそっちに行く!内側からもチャクラが薄い箇所を探してくれ」

…ああ、もう。頑固なところはヒザシさんそっくりだ。

「……ネジ!ここだ!」
「テンテン!チャクラ刀を出してくれ」
「…」

縦に亀裂が入り、ネジが中に入った。さっき振りだけど実に俺より頼りになる。

「他言無用だと言ったのに」
「弟子を責めてやるなよ、お前を救おうと必死だったんだ」

そうか、外の砂の女の子は我愛羅の弟子か。

「点欠が止められてるな…新、何故点欠を突かなかったんだ」
「…俺はお前のような純度の高い白眼は持っていない、それに…俺の柔拳が二流なのは知ってるだろ」

俺の拙い点欠突きをして、下手にやってしまえば、どうなるかわからない。そのリスクを抱えてまで点欠を突くことは出来なかった。

「なら、俺たちが来て尚の事良かったな」
「…」

なにも言うまい。

「やれるか?」
「期待してるッスよ!」
「あぁ」

バチッ!

「な、ネジ!大丈夫か?!」
「尾獣のチャクラが強過ぎて、弾かれた」
「……俺も一緒に突こう、ネジの手にもう少し力が加わればいける筈だ」

ネジの隣で構える。なんだよ俺かっこわるいじゃん。ネジの手を痛めるなら最初からリスクなんて気にせずやればよかった。尾獣を抜かれる確立と点欠を誤って突く確立を天秤にかけた時。本当の救いを履き間違えた。なにしてんだ…俺!

「ネジの白眼に合わせる。」
「……フン」

ドンッ!ネジの手と俺の手が我愛羅の点欠を捕らえる。…さすがネジだ、点欠ど真ん中を的確に当てた。感触からしても見ても間違いない。

「点欠を突いてしまえば、尾獣のチャクラとて止まる、か」
「次はお前だ、フウ」



「本当に助かった、礼を言うネジ」
「我愛羅様!ご無事でなによりです!」
「マツリもよく働いた」
「あぁ」

全員が無事だと確認した瞬間、ネジの手が褐色の手に掴まれる。

「あっし、滝隠れのフウ!100人の友を作ってるッス!だからフウの友達になってほしいッス!」
「分かった分かった!分かったからこの手を離せ」
「っぷ、あはは!良かったですねネジ!」
「ネジに色目を使って!」
「お前は考えがズレ過ぎだ!」

尾獣は無事、引き抜かれることもなく。風影である我愛羅を死守することに成功した。中忍試験も、終わりを迎えようとしていた。



「父さん」
「シモクか、どうした?」

父の背中を見て育つことが出来たのは、ほんのひと時だけ。あとはもう、どこを見ていいのかわからなくなった。

「教えて欲しいんだ」
「なにをだ?」

父さんがくるりと首を回してこちらを向いた。その行動がシカマルに似ていた。それがおかしくて少し笑みを浮かべながら盤を指した。

「…お前と将棋を打つのは、10年以上前振りだな」
「そうだったかな」
「…いつの間にか、立派になりやがって」
「体だけだよ」
「器は昔っからでかかったからなぁ」

カラカラ笑うシカクの目尻の皺。ぱちんと重なる音。

「……暗部は、慣れたのか?」
「………」

無言の肯定は、シカクが受け取る。あと1年で、10年が経とうとしていた。

「シカマルは監督官なんだよね」
「前の中忍試験で唯一の合格者だからな」
「…父さん」
「ん?」
「俺……。」

口が開かれて…閉じた。まるで言葉を飲み込んだかのように。我慢するように。

「…俺、シカマルにもうそろそろ背並ばれそう」

…話を変えた。シカクはすぐに分かったが催促はしない。昔からそうだ。可哀想な程に聡いシモクと、その頭脳で何手先も読めるシカクの仲は不器用なもので。意思疎通からグダグダだ。お互いがお互いを先読みする。年頃の年齢から任務漬けの日々を強制的に行っていたシモクと。こんなにゆっくり会話したのはいつだろう。

「お前が伸びてやりゃいい」
「成長期なんて、もうないよ」

息子の笑顔を見たのは、いつ振りだろう。

「……暗部、やめねぇか」

思い出せば思い出す程。自分達に背を向ける後ろ姿ばかりが蘇った。暗部にしたのはシカク。悩みに悩んで出した結果が間違っていたとは思わないが、正解でもない。シモクの気持ちを無視した。まさに、里の為の犠牲なのだ。だからか。無意識的に出ていた言葉を慌てて引っ込めようとしても、目の前の顔を見てから取り返しのつかない発言であると知る。

「どういう意味?」
「……俺から五代目に掛け合う、9年も奉仕したんだ、これからは木の葉の上忍として…」
「中忍にもなれていない俺が上忍になんてなれるわけ、ないだろ」

……失言に失言を重ねた。普段の冴え渡るIQはどこにいったのか。シモクの前ではこうだ。いつもそうやって、傷つけてしまう。

「今日は変な日だ。皆が俺を異端だと言う。おかしいと、言う」

自嘲的な笑み。胡座を崩して立ち上がったシモクは自分の陣地にある駒を摘み上げるとシカクの玉の前に置いた。デタラメな置き方。

「俺の居場所は、暗部なんでしょう?父さん」

その言葉で確信した。もうだめだ、と。シモクは暗部に染まった。もうこちらに戻ってくることはない。遠くなる裸足の足音を聞きながら熱くなる目頭を押さえた。自分がやってしまった事とはいえ、なんて。なんて酷いことをしたのかと。"父さん"さえ他人のように温度がない。あの時。上からの圧力だって、うまく頭を回せば回避出来たかもしれない。暗部なんて闇なんかにやらずに。息子を守れたかもしれないのに。それをしなかったのは、シカク自身だ。

「シモクー!ちょっと手伝ってー!」
「はい、母さん」

…昔から、我儘なんて言わない子で。面倒くさがりのシカマルとは違い、むしろ面倒くさいことにも平気で巻き込まれに行くような性格。能力が薄いせいで、蔑ろにされていたのは知っている。段々曇る純粋な目を見ない振りした。丁度シカマルがヨシノの腹にいる頃。シモクは遠くから、大きい腹を眺めてはふいと顔を背けた。それが寂しくて。

「ん?その傷どうしたの」
「修行」
「ちゃんと手当しなさいよ」
「分かった」

シモクは23歳になった。色恋の噂もちらっとは聞いたが随分前の事だ。…本当に、暗部で生きるつもりなのか。

「母さん、そこ俺やるよ」
「助かるわ。本当。シカマルは手伝ってくんないもの」
「シカマルは今忙しいからね」
「本当、全くいつの間に…」
「……」

多分、シモクは今ここに自分がいていいのかすら疑問に感じているに違いない。シカマルはあの性格だから本当は嬉しい癖に表現しない。そして、父である自分も。

「…母さん、俺中忍試験が終わったら体の調整次第、任務に戻るよ」
「…もう?あんた、ひ弱なんだからもう少し…」
「俺はもう小さい子どもじゃないよ、自分の事は、ちゃんと分かってるから大丈夫」

最後の洗濯物をヨシノに手渡して。

「俺は大丈夫だから、シカマルの事よろしくね。母さん」
「…なにそれ、まるであんた…」
「ちょっと、縁起悪いこと想像しないでよ」

言って笑うと修行してくるからと森の方に歩いて行った。シモク、母ちゃんにあんな顔させんな。お前を誰よりも心配してんのは、母ちゃんなんだ。小さい時、誰からも必要とされていないと思い込んでいたようだけど、それは間違いで。俺も、母ちゃんも、シカマルも。お前のことを愛してる。家族、だから、それを伝えるのを憚って、手遅れになった。




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