58.劣情の白骨化

「…なんて、砂だ…」
「風の国名物、大砂嵐だ。噂に聞いていたがすごいな」
「…ネジ…!」
「!新!勝手に動かないで!」
「紅さん!俺、ネジを探しに行きます!」

目の前に大きく大きくうねる大砂嵐を見ていたら気が気じゃない!あの中にネジがいると思うと、酷い焦燥感がせり上がる。…死んだら、死んだら、どうするんだ!もうあんな思いをするのは御免だ!!!

「すいません!失礼します!」
「新!待て!」
「木の葉の方々か」
「っ…木の葉より、火影様から書状を賜っている、風影様に召喚要請だ」

アスマさん達は砂忍に捕まったようだ。…でもあの人達のやり口は教えてもらった。すぐに来てくれる。なら俺は先駆けした役目を果たすんだ!

「白眼!」

ビキビキという耳に響く音と共に神経が白眼に集中した。白眼だけは、唯一俺が日向家であるという証。力も、それなりにあるつもりだ。

「…どこだ…」

爆風で砂が巻き上げられ、視界が曇るが苦ではない。

「…」

集中しろ、第二次試験が大砂嵐で中止になったことは監督官達も承知の上。他の受験者の保護は砂の仕事だ。魔の砂漠ってのは…!

「…いないな」

ここじゃない。にしても、本当に酷い砂嵐だ!

「ネジ…ネジ達は、どこかに避難しているだろうか…」

この辺りにはいない。

「もっと、高まれ…、白眼!」

遠く、遠く。もっと飛ばせ。………………、?なんだ、あの…小型のシェルターみたいな物は。受験者?…!このチャクラの流れ!

「見つけた!!」

三人分のチャクラの流れ!ネジ、リー君、テンテンちゃんだ!見知った色だ、間違える筈がない。そうか、シェルターに入ってやり過ごしていたのか。この大砂嵐はあと小一時間は吹き荒れる。だがそれは憶測だ。過ぎ去るのが大幅に遅れればシェルター内の空気の問題もあり、最悪の場合…。そんなことさせるか。


「どうしたの、ネジ?」
「なにか近づいてくる」
「なにか…?…!救助ですか!?」
「白眼!」

ネジの白眼は数キロ地点の場所まで広げた。感知したのはこちらに真っ直ぐ走る影が一人。……見知り過ぎたチャクラだ。

「…はぁ…」
「ちょっと、なに溜息ついてんのよ」
「…いや、もういい」

心の何処かで、もしかしたらと。思っていた自分がいるのも確かだ。本当に、助けにこんなところまでくるなんて。

「新だ。」
「え!?」
「ネジのお兄さんですね!?」
「従兄だ」
「やったー、なんか心強いー」

テンテンの顔が弛む。今更だが新も歴とした上忍。ガイや紅、アスマと同じくらい頼れる存在なのだ。

「なにしてるんだか…」

テンテンとリーはそっとまた溜息を吐いたネジの顔を盗み見、慣れたように顔を合わせて笑んだ。こっちだって伊達にネジと新の関係を見ていたわけじゃない。あまり会話はしなかったけれど、ちゃんと分かってる。ネジの緊張感を保った、冷静な面がほんの少し弛むことを。無自覚だろうけど、分かってるんだからと。

「…恐ろしい程脚速いな、あいつ」
「さすが!愛の力ってやつぅー?」
「愛の力!ネジもなんだかんだちゃんと青春してるんですね!」

リーの白い歯がキラリと輝いた瞬間、テンテンの出したシェルターが外側からゴンゴン叩く音と共に人の声がくぐもって聞こえた。

「ネジ!リー君!テンテンちゃん!」
「「「はやっ!!!」」」

蓋を開ければ、いささか嵐の収まった砂漠で、新が顔面と体中を砂まみれにして立っていた。

「っ、はぁ、良かった、無事だったんだな」
「当たり前だ。」
「あたし達、サバイバルに慣れてるから!」
「中忍試験はどうなっているんですか?」
「この大砂嵐のせいで中忍試験は一時停止状態だ。他の受験者は砂がシェルターに誘導し保護しているはず」
「ということは、この砂嵐が収まれば試験再開ですね?!」
「あぁ、ネジ達がどんな状況だったかわからなかった故、探しに来たんだけど気鬱に終わって良かった…」

少しベソをかく新に呆れるネジ。だけど、サスケ奪還任務で新の心配性を更に煽ってしまったのだと分かっているから。

「…!」
「…?なんだ」
「お前達、巻物を揃えているな?じゃあこの嵐が止んだらすぐに中央塔に向かうんだ」

立ち上がった新は3人の背中をぽんと押した。その先を見る白眼はビキビキと神経が寄っている。新が白眼の力を使っているところをあまり見なかったネジの表情は怪訝だ。

「ともあれお前達が無事でなにより!必ず受かれ!待ってるから」
「うん!ありがとうございましたー!」
「必ず受かって見せます!ネジのお兄さん!」
「従兄弟な」

新はネジと同じ黒い艶やかな髪を揺らして駆けて行く。…全く、忙しい奴。

「あたし達も中央塔に急ぎましょ!」
「ええ!巻物は揃っていますからね!」

…嗚呼、そういえばこれを言わなければならなかったな。巻物は天と地の書を揃えることが条件。今持ってる二つの巻物は、実は。両方天の書であるということを。

「リー、テンテン、実は…」
「ええー!」
「なんでそんな大事なことを今まで隠してたんですか!」
「別に隠してた訳じゃない、ただ色々あって言う機会がなかっただけだ」
「言い訳になってないしー…」
「気を取り直して、もう一度地の書を…」

ネジの感知がかかった。前方になにかいる。

「白眼!」

…あれは、人…行き倒れか?

「こっちだ!」
「ちょ!待ってください!」
「まったくもー」
「…ええ!あんな弱っている方から巻物を奪うつもりですか!?そんなこと出来ませんよ!」
「早とちりするな!行き倒れを放っておけるか!」
「確かにそうね、てか大体ネジがそんなことする訳ないじゃない!」
「わ、わかってますとも…!」

行き倒れていた砂の額当ての少女は随分走ったのか酷く消耗していた。この砂漠で水も飲まずに走り続けていたのだ、なにかあったに違いない。

「なにがあった!」
「風影様が…、っ」


やはり!このチャクラ、一尾か!俺の感と、白眼のお陰だな。…俺の唯一の忍としての長所は白眼がネジよりも遠くを見通せるくらいだろうか…。俺は頭良くないから、有効活用できなくて別に普通のスキルだと思っていたけど。

「!新!何故ここに!」
「ほらぁ!助けに来てくれたッス!」
「この鎖…!尾獣を抜くのか!?」
「あの琵琶の音色は封印術だ…くっ、!」
「我愛羅は知ってるが…お前は滝隠れの!人柱力だったのか!?」

人柱力を、2人も…!?なんの真似なんだこいつは!

「今引き抜いてやる…ッ!」
「触るな、弾かれる!」
「っく、」

どうする、なにをする!点欠を突くか…?いや、下手に止めたところで尾獣が引き抜かれれば2人は死ぬ!

「ッチ!ここにいるのが俺じゃなきゃなんとか出来たかもしれねーのに!ごめんな!」
「…あっしに任せるッス!」

もう1人の人柱力は印を組むとチャクラを吹き出した。…このチャクラ、繊細だな…それでいて細い。

「な…なにをしたんだ…?」
「あっしの力じゃ、鎖を引き抜くことはできないッス、だからせめて時間を稼ぐことにしたッスよ!この繭はあっしのチャクラッス!」
「…本当だ、チャクラの放出が弱まった」
「…まあ、俺も中に入っちゃったけど、これも計算の内?えーと…」
「滝隠れのフウッス!助けに来てくれてありがとう!お近づきの印にお友達にぃ!」

「我愛羅、額当てこそしてないがあれは砂の忍だろ。お前自身が囮になって反対勢力を炙り出す気だと聞いた、どういうことだ!」
「とーもーだーちぃー!」
「お前に万が一のことがあれば、砂だけじゃない、木の葉との同盟も揺らぎ兼ねないんだぞ」
「友達になろうッス!あっしの話聞いてるんスかー!?」
「あーもう!はいはい!とーもーだーち!」

腰にへばりついてくるフウの手を取ってがっちり握手してやったら、みるみる内に笑顔が溢れる。うわ、この子すごい明るい顔で笑う。まるで希望を詰め込んだ、そんな顔で。

「やったー!!シブキぃ!やったッスー!あっしに友達が出来たッスー!!!」
「我愛羅!答えろ!お前は風影の…って、回らないで!?」

俺の握手した手ごと体が回ってるんですけど。鎖絡まりまくってるんですけど。あれ、俺超真面目な話してるんだけどな!?




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