56.遠くで涙を流したら

「…最近色んなことがありました」

シモクは少し困ったように笑って27の墓に花を挿し終えた。最後に縦に割れた面の前に膝をつく。あの日からなにも変わらない、ただぽっかり空いた穴はこちらを見ている。

「俺のしたことが間違ってたとは思いません。ですが、テンゾウさんにも迷惑かけてしまいました…テンゾウさん、ナグラさんに俺を託されたって言ってたんですけど」

そんなこと、あるんですかね?縦の亀裂に指を這わせ、彼らの最期の瞬間を知らない自分に後悔と苛立ちが募る。死体の回収にも立ち会えなかった。…違う、怖かっただけだ。その死体を見るのが。俺の世界では、27人全員生きてる。…今でも、胸に。

「俺は昔から自分が暗部に向いてると思ったことないんです…ナグラさんのように全てを里に捧げる覚悟がなかったから」

10年という長い月日の中で、ナグラはなにを見て、なにを思ったのだろう。

「…うちはイタチは、里の脅威なんかじゃありません。優しい奴なんです、里を愛しているんです」

今、俺は、どこに向かおうとしているのだろうか。暗部への帰還、里への絶対的忠誠。

「イタチを、木の葉に連れて帰りたいんです。…奴が好き好んで暁に属してなんかいないことを知ってるから」

雨の日の言葉を忘れたことなんてない。少なくとも俺は覚えている。ドーム型の天井にぽつぽつと空いた穴から陽が差し込んだ。一人一人の墓を照らすように。今まで影に居た者を労うように。陽は優しく照りつけた。

「里と親友。形は違えど、イタチもこんな板挟みだったんでしょうね…」

里。弟。一族。仲間。家族。二重スパイの苦しみなんて、わからない。知ったかぶりたくはない。イタチは十分苦しんだ。…もう、いいじゃないか。

「早く終わらせてあげたいだけなんです」

弟のサスケは、里を抜けた。イタチを殺すためだ。本人がそう望んだ結果だ。だけど、こんなに辛くてこんなに悲痛な兄弟がいるか?イタチだけが全てを抱えて闇に一人きりだ。俺が限界だ。

「闇から救い出したい」

イタチが慕っていたという、うちはシスイ。彼とイタチは似ている。里のためにと己の命と人生を懸けて平和を願うその思想。

「苦しいだけだろ…そんなの」

滅びの美学なんて知らない。確かに俺は自己犠牲だと自覚してる。だけど。

「悲しいだけだ」

耳鳴りがする程静まり返った暗部の墓地で、シモクの声は低く空気を震わせていた。


「ではこれより、中忍二次試験の説明をする!!」

早朝、砂隠れの魔の砂漠。第二次試験の開始だ。72時間リミット制のサバイバル巻物争奪戦。死人もでるかもしれない恐ろしい試験だ。サバイバルならガイさんのところのチーム…つまりネジは負けないだろう。俺はネジを信じているし、覚悟もしている。今はネジの成長を見守ると決めたのだ。受験生が指示通りの位置についたのか、花火が上がる。…始まったのか。太陽が昇り、砂漠の黄色を照らす。争奪戦はもう始まっている。

「ガイさん、紅さん、アスマさん、何故ここにいるんですか」
「新、俺たちは別件だ」
「別件?」
「砂隠れで現風影、我愛羅に対する反対勢力が動きを増していると情報が入ってな。我愛羅はそれを承知で此度の二次試験の監督官をしている」
「危険な行為故に風影になにかあれば木の葉との同盟にも揺らぎが生じる危険性が出たから、あたし達が魔の砂漠に潜入して砂の動向を探るようにと命が下ったのよ」
「そんなことが…!我愛羅はそんなこと一言も…!!」

砂が第二次試験に会場を強引に持って行ったなら、反対勢力を誘き出すことが狙いか…!それを承知で我愛羅は自ら囮に…!風影がすることじゃない…!!

「我愛羅に危険が及ぶなら我愛羅を守り抜け」
「我愛羅暗殺…本人が囮になるとはな」
「砂隠れも切羽詰まっているのかもしれないわね」
「なにがあっても、風影を守り抜くぞ。」
「すいません。その任務、俺も追加させて頂きたい。連絡役など飾りのものより俺も風影を守る戦力として加えてください」
「…まぁ、いいんじゃないか?」
「異論はないな?」
「ありがとうございます」
「散!」

そんな理由を抱えていたなんて。確かに我愛羅は人柱力として里の兵器と呼び声高い男だった。だけど、今はそんな男じゃない。反対勢力が未だ存在するのは、意見と意識が対立するのは仕方ないことであっても。そいつらは、今の我愛羅をちゃんと見ていないだけだ。

「五代目はもう知っているだろう。」

これは、もう砂だけの問題じゃない。

「なに考えてるんだ…我愛羅は!」




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