55.背中の温度が冷たくなる

暁は、犯罪者。里の脅威。イタチは、板挟み。戦争に誰よりも心を痛めた優しい男。弟想いの、優しい兄。

「お前が属するには、極端な選択だね」

自分自身はどうでもよくて。ただ弟を思う。それは、俺と似ている。似ているから、心配なんだ。解るから、怖いんだ。俺がイタチなら。きっと全てを成した時。己で死を選ぶ。
イタチも、そう考えている。絶対に。イタチは言っていた。"弟の越えるべき壁としてあり続ける"。お前が話してくれた。あの雨の中。弟に闘志を。憎しみを植え付けてきたと。殺しにこいと、言ったと。回りくどいんだ、イタチは。そんなことさせたくないんだ。俺がトリガーになったなら。俺は俺の選択をしたい。イタチを、救いたい。

「…」

でも、救うには…俺が俺であっては駄目だ。俺は木の葉の暗部。そして、自由に追跡できる立場にない。火影の部下だ。…どうする。既にテンゾウさんには先手を打たれている。テンゾウさんは俺がこれ以上余計な物事を増やすことを良しとしない。そんなの当然だ。考えが泥沼化しているのが、わかった。

「怪我の具合はどうだ」
「火影様の処置のお陰で。もう復帰は可能かと」
「うむ、ならばよし!シモク!」
「はい。」

…なんで、俺呼ばれたんだろうか。復帰できると起き上がった直後、タイミング良く、まるで見ていたかのように火影様から伝令があって来てみたら、怪我の具合…いや、俺を診て下さったのは火影様で。なら具合を聞くのはわかるが…。火影様は艶のある唇を悪戯気に歪ませた。…火影の発言は、少し怖いし身構える。三代目様がそうだったように。お優しい方で、苦渋の決断をしていたのは明白だった…けれど。…俺に取ったら、結果は一緒だ。どんなに情をかけてくれても、どんなに可哀想にと思ってくれても。俺は結局、暗部になったのだから。

「暗部の任務に出せない程、お前の身体能力は療養によって落ちた。そこでだ!」
「?」
「公式で、お前と対戦したいと物申した奴がいてな。折角の良い機会だ」
「…は、はぁ?」

たい、せん?俺が?誰と?というか、…なに!?

「木の葉内での公式戦という形で場を設けることにした!相手は中忍と上忍だ、心してかかれよ」
「そんな!俺は暗部ですよ!?シズネさんもなんとか言…」
「いいじゃないですか、久々に!」

ひ、久々?

「我々は奈良シモクの早急な身体能力を取り戻すには実戦に近い環境での戦闘が良いと踏んだんです。」
「シズネと話していたら、どこから聞きつけたのか相手も…シモクと闘えるなら願ったり叶ったりだから手伝わせてくれー、なんて言ってきおって」

いや、その、俺の意思は…。

「中忍試験が終わると同時に開始するからな。準備しろ!」
「ぎ……御意。あの…その相手というのは…」

火影様とシズネさんは顔を見合わせて、それはそれは楽しそうにニヤリと笑ってみせた。



「ん?オクラからか。またあいつ鳥の無駄遣いしてんじゃないだろうな」

わざわざ木の葉から飛ばされて来た鳥の脚に括り付けられていた書を開いた。ああ、やはりオクラか。なになに?えーっと…こいつ本当に字汚いな。

「………よし」

汚い文字の羅列に目を通すと、無意識に口角が上がった。

「…形は違えど一戦交えられるな、シモク」

書には、一言。オクラからの承認の通知だった。

「ネジに恰好良い俺を見てもらっちゃおうかなー!」

事を遡れば数日前。

「ちくしょう、五代目まじ鬼か、鬼だな。鬼」

新は四徹の域を超えた。ゾンビと思われても仕方ない顔をしている。因みに準備に追われた他の上忍もこんな感じだ。最後の種類を提出したら、全て終わり。安眠が約束される。

「だから、シモクの暗部への早期復帰が必要なのだ」
「ならば綱手様、手合わせをさせたらどうでしょうか?」
「手合わせか、より実戦を混じえて…」
「となると、対戦相手が必要ですね」

ばんっ

「俺やります!!!奴とやれるなら願ったり叶ったりです!手伝いをさせて下さい!」
「新!聞いていたのか」

五代目とシズネさんの会話を聞いたのは、偶然だったにしろチャンスだった。あの俺たちが揃わなかった数年前の中忍試験。あれから俺はシモクと戦っていない。戦友というからには、力量が知りたい。そして少しでも、記憶に留めたい。だって俺の中のシモクは消えかけてるんだから。

「俺ならあいつの相手に申し分ないと思いますよ、五代目」
「いいのか?」
「むしろお願いします」
「ふむ…。相手は奈良シモク、暗部の要を担う奴だ。それを踏まえての回復を我々は望んでいる。…できるか?」

五代目の目が向けられる。力強い目に負けじと俺も見返した。

「できますよ、任せてください」
「そうか、それは心強い。」

緊張の糸が切れた。場の空気は緩やかになったのを感じた。それほど、この計画は慎重なのだろうか。それほど、シモクは暗部にとって必要ということなのだろうか…?シカマルは、暗部からシモクを引き抜くと言っていた。だが、今で確信した。それは無理であると。例えシカマルが望み、五代目に嘆願したとしても。シモクの心は動かない。むしろ暗部の荷は更に強く重くなり、その背中に乗っている。今回の暗部裏切りの件でも、裏切りの仲間を己の身をかけてまで守り通した姿勢。呪印が施されていないにも関わらず絶対に口を割らなかった、その頑なに燃える意思。その全てが、五代目にはプラスに映った。里を仲間を家族を。愛していると心の奥から叫ぶシモク。

「ならばあと数人必要だな…」
「五代目、俺に任せてくれませんか?必ずシモクとの対戦に相応しい人材を見つけて来ます」

怪訝な顔をした五代目に笑いかけて。だって五代目より俺の方がわかってる。なにより、もう頭の中では誰に声を掛けるか決めている。




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