52.もうやってこないはずの冬だったのに

「…すごいな」
「自分でも驚いてるよ」

回復力が凄すぎて。いや、これもまた才能…。帰還屋の所以の一つ……か?

「さっき草間レンカって人が見舞いに来てた」
「レンカ?」
「兄貴の旧友だって?これ渡してくれって。自分で渡しゃあいいのに、めんどくせー」

シカマルが差し出した紙袋。ラベンダーのリボン。申し訳ないな、と思う。

「悪い兄貴。明日から中忍試験なんだ。色々準備あるから早めに帰るぜ。そだ。新さん、昨日から砂隠れだってよ」
「うそ、本当に。大変だね。…あ、」

なにか口を開きかけた。シカマルはそれに気付き、なに?と返した。腫れが殆ど引いて持ち上がるようになった腕が、中途半端な位置で止まっていた。

「監督官頑張るんだぞ」
「はいはい、ガンバリマス。」

紙袋の中身が生ものだと確認して冷蔵庫に入れる。

「んじゃ」
「シカマル」
「ん?」
「いってらっしゃい!」

シモクは今だに怪我で引き攣る顔を目一杯笑顔に歪ませた。その不恰好な笑顔に、シカマルは呆れたように口角を上げ、病院を後にした。兄が拷問から帰ってきた。帰還してきた。元気に、何事もなかったかのようにシカマルを見送って。あの笑顔で。シカマルが聞かなかったら語られることもなかっただろうシモクの過去。幼いシモクはどんな思いで口角を上げていたのだろうか。俺と対して変わらない歳の頃。兄貴はなにをしてたっけ。笑うことに、疲れなかったのか。なんであそこまで人のために尽くせるのか。なあ、兄貴。

「敵わねぇな、親父にも。兄貴にも」



………あり得ない…じゃん?

「今から火影に会わせるじゃん」
「……可笑しいな。君ってあれだよね。昔会ったよね?木の葉の道端で」
「あん時はすまないな。ここに来る土地、テマリにも会ったろ?」
「…あ、そうだ、あの時の子だ…」

なにこの懐かしい面々。てか、丸くなってるじゃないか…感動的!

「なぁ、四代目風影は確か死去しているよな?五代目は誰なんだ?」
「あ?聞いてないのか日向新。」
「なにを」
「あいつ、あんたに会うのをずっと楽しみにしてるじゃん」
「あいつ?」
「ここだ、俺は外で控えているから」

…あ、はい。一人で行けと。パーティーを連れずに単独でボス戦に乗り込めと。そう言ってるのかなカンクロウ君。妙な緊張を張り詰めさせて、風影がいらっしゃるという扉を開けた。

「失礼します。木の葉の里より参りました。連絡役の日向新と申します、どうぞよろ………」
「長旅、ご苦労だったな。待っていた」
「…あの、俺何年か前にめっちゃあなた様に似た子を見かけているのですが。か…風影様、…宜しければお名前よろしいですか」
「我愛羅…砂漠の我愛羅だ」
「……うっそおおおおおおおおお」

あれだよな。2年前、木の葉で行った中忍試験。カカシさんの班の子達が砂忍に絡んでたからちょっと仲裁入ってしまった時の!

「…そこまで驚くか?」
「…失礼しました。」

そうか…あの子が風影に。他里の子だが、面識がある者の昇進は胸にくるものがある。あの時とは違って落ち着き払い、表情も穏やかでまるで別人だ。

「…一つよろしいですか?なぜ俺なんかを連絡役に指名したのでしょう」
「…俺は一尾の人柱力として。また砂隠れの兵器として生きてきた。里の者や父上でさえ俺を疎み、殺そうともしてきた」

腕を組んだ風影、…我愛羅は顔を上げて澄んだエメラルド色の虹彩を向けた。

「我を愛する修羅、自愛が己の全てだと思っていた。だがナルトと戦った時、ナルトが語った他者との繋がり。そしてそれを体現するかのように、俺を繋いだのはお前だった。」
「俺はそんな風に思われる程のことはしておりませんが…」
「少しの事でも、俺にとっては大きいものだ。あの時ナルトだけではなく、俺の心配をしてくれて、ありがとう。ずっと、礼が言いたかったんだ」
「そうか、風影となれば他里にも中々行けないですからね」
「今回はこんな形で来てもらってすまない。」
「とんでもないです。我愛羅様のお心のお役に立てたなら、すんごい光栄です」

風影、我愛羅か…。うん、いい響きだ。本当は無礼なのだろうけど、歯を出して笑ったら我愛羅もふふ、と笑った。

「此度の中忍試験、砂隠れと共同で行うように、また火影様より風影様の命に従うようにと言われております。ご指示を、風影様」

どんな爺ちゃん風影かと思ったら、こんな可愛い子が里長なんて。うん、頑張れちゃうわ。


「………あのさ、イヅル君。」
「黙っていて下さい」
「いや、あの。黙れって…というか、なんでここにいるのかなー?なんて…」

ぎろり。髪の色と同じ栗色の大きな瞳がガラ悪く細められる。

「…怪我の具合。結構良くなったって聞いて、…でも人から聞くだけじゃ信憑性がないから、自分の目で確かめにきた」
「へ…へぇ、そうなの、わざわざありがとう」

でもね、俺が心配してるのはその手に持たれた真っ赤な林檎とそれを剥いてる包丁なんだよね。暗具の使い方は手馴れているのに。イヅルの林檎の皮はガタガタで皮に実が乗ってる状態。素手で剥いているから、切らないか少し心配で目が離せない。

「…なんで、僕のこと庇ったんだ」
「え?」
「拷問部屋なんかにぶち込まれて。そんな怪我してまで、なんで僕を庇ったんだ」
「…前にも言ったけど、俺はナグラさんに生かして貰った。だからせめて今度は俺がイヅルを守らなきゃ、って。そう思ったんだよ」




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