51.きみのかたちに切り取るくらやみ

「え…俺、ですか?」
「あぁ、先方のご指名だ」

はて…俺は、一体なにをしでかしてしまったのか。シモクでもあるまいし、…そんな……そんな大物様に、一体どこでなにで粗相をしてしまったのか。五代目は少し、いや、大層面白そうにニヤついている。笑い事じゃないんですけど。

「今回の中忍試験は砂隠れと連携だ。風影がお前を連絡役に、と言っている」
「いやあの、すいません五代目様。俺ぶっちゃけなにかしたんですか。なんかしたんでしょ、五代目!」

火影様の机をてしてし叩いて理由を求む。風影様だと!?知らねー!接した記憶がねぇー!!!お忍びで木の葉に来てたとしても、そんな高価な人物見たことない!!

「連絡役というからには、早々に砂隠れに行き、風影の指示を仰げ。…少し気になるこももある。後にガイ達を送る。日向新、行け」

…俺、終了フラグ。

「あー、えーと…俺、シモクの具合でも見てこよーかなー…なんて………あああ、嘘です、すぐに飛びます!!!」

五代目の目が、マジだ。ごめんなさいごめんなさい!傍に居たシズネさんとその腕に抱かれているブタちゃんに見送られて俺は砂隠れへ赴く準備をしに家に全力疾走した。

「あああああぁー!ネジいいいネジはいないかあああぁ」

家中をバタバタ走り回ってみても、目的の人物を探し出せずに益々テンション降下。砂隠れなんて3日はかかるぞ…。そんな中期任務…!

「新さん?」
「はい!ヒナタ様!こんにちは」

分家の方にいらっしゃっていたのだろうヒナタ様。今日も見目麗しゅう。俺の怒涛の足音に驚いて出て来てくれたらしい。

「俺、暫く中忍試験の都合上、砂隠れの里に滞在することになりました。試験中はよろしくお願いします。最後に、ヒナタ様。ご健闘をお祈りしております」
「はい!」

2年前とは違い、力強い返事を返してくれるヒナタ様。修行をつけて欲しい、そう少し怯えながら頼みにきた表情は消えていた。凛とした、自分を信じている。いい目です。ネジは修行でか、不在だったが、ヒナタ様のお見送りを受けてテンションがだだ上がり。木の葉の検閲を受けて、駆け出した。暫く走って、木の上から木の葉を見渡してから、砂隠れへ急いだ。なんたって、お待たせしているのが同盟国、砂隠れの風影だ。

「砂と言えば…元気かな、あの子」

確か…砂漠の我愛羅。審査書類の写真がとても可愛くて、カカシさんにつっこまれたこともあったっけ。ナルトと一戦交えて、それっきりだな。

「あ!シモクに挨拶すんの忘れた!」

……まあ、いいか。あいつも忙しいだろうし、早く体を治して欲しい。昨日、目が覚めたとカカシさんから聞いた。会いにいけなくて悪いな、シモク。中忍試験が終わったら、オクラと行くからな。今はとにかく砂隠れを目指そう。…あれ。そういえば木の葉崩しの手前、風影は亡くなってたんだよな?………今の風影って、誰だ?


「すみませんでした」

昼過ぎ。五代目火影様、綱手様がお見えになった。ツルネの件を全て話した。俺の隣には隊長のテンゾウさんが立っている。

「最初からそう言えばいいものを。あたしだって鬼じゃないんだ、検討はいくらでもした」
「……すみません、俺、道を外れた暗部を一人…知っていたから…同じように、なって欲しくなかったんです」

テンゾウさんの組んでいた手先がピクリと反応したのが気配で分かった。なんだろう。

「全く…お前というやつは。あたしは優秀な部下を一人失うかと思ったぞ」
「勿体無いお言葉です」

火影は腕を組んで椅子から立ち上がり、窓際に立ちながら俺を見下ろした。

「…お前は暁の同行調査中、ツルネ率いる6人の奇襲に遭い、更生の見込み有りと判断した2人以外を完全鎮圧。あの死体は"ツルネ"であり、殉職者が出たことでテンゾウ率いる部隊には補充員として新しく編入した者がいると。」
「…え?」
「テンゾウ部隊へ"イヅル"の編入を、正式に認めてやる」
「…か、げさま…」
「なんだ?その顔は。"ツルネ"は死んで、代わりに"イヅル"が加わったんだろう?」

つまり、そういうことなんだろう?五代目は挑戦的な目で俺を射抜いた。全てを知っても尚、俺の我儘に付き合ってくれたのですね。火影様。

「…、ありがとう、ございます…っ、」
「並びに奈良シモク。引き続き、お前はあたしの部下として働いて貰うぞ」
「…もちろん、です!この命尽きるまで、尽くさせて頂きます…!」

満足そうに笑う、綱手様が太陽の光を受けて、輝いて見えた。


「よろしかったのですか?綱手様。」
「あの馬鹿の根性に、負けたよ」
「負け、ですか」
「奴の拷問を直接見せて、イヅルも態度を改めたようだからな」

自分の為に、体を張って全身全霊を懸けて真実を捻じ曲げ、閉ざそうとするシモクの姿に、なにを感じたのだろう。ツルネは脚を折り、頭を垂れさせながら拳を床に付けた。ナグラと同じ、栗色の髪が肩からするりと落ちる。

『…変な人ですシモク先輩は。……ですが、火影様。こんな僕を。また暗部で使って下さるというならば。僕は今度こそ貴女と里に、この命尽きるまで忠義を尽くします。そして…もう一度僕に生をくれた…馬鹿でお人好しなあの人に、一生ついて行きます』

「あんな目見せられちゃあな。年を取るわけだ」
「ふふ、はい」

綱手は羽織を翻して病院を後にした。


「あー……野宿…慣れてるとはいえ、さすがに一人ぼっちは辛いよなぁ。近い将来、なんか出来ないかなぁ。遠くにいる人と連絡が取れるような便利な道具」

鳥とか、巻物、手紙とかではなく。こう…びゅんっと繋がるような道具。

「にしても、遠いな。砂隠れ。」

行けども行けども砂だらけ。明日の砂漠は熱くなりそうだ。夜は涼しいが日が登る内は少し辛いかもしれない。

「少し仮眠を取ったら、行くか」

ちんたら走って一人ぼっちを持続させるより早く砂の里に着きたい。俺、淋しがりやだから。

「…って、うわああああサソリ!!!!こっち来んな!」

…拝啓、ネジ。ものすっごく会いたいです。




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