45.ただの人なら掬えない

呼び出された。内容なんてわかりきっているけれど。元から隠し通せる自信も確信もなかった。だけど、ここで俺が口を割ればイヅルがどうなるのかわからない。イヅルはナグラさんの弟だ。死なせるわけにはいかない。ナグラさんはイヅルが慕う通り、良い兄貴だったのだろう。俺が、

「…素直に答えろ」
「申し上げた通りです。ツルネは俺が粛清致しました」
「言葉で覆せない程の証拠があるんだよ。…お前なら火影の信用を裏切らないよな?」

イヅルを守る。俺の一存で巻き込んでしまったイヅルに責任はないのだから。

「俺の忠誠は変わりません」

カカシ先輩と新、そしてシカマルが険しい顔で俺と対面していた。

「…お前が倒れたのは、これに対してのことがあったからだろ?それだと辻褄合うんだよ。本来変装の類は得意の暗部、ツルネの顔を形取るのも訳ないだろう。色々な偽装を、6人もの忍を相手にした後にたった一人で行えば、そりゃ疲れるよな」
「…火影様に報告した通りです。ツルネ含む6人中4人を粛清後、更生の見込みありと判断した2人を連れ帰りました。裏切り者の4人の体と共に。直帰です」

新の顔が歪む。大方、本当は俺を疑いたくはないのだろう。新は俺が倒れた時、居合わせている。二重の心配を、かけてる。

「シモク…お前、このままだと暗部の立場も剥奪されるんだぞ…、居場所を、失う事になる」

カカシ先輩の言うことは最もで。俺自身の信用も危険に晒しているんだ、自分から。居場所にしろとカカシ先輩が示してくれた場所も、手放そうとしている。それでも。

「俺はツルネを殺しました」

俺の我儘だけど、それはただのお節介だと言われてもいい。自分が間違ったことをしているとは、思っていない。

「カカシ先生、新さん。ちょっと席を外してくれないっすか」
「シカマル…」
「兄貴と2人で話がしてぇんです」

カカシ先生と新さんが退室するのを確認して、改めて明るい場所で兄貴の顔を真正面から見た時。その疲労困憊の顔に、申し訳なさが若干過った。

「本当の事を話してくれ」

昨日、ぶっ倒れて病院で寝ていたんだ。全く疲れが取れていないのに。

「兄貴は、ツルネを助けてる。あの時のあんたの顔はどこかほっとしたようにも見えた。仲間を殺したなら…あんたはもっと、酷い面するはずだ」

どうとでも、思えと。言っただろう?

「俺は兄貴を信じてんだ。…このまま嘘を吐き続けても、仕方ない事ぐらいわかってんだろ」
「…」
「兄貴」

話してくれ。他には話せなくても、俺にならきっと…。そう思ってた。兄貴の口がすうっと息を吸い込んだ。告げた言葉に、絶句した。

「俺はツルネ含む6人の暗部を粛清後、体を持ち里に帰還し、火影様に報告。…俺がしたのは、これだけです。俺は、ツルネを殺しました」

期待は、無残にも兄貴の言葉で砕かれる。違うんだろ。違うのに、なんであんたは…

「粛清したのは俺です。あの死体は、ツルネのものです」

なんで、敵意を向けた相手を庇うんだよ…自分の立場を、捨てようとしてまで…。弟の、俺にでさえ、素顔を隠す。

「…兄貴、五代目火影はあの死体がツルネじゃないってことには気付いてるんだ。兄貴の言ってることが嘘なのは、明白なんだぜ…」
「俺は確かに、"ツルネ"を殺しました。あの面は、もういません。どこにも」

…これ以上、なにも話すことがないと言うかのように。なにを聞いても、訴えても。兄貴の口が開くことも、その顔がぴくりとも動くことはなかった。


「…やむを得ん…尋問部隊に引き渡す」
「!綱手様!」
「こんな手は使いたくない!奴もあたしの大切な部下だ!…だが、このままだと暗部剥奪だ」

五代目が仰ることは勿論だ。このままだと、暗部の重鎮とも呼べるシモクが暗部を外れることになる。火影の、里の信頼を落としたとして。今までシモクが行っていた任務を肩代わりできるレベルの暗部は、実はいない。あの絶対的帰還率を塗り替える忍など、いない。失うには、惜し過ぎるのだ。

「…シカマル、辛いとは思うが」
「…………わかり、ました。」

シカマルの顔は、言葉にはし難い思いで溢れていた。悔しくて、悲しくて、どうしようもない。それは、新も同じだ。木ノ葉暗部の拷問・尋問部隊。抜け目のない拷問、尋問で有名な森乃イビキが担当だ。シモクが、どんな目に遭うかは火を見るよりも明らかだった。…なら、俺の役目は。

「…五代目様、何日かかってもいい。俺もイビキに同行する権利を下さい」
「カカシ…」
「シモクは俺の後輩でもありますから」

あいつに、暗部を居場所にしろと言ったのは俺だ。奈良家を追放されたと思い込むシモクに。居場所を作らせるために。もし、暗部をもう一つの家のように思い、同胞を家族のように慕っているなら。今回の件は、シモクの行き過ぎた身内愛のせいだろう。そして、それを突きつけた俺の責任。五代目様は負けた、とでも言うかのように肩を竦めて了承した。

「明朝、尋問部隊に奈良シモクの身柄を引き渡す。」




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