44.夜になったら剥がれるのです

暁の調査任務失敗から数日経ち、シモクは火影直轄暗部の意識教育の立場に置かれた。未来の暗部を担うエリート達は、シモクより一回りも違う年齢の少年少女もいる。
暗部 = エリート集団。そう思うかもしれないが、実際は天涯孤独者のなんと多いことか。様々な理由でここを選んだ者。ここしかなかった者。今回のツルネの件で暗部の意識を危篤した火影。火影直轄暗部の忠誠は違うことは決してない。だが今回、こうして裏切者が出てしまったのは事実。火影の信用を落としたのも、事実。

「シモクさん、貴方はあのうちはイタチとはたけカカシさん、2人とツーマンセルを組んでいたとお聞きしました。」
「どんな任務についたんですか?」
「その帰還率の高さはなぜですか?」
「2人とも優秀過ぎる忍でした。どんな任務だったかと聞かれれば専ら暗殺です。最後に俺の帰還率ですが生命力が他の人より図太かったから、としか言いようがありません。」

俺は意識指導であって、教官などではないんだけれど。シモクの周りに集る幼い未来の暗部達。その目はまだ死んでいない。

「もういいかな?」
「あと、少しだけお話しをしてください」
「シモクさんみたいに気軽に話してくれる人、周りにいない」
「俺たちの中で、シモクさんは唯一なんでも尋ねれる方ですから」

慕ってくれる者もいれば、

「おいガキ共、そいつは逃げ帰ることしか脳がねぇ忍だぜ?」
「その癖、同胞の命は躊躇なく奪う。今回のお前らの同期、ツルネみたいにな!」

こういう者もいる。比較的若い暗部はシモクを尊敬するが同世代から上の年齢暗部の一部はこういった言葉を投げかける。

「…シモクさん、俺たちはそう思ってません。ツルネの事ですが、…本当は助けてくれたんですよね」
「…"ツルネ"は俺が粛清した。体は連れ帰ったが既に火影様の方で処分した。助けてなどいません。」
「いいえ、俺たちは」
「助けてなどいない。裏切者の末路は絶対だ。…お前達も道を踏み外す事があれば、俺が粛清します」

動揺を悟られることなかれと、面の下で表情を引き締めた。


「五代目様。奈良シモクは断固として助けてはいない、と申しておりました。面を取らない故、表情の特定はできませんが声に若干の硬さが見られたかと。」
「わかった、下がれ」

五代目、綱手の前に膝をついた暗部は一度頭を下げてから瞬身で姿を消した。シモクの周りに集まっていた、若い暗部の一人だ。

「はぁ…」
「いかがなさいますか、綱手様。まさか火影直轄暗部に9年間も従事する男が…」

シズネが静かに綱手で問うた。此度の暗部内の裏切り行為は見過ごせない。なぜならそれは違えぬ忠誠を里に捧げる事が絶対の忍だからだ。すべてを里に捧げる覚悟のある忍、それが暗部。

「…死体をすり替えるなんて」
「…」
「ということは、裏切りの主犯格、ツルネは存命…」
「シズネ、…あいつ、奈良シモクの口から真実が聞きたい。あれだけ里に尽くす男だ。理由があるならば聞こう」

シズネは小さく頷いた。三代目火影から木の葉の影に身を投じてから9年…。暗部の過酷な任務を長らく全うしてきたシモク。どんな任務であろうと、絶対的帰還率を誇る優秀な直轄暗部だ。その忠実さには信頼も置いている。そんな男が何故、自分を襲った暗部を助ける…?報告が偽りだということはもうわかっている。

「明日、奈良シモクを呼べ」

ならば本人に、直接尋ねよう。

「同じく、奈良シカマルとはたけカカシ、そして日向新を呼ぶんだ。信頼関係が深い者達からの尋問の方が答える可能性もあるだろうからな」
「わかりました」


「シモクのやつ…なにしやがったんだ」

極秘扱いで届いた召喚命令は奈良シモクを尋問する、という内容だ。口外は一切禁止の箝口令付き。内容こそ短いのが、逆に不安を煽る。

「…シモク」

最後に見た顔はいのの事で傷付いた顔。あの後頭を冷やして考えた。この2年間、シモクにも色々あったとは思う。先輩暗部の死去後、身の振り方が変わって精神的にも辛い時期だったと。そして、それが限界に達したのか、倒れたこと。繊細な男ではあるが、それらが理由で地に落ちるような奴じゃない。

「…もしかして、倒れた原因が…わかるのか?」

疲れをピークに達させた原因が、この尋問に立ち会えば必ずわかる。元より拒否する理由はない。大事な親友で、戦友だ。心配して。真実を知りたいと思って。なにが悪いというのか。

「どうしたんだ」
「…なんでもないよ、ネジ」

廊下を歩いてきたネジに新は首だけ振り向いた。密書を運んできた鳥は、もう飛び立っていた。




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