39.触れたらなくなる魂だって

「兄貴!待ておい!兄貴!」

兄の背中を、物理的に追いかけたのは小さい時以来かもしれない。あの頃とは心情も状況も違うが。

「暗部に裏切りが出たって、」
「木の葉崩しで最前線が全滅したことは知ってるよね。」
「あ、…あぁ」

本人は話したがらないが、その話は広まっている。火影直属先鋭暗部部隊が砂忍に数負けし、全滅の被害を出したのは。唯一の生き残りが兄だということ。それを悔いていること。

「俺の所属していた部隊、ナグラ小隊は最前線の任務を最優先に切り替えた、大蛇丸や砂忍のことは初めから想定していたからだ。俺は世話になった先輩暗部、ナグラさんに生かされた、それこそ暗部の掟を破ってまで」

兄の後ろに立ち竦み、わかったことがある。

「今回の任務はね。ある組織の調査だった。若い暗部の編成。…昨日の夜、奇襲を受けた」
「!?奇襲って…っ」
「俺以外の6人全員が木の葉崩しの犠牲となった暗部の関係者。特に主犯格のツルネはナグラさんの実の弟だった」

それだけ聞けば、もう察しがついてしまう。兄の背中は、昔より前へ傾いた。

「気持ちは分からなくない、俺だってお前がいるから。兄弟がいるから。…だが私情如きで任務を妨害するなんて許されることじゃない」

前から暗部の仕事を真摯に受け止めている人で。9年間、人知れずその身を粉にして里の為に尽力していた。

「だから、俺は自分が判断を誤ったとは微塵も思ってないよ」

面を側面に外したシモクは顔だけシカマルに振り向いた。

「俺のことをどうとでも思え、シカマル」

…時がシモクに与えたものは、優しいものではなかったのかもしれない。シモクの影は濃さを増し、やがて朝日に溶けた。


「…なんだこの、鬼畜さ」
「喋る暇があるなら手を動かせー」

…ついに、きた。この仕事量…五代目、鬼か。延々と判子を押し続ける苦行…。ポムポムポムポムポムポムポムポムポム…

「ぐあー!!」
「新!手を止めるな!前進あるのみ!」

周りを見ろ周りを。ゾンビだよ。ゾンビと化してるわ周り。…実は、カカシさんと会ったあの日から、ずっと執務室篭りっきりです。中忍試験だと、侮ることなかれ。一大イベントと言っても過言で無いそれは日頃の任務を差し引いても体力と精神力をゴリゴリと削り、それだけでは飽き足らず皆の睡眠も削り取っていく恐ろしい一大イベントである。今回は砂と連携した試験らしい。詳しくはあまり流れてこないが。

「まあ、五代目様がなにを考えてるかなんて分かんないけどさ」

こう、破天荒な方だから。

「新さん、それ下さい。手伝いますよ」
「あああ…有り難い…」

瀕死の奴が瀕死の奴を助ける。ここには変な連携と確かな絆があった。ネジのエントリーシートを見つけて気分もだだ上がり。

「!…ネジだ」
「ネジ君か、成長したよなぁ前の中忍試験から!」
「え?」
「ほら、あの頃のネジ君って、こう言っちゃ悪いけど結構つっけんどんでさ」
「日向ヒナタに対しての態度とかな!」
「はは、それわかる。…でも変わったよな、確実に」

…成長…か。確かに前はもう少し幼い顔つきだった筈。背も、また伸びてそろそろ俺と並びそう。皆が変わったと言うのは多分、分家と宗家の和解とナルトがネジにもたらした影響のお陰だろうな。…成長。それはネジがどんどん大人になって俺の手を借りずになんでも一人で出来てしまえるようになるからで。…ずっと、俺はネジの傍に居たから。いつかネジが、一人の一人前の忍になるのが、少し、いやかなり怖い。だって、俺はネジが赤ん坊の時から一緒で。両親を失った俺の、唯一の支えがネジで、ネジが、俺の全てだから。…なんていうのかな……寂しい?…置いていかれる?

「おーい?新?悪かったって、別にネジの悪口言った訳じゃねーんだ」
「…あ、あぁ、大丈夫。…なぁ、お前んとこの末っ子も今回中忍試験受けるんだよな?」
「え?ああ、そうだよ」
「…なんか、寂しいとか思わねぇ?」
「そりゃ末っ子だし、中忍になりゃあ危険な任務も増えるから、心配だ。…でも、それ以上に期待してる」
「き、たい?」

期待って、なんだよ。心配だけど期待の方がでかいってのか?

「誇らしいって、思わねぇ?忍ってのは才能だけでも優劣をつけられる傾向がある…でも、それを掻い潜ってどんどん一人前になっていく…寂しいけど誇らしいじゃねーか」
「…」
「ほら、手動かせ。今回の中忍試験は成功させような」

…俺は、ネジに固執している。生きる糧を与えてくれたのはネジだから。…俺たちは兄弟じゃないけど。似たようなもので。…だけど、俺も上忍で、ネジは中忍に匹敵する頭脳も体力も技術も持ち合わせている。俺の手を完全に離れた時。俺はどうなっているんだ?




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