02.この手で傷つけたいだけ

地下帝国。そんな言葉が似つかわしい暗い刑務所のような場所の入り口に一人の少年は呆然と佇んでいた。"暗"の字がその入口の真上に灯りに照らされながら物々しい雰囲気を放っている。静まり返った、少年以外誰もいない。その空間に軽くビビりながらも少年はその扉を開けた。長く続く扉一つもない廊下を進んで指定された扉を開く。まさに、刑務所。否、刑務所ではないのだが。鉄で造られた丈夫な扉と、鉄格子が嵌め込まれた小さめな窓。その格子は下の部分が丁度何かをうけ渡すような構造をしている。装備室、そう書かれたプレートが青々と電光で光っている。なにもないその部屋に待機を命じられた少年はその場に突っ立っていた。小さな白球灯がその部屋を照らしている。どれくらいそうしていただろう。その格子窓に面の男が近寄った。

「これが、貴方の装備一式です」
「ありがとうございます…」

一式…そう言われたものを両手に抱えて男の見送りを受けてその部屋を出る。手に防具を、先ほど彫られた炎の刺青が晒されるアンダーを。背中には刀を、そして顔には…

「父さん、母さん、…シカマル俺………暗部になったよ」

正に鹿のような面を顔に装着する。鏡を見つめた。…昔、幼い頃に暗部の姿を夜中外で見かけたことがあった。あの頃は彼らがなにをしているのか解らなかったけれど、その時シモクは暗部が畏怖の代表になるほど怖がった。服装もそうだが、顔を隠すこの動物を摸した面がなにより怖かった。それがどうだろう。今、この鏡に映るのはその時怖がったそのままのものだ。背中に背負う刀。顔を決して見せない面。左腕に刻み込まれた炎の刺青。自分がかつて忌み嫌った、あの姿がここにいた。

「……シカマル…」

シカマル。最愛の弟、シカマルはもう6つだ。暗部をわかっても、しかたがない歳だ。暗部の主な任務内容は要人警護の他にも里内での戦闘。里外での隠蔽工作。撃退。有事の際は最前線での戦闘。秘密裏の諜報活動。暗殺。…その他にも、もっともっと。汚い仕事も請ける、それが里の暗部達だ。日のもとに晒されず影で動く忍。家に帰ることも当然できるが、暫く弟の顔は見たくなかった。自分がどれだけその身を血に染めたのか、その純粋な弟を見て思い知るのが怖いから。…平気だろう。自分が家に帰還するときには深夜だ。着替えを持って風呂入って、また此処に戻るだけだ。……誰も起きてはいまい。両親はともかく、シカマルはさすがに爆睡しているだろう。鉄爪がついた手を一度眺めてから再度、振り払うように面を付け直した。本当のことを言うなら泣きたかった。なぜ、俺が選ばれたのか。なぜ、俺だったのか。女々しいと言われたって構わないが、突然過ぎたのだ。あれよあれよとあっという間に自分は暗部の人間になっていた。これから直ぐに任務につかされるらしい。そんな、まさか。唐突過ぎだ。下忍と中忍を彷徨っている微々たる力量しかない自分が行き成りAランクを飛び越えてSランクの任務を遂行できるわけがなかった。自分を殺す気なのだろうか。

「……短い人生だったけれど、後悔はないかな」

未練は多々あるが、後悔はない。いつも自分に真っ直ぐに生きてきて良かった。そう、真っ直ぐに生きていて…良かった。

「……いってきます」

唯一悔いがあるとすれば弟の成長を見れなかったことだけ。脳裏に戦友の姿がチラついたけれど、シモクは頭を左右に振り歩き出した。




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