34.かみさまの受難

「え…好きな女の、タイプ?」

シモクはクラッシュ寸前だった。何故、一体どうゆうことなのか、それさえも考えられないらしい。大事な大事な、弟シカマルに好みの女性のタイプを聞かれた。図らずしもそれはショックなことである。暗部の任務でよく大名の娘、いわば姫君の護衛を賜ったり。はたまた暗殺で、色任務なんかもこなしてきたシモクにこの質問は予想外のショックである。

「なんで…いきなり?」
「いや、気になっただけ」

スッパリと言い切ったシカマルの内心複雑だ。何故自分がこんな面倒くさいことを聞かなければならないのか。それはこの兄の親友にして戦友の新からお願いされたからである。"シカマルに聞かれればてんぱってべらべら喋るだろうから。"…という理由らしい。

「好きな…女なんていないし、作る気も全くないんだけど」
「だから、理想だっつってんだろ」

わたわたと慌て出して棒アイスを落とした。本当に生涯独り身でいる気なのか。自分でさえも最終的に将来、嫁は欲しいと思っているのに。

「…そうだなぁ…考えたことなんてなかったけど…」

うーん、と腕を組みながら頭を悩ませる。シカマルはその様子を横目で観察。聞いたこともない、兄の好みなんて。

「…難しいけど、やっぱ、答えられないかな!」
「は?」

あんだけ悩んでおいて答えがそれ?なんとも肩透かしを食らった気分だ。

「だって俺、忍だし。きっと、後悔させるから」

遠くを眺めるような瞳に、思わず黙り込む。別に、そんな顔させたかったわけでもないし、ただタイプの話をしただけである。

「…なんて、自分に守れる自信がなくて逃げてるだけなんだけどね」
「暗部だからって、言うつもりじゃねーよな」
「……いや、言わないよ。でも暗部も忍。いつ死ぬかわからない身の上だから。俺は、
母さんと結婚した父さん程、強くはない。」

シモク自身も、シカマル自身も、最近わかってきたことだ。シカマルの才のほうが、断然上であると。生命力に漲るシモクもそれは才能といえば才能だ。だが、奈良家には奈良の血筋がある。圧倒的なセンスと、驚異的なIQの高さだ。影を操る能力も弟の方が秀でている。それをわかってて、劣等感を与えないようにシカクが暗部へ移籍させた一つの理由だった。いくら大人びていて、優しい兄として振る舞うシモクもさすがに堪えるものもある。それが揺れに揺れ動く歳頃であったなら。

「だから、俺は女は作らない。タイプもない。それが答えかな」
「…ふぅん」

兄の事を、前より理解してきたと思っていた。だけど、それもまだなようだ。

「でも。まぁ…そうだなぁ…家庭を大事にする人かな」
「家庭を大事にする人?」
「うん。俺が居ないときでも、もし家族がいたらその家庭をずっと護っていける人」

シモクの横顔を盗み見ても、ただ顔だけは笑いもせず天井をぼんやりと見つめていた。その顔は、父に似ていた。

「そうだ、シカマル。サスケ奪還任務の隊長をするって本当?」

はぐらかされた気がした。

「ああ…そうみたいだな。」
「中忍試験で受かったの、お前だけだもんな」
「俺、お前なら上手くやる…なんて思ってないから」
「は?」
「下忍を卒業したばかりのお前が、すぐに成功させてくるなんて思ってないから。」
「…なんだそれ」

自分だって、それとなく、いや。不安の最中に立たされているというのに。その、一切期待してません、なんて遠回しに言われた言葉がツキッと胸に響く。…尊敬している人物に言われたなら、尚更だ。

「…よく聞いて。お前はやっぱ天才だ。下忍から中忍になりたてで隊長を任されるんだ。それはすごく、光栄な事で。間違った人選ではないと思う、だけど」

やっぱり、若すぎる。知らなさすぎる。

「アスマさんとどんな任務に挑んだか、俺はわからない。第十班がどんな苦難を越えたかなんて知らない。…でも、もう頼りになる隊長、上忍はいない。お前がその立場に立つんだ。それなりの覚悟も必要。…リスクも視野に入れながら行動すること」
「…アスマと同じこと言うんじゃねーよ。うっせぇな」
「…俺は、心配で…」

言葉を呑み込んだ。心配なのは、本当に不安なのはシカマルだ。これ以上不安感を煽いだ処でどうしようもない。

「…帰ってこいよシカマル」
「縁起でもねぇこと言うな、めんどくせぇ」
「…だな。よし、シカマル。風呂上がったらプリン食おう?旧友から貰ってさ〜」

シカマルの頭の裏でめんどくさい予測がついた頃にはシモクはタオルをぶんぶん振り回して浴室に消えていった。

「久しぶりに二人で入る!??」
「でかい兄貴と一緒じゃ狭い」
「えぇー…」

心底残念そうな声が聞こえたが無視した。




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