33.ぬくもりのほどけない朝

「シモク君は確か甘いもの好きだったよね?これね、作ってきたの」
「え?俺に?ありがとう!俺甘いの好きなんだ」

パステルカラーの紙袋から飴色の焼きプリンを取り出したシモクは心底嬉しそうに笑った。その笑顔は、自分がさせる笑顔ではない。自分に向ける笑顔はいつも我儘を言う子どもに仕方ないなぁというような優しい顔だ。違う。違う。わかってしまう。表情ひとつで。嫌でも突きつけられてしまう、埋まらない歳の差と経験の差、生きている時間。悔しくなる。自分が生まれる7年も前からこの女はシモクを知っていた。彼の幼い頃のことも知ってる。それが無性に悔しくなったし悲しかった。

「わざわざありがとう。俺、贈り物なんて家族以外でアカデミー卒業以来かも」
「言ってくれれば何度だって作るよ?」
「本当?……これ、シカマルと半分こしよ。」

そう、シカマルを脳裏に呼び起こしたんだろう。プリンを見つめながら、その顔はどこまでもどこまでも深く優しく。その瞳の奥に、確かに見える"愛情"。

「レンカは料理が得意なんだな。知らなかったよ」
「お、お母さんの受け売りだけど…」
「俺も小さいとき弟にケーキ作ったことあるんだけど、全然上手くいかなくてさ。
だから、レンカはすごいと思う」

頬を真っ赤にして、レンカは惚けたようにシモクを見上げた。「いの」突然声を掛けられてびくりと肩が跳ねた。

「ごめん。先帰ってくれるか?俺レンカになんかお礼してくる」
「え…」
「じゃあな。いの。ちゃんと帰るんだよ」

瞬間、いのは反射的にレンカを見た。その顔は以前自分が彼女にしてやった顔と同じだった。最後に頭を撫でた。それは、その行為には確かな家族愛が込められていた。

「お礼なんて…私が好きでやったことだし」
「また作ってくれるって言ったから。その先のお礼も込めて。」
「…じゃあ…喜んで」

そんな会話をしながら二人の背中は遠ざかっていく。どうすれば、自分をその瞳に映してくれるのか。どうすれば、自分を妹ではなく一人の女として見てくれるのか。

「どうすればいいの…」

あの女のような色気も料理の腕もない。ただシモクが好きだという感情だけが突っ走っていて。…そもそも自分はいつからシモクが好きなのか。いつだったのかさえわからない。シカマルの兄。自分達より7つ年上。人を愛すること。サスケの時と比べものにならないくらい、苦しい。このまま、あの女にとられてしまうようで…怖い。

「新」
「カカシさん」

二人とも、思うことは一緒であるようだ。冷や汗を流しながら目の前の少女2人に視線を落とした。つかの間の休憩と思って茶屋で一服していたのだが、そこに泣いたいのが現れるわサクラが危機とした顔で飛び込んでくるわ。なんなんだ今日は。

「えっと…なに。どうしたの一体?」
「女落としのプロである新さんとカカシ先生に聞きたいことがあるの」
「女落としって…」

酷い言われようだがカカシはそれなりに遊んだ前科があるため否定は出来ない。

「どういう女に興味そそられる?」
「「ブッッッ!!!」」

勢い良く新とカカシはお茶を噴き出した。なん、なんでそんなことをアスマの生徒に話さなくてはならないのか。いのいちさんの耳にでも入れば自分の身が終われる自信がある。

「ど、どんな女って…ほら!時と場合によるじゃん?」
「そうそう。特に夜なんか無垢な少女に声かけると思う?犯罪だからねそれ」
「カカシさん、カカシさんこそフライングセクハラですよその言い方」

どやっ、とした顔で湯飲みを持つカカシに突っ込んでから向き直った。

「どうしていきなり?なんかあったの?」

黙り込むいのに変わってサクラが口を開いた。どうやら、いのはまさかと思っていたがシモクに恋していたらしく、そこにアカデミーの頃同級生だった草間レンカという女が現れて。彼女もシモクに昔から恋心を抱いていたようで、いのは今日も元気にアタックしていたがその女が現れてシモクを奪われてしまった。…という。

「あたし、確かにシモクさんより年下で女の色気もないし妹だって思われているのわかってる…でも、好きなんだもん。あの女に盗られたくないの!」
「…あいつは昔から特定の女は作らなかったからね。」
「シモクはそういうのに疎かったですもんね」
「だから、シモクを落とすのは簡単じゃないぞ。」
「あたしの気持ちはその程度じゃ負けないもん!!」

いのの眼を見てサクラとカカシは頷いた(仲いいな第7班)そうして新も微妙な顔をしていたがようやく仕方なさげに頷いた。

「あ。いた」

そう新が人差し指を一軒の店に向けるとササッと隠れる上忍1人と、くノ一2人。なんともアンビバレンスな絵面だ。こんなに目立つ人物、特にカカシが影からの尾行などなにかの一大事なのではないかと思われても仕方のない程、真剣な顔をしている。"どこぞの馬の骨だか知らない女"と最終的に溢したカカシだが、なんだかんだ後輩のシモクを心配でもしているのだろうか。

「うわ、なによあの女。なんかむかつく」
「サクラ、しーっ」

女向けの化粧やらあぶらとり紙やら練り香水やら。そんな雑貨屋で目立つのがあの二人だ。シモクも奈良家の人間でそこそこ顔が割れている為に、こうして女を連れて歩いているのが物珍しいのか、周りの客も小さく騒ぎ立てている。それに気づいているのか、シモクは落ち着かないようだ。逆にレンカは周りの勘違いが嬉しいのか頬を染めっぱなしだ。これは、なんとなくウザイ光景。話に聞けばなんか食べ物を貰ったとかでそのお返しをするためにシモクは律儀にレンカを連れ出したのだろうが、完全に女のペースに呑まれている。それもシモクの魅力なのだけれどもう少しシャキッとしてほしい。新は苛々が溜まってきたのか若干表情が引き吊っている。当然だ。なにが悲しくて親友の恋慕に介入しなければならないのか。あいつはあいつでなんとかするだろ。いや、しろ。と、全力で言いたいところだが今回はいのも絡んでいる為、どうも無下にできない。お人好しな新はどっちつかずの狭間につっ立っていた。因みにカカシはいのの肩を持つ気満々である。

「あっ、店出るわよ!!」

サクラの言う通り、二人は店を出た。レンカの手にはシモクから買ってもらったものであろう椿の模様が入った袋を提げており。また、いのをナイーブにさせる要素満載で可哀相だったが。こうなったら乗りかかった船だと思い、いのに協力しよう。

「レンカ。これありがとう。シカマルと食べるよ」
「私こそありがとう。大切にするねこれ」
「ん。楽しかった、バイバイ!」

あくまで友達のようにあっさりと解散するシモクに少し不満そうなレンカだったが暫くその背中を見つめ、仕方ないなぁというように笑い、袋を大事に抱えて帰っていった。

「…シモクさんってよく知らないけど、天然?」
「本人に悪気は全くないんだ。」

サクラはシモクとは関わっていなかったから、今の印象は微妙そうだ。女に期待だけさせて去っていく。これが無自覚の悪気ゼロというのだから女の敵とも言いたくなる。

「いの。本当にあの人が好きなわけ?」
「ケチつける気?」
「そうじゃないわよ。」
「あたしはシモクさんが好きなの。追いつきたいの。一緒に歩いていきたいの」

これは本気だ…。新はサクラの視線を感じた。嫌な予感がする。

「新さんシモクさんと同期なんですよね?好みのタイプとか聞いてきてくれません?」

ほらきた。




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