30.沈んだもの、追想は遥かまで

「報告します。三竦みの戦いは苦戦の末、大蛇丸を退ける事に成功。自来也様、綱手様、うずまきナルトは存命。四代目秘伝の螺旋丸の修得を無事完了、帰還するとの事です」

暗部の面からして、こいつは火影直属…三代目が亡くなっても結束固く動いているということか。新は暗部の報告に耳を貸ながらカカシを見上げた。三竦みの戦いともなれば巨大口寄せ動物3体が激しくぶつかりあったということ。実物を見たことがない新は是非とも帰ってきたらナルトに状況を聞き出そうとしていた。

「なーに。」
「いえ。なんでも。」

からかってやろうとも思ったがやめた。気がそがれた。カカシをはじめとする新達少数の上忍は別名、特別上忍という。実戦に秀でた、尚且つ賢く上忍の中でも火影の器に収まるよう訓練されているのが彼ら、特別上忍だ。奈良シカクに並び、火影の信頼おける組織といっても良い。新はあの木ノ葉崩しから持ち上がりで特別上忍に押し上げられた。主にカカシによって。

「どうせ、自来也様達の戦いをナルトに聞き出そうとしてるんでしょ」
「…カカシさんてエスパーなんですか」
「阿呆、そんなに顔に出てるのにわからないわけないでしょ」

え、俺ってそんなに顔にでやすい?

「じゃあ、綱手様が五代目火影を引き受けたと…それでいいんですね?」
「はい。報告は以上です」
「ご苦労。」

カカシの一言に面は頷いて瞬身で退出した。

「てわけで。新しい火影様が就かれる。各自準備にかかれ。上忍中忍も総動員してな。それと…今指名された者だけここに残れ」

以上、解散。


「え。俺っすか?」
「そう。お前も中忍だからね。手伝って貰うことはいっぱいあるんだ」

新はまだ中忍に成り立てのシカマルを呼び止めた。あの中忍試験唯一の合格者。自ずとその才能に期待する者達のなんと多いことか。

「…これはあまり郊外されていない事だが、お前に中忍としての任務を課す」

声を潜めた新に答えるようにシカマルも顔を引き締める。

「…うちはサスケが大蛇丸率いる集団、音忍に連れ去られた。奈良シカマル。お前は
"うちはサスケ奪還作戦"のリーダーとして、受けてほしい」
「!!……わかりました」
「今はまだ行動はするな。直に五代目火影様より正式な召集がかけられるだろう。」

力強く頷くシカマルにどこかホッとした顔を浮かべるのは勘弁してほしい。これでも小さい頃からシカマルと関わってきたのだ。親心が嫌でも湧いてしまうのは仕方ない。最も、今は任務の内容をおおまかに先に伝えたに過ぎず。無論、カカシが最も信用する上忍数名と上層部はこの事は既に把握済みである。ただ新達上忍達だけでは手が回らず、こうしてシカマルに白刃の矢が立ったのだが。うちはサスケが何故今になって大蛇丸に拐われたか。もしかしたら、あの試験の最中既に布石を打たれていたのかもしれない。うちはサスケはうちは一族の生き残り。故に写輪眼を宿している。写輪眼を欲する者など数知れず。使い手もその力に飲み込まれてしまうというのだからそれは最早パンドラの箱としか言えないのではないか?

「敵の人相は割れているんですか?」
「いや、我々も直接対峙したわけでもなく。…ただ、あいつらは音忍。しかも相当の手練
だと…そう報告が上がってきている。これは決して軽い任務ではない。」
「わかってます、…精一杯、やります」
「…もし、なにか不安要素があれば言ってくれ。暗部を同行させる事も視野に入れている」
「…わかりました」
「お前の下につく下忍はこれから選抜する予定だ」
「……あの、新さん…なんでその任務を、俺に?」
「適任だと。そう判断したからだよ。俺個人としては勿論、他の皆もそう判断した」

昇格し立てとはいえ、飼い慣らしている時間はない。一つでも多くのことを経験し、体験していかなければ良い忍は育たない。特にシカマルは、実戦で成長できるタイプだ。机上の作戦はもちろんだが、シカマルには状況を己の目で見極めてこそ真価を発揮する。上層部とカカシ達はそれを見抜いたまでのこと。アスマの口添えも相まって、更にだ。

「じゃあ、頼んだよ」

木ノ葉の未来はまた今日も刻々と変わってきている。新は顔岩を眺めた。初代先手柱間からその弟、扉間と続き、その弟子である猿飛ヒルゼン。波風ミナト。ヒルゼンの弟子である綱手…。代々由緒正しき系列を辿っている。それは現在でも生きている。それがカカシ率いる第7班だ。平和な里を、世界を祈っている。それは皆同じこと。…新も、そう願っている。だがあの第三次忍界大戦以降、まだ戦いを望む里もあるのは否定できない。どんな綺麗事も、この忍の世界では一切通用しない。圧倒的力で捩じ伏せ、説き伏せるしかないのだ。"影"を名乗る忍五大国が団結できていないというのに、世界が繋がるのは更に難しい。それは、承知の上だ。それでも願ってしまう新は、愚かなのか聡明なのか。どちらにしてもそれは優しさや甘さが招く理論であり、やはり綺麗事になってしまうのか…。あ。と声を出したのはどちらが先だったか。デジャウだが、確かこの子はカカシの班の紅一点だった筈。

「こんにちは」
「やあ、君は確か…カカシさんの班の」
「は、はい。春野サクラです」
「ん?可笑しいな。前あった時は髪の毛長かったよね。」
「あ…えっと…イメチェンですよ。イメチェン。」
「そうか。俺は短い方が似合ってると思うよ」
「えー、本当ですか?」

女心に疎い新はそのイメチェンが、不本意なイメチェンであったとは全く気づいていない。サクラにはその鈍感がむしろ救われているのだ。理由を察せば、腫れ物に触るように接されるのがどこか辛いのだ。それが新は一切ない。ただ鈍感なだけである。これがカカシ辺りなら察していたことだろう。

「似合ってるんだからそんな顔しないで。」

そう諭せばサクラは白い頬を少し照れくさそうに染めた。新にはいつか天然タラシという異名が付きそうだ。




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